「せっかくだから、乾杯したいな」
豪華な食事を前に、若頭は実に楽しそうに提案した。
「ねえ、先生」
お願い、と拝んで見せる。
金庫番は眉間の皺を緩めることなく、
「少しだけだ」
「やったあ」
無邪気な歓声が響く。
磨かれたグラスに赤い液体が注がれると、彼はうっとりと目を細めた。硝子の欠片を日にかざす子どものようなあどけなさだ。
「すみません、カルエゴさん……首領から……」
影のように部下が金庫番へと囁きかけた。
二言、三言、言葉をかわすと、カルエゴは眉間の皺を深くし、手短に指示を下す。
「何かありましたか?」
「貴様には関係ない」
切って捨てる勢いで言うが、ふと、思い出したかのように、彼を顎で指した。不敬もいいところだ。
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