Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    JitoOkami

    @JitoOkami

    @JitoOkami
    基本的に成人向け。
    最近はパッチのすけべばかり。
    又は小説や漫画になる前のネタ墓場。
    過去にはエロくないアンダーテールと喪黒さんが少々。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 94

    JitoOkami

    ☆quiet follow

    ラーヤの旅、新天地

    https://poipiku.com/31276/8499878.html
    https://poipiku.com/31276/8513256.html

    背筋を伸ばして③ 気が付けば辺り一面雪景色の極寒の地で、パッチさんと手を繋いだまま息も絶え絶えで震えながら身を寄合い、へたり込んでいた。
     何処ここ…。何処でも良いから遠くへ、なんて慌てすぎて全く来たことないとこ来ちゃった…。遠くに家みたいなものが見えるけど、こんな所に誰か住んでるんだろうか。
    「ハァ、ハァ……はぁぁ…お前がいてくれて助かったぜ。流石に死んだと思った」
     未だ半泣きではあるが一足先に落ち着いたパッチさんが先に立ち上がり、私の手をぐっと引いて立たせてくれた。
    「もう…あんなところで何やってたんですか」
    「いつも戦闘で使ってる粉が無くなっちまってな。その材料採取だよ。たまに行くとこだから慣れてんだが、今日はちと欲張りすぎてポカやっちまってな。まぁでも、ホラ」
     お前のおかげで捨てずに済んだと、パッチさんはニッと笑いながら腕に抱えている大量の赤い石を見せてくれた。蟻酸石といって、あの場所でしか採れないものらしい。
     パニックで全然見てなかったけど、そんなもの抱えながらあんな動きしてたの……? この人の身体能力どうなっているんだろう。
    「てか、何やってたんですかは俺のセリフなんだけど。観光にしちゃ随分エキセントリックなチョイスだが?」
    「観光な訳がないでしょう。ちょっと迷い込んだらあそこに出ただけです」
     と言ったところでお腹が鳴った。恥ずかしすぎる。
    「なるほど飯を求めてた、と」
    「違いますよ……」
     結果的にちょっと正解だけど…。
    「気にすんなって。俺も腹減ってんだよ。よかったら食ってくか? 命の恩人だし、お前の分くらいは奮発してやるよ」
    「うーん……」
     正直この人は火山館の頃からあまり信用できない。タニス様や私には害がなかったけれど、基本的に根性が悪いのが普段の態度から察せられていたから。人相も悪いし。

    キュゥゥゥゥ…

    「また腹鳴ってるぞ」
    「うーん……!」
     ……でも今は背に腹は変えられない。あれだけ用意したはずのパンも無くなってしまったし。
    「よろしく…お願いします」
    「おう。任せとけ」
     そう言ってパッチさんは地図を取り出し、「確かこう行ってこうだったかな」とかなんとか独り言を言いながら「よし。ここまで飛んでくれ」と手を差し出してきたので、世間知らずの私は何の疑いもなくその通りにした。

     この男の言うことはやはり聞くものではないと、この二分後思い知ることになる。

    *

    「コラァァァ!! 泥棒ォォォ!!」
    「今だお嬢さん! ワープ!」
    「またこのパターンですか!!」

     さて、その『思い知ったこと』というのがコレです。
     先程テレポートした先は世捨人然とした放浪商人の目の前で、手を繋いだ謎の男女が目の前に唐突に現れて呆気に取られたおじさんの隙をつき、側にあった備蓄の食糧をパッチさんが物凄い速さで両腕に抱え込み、ことが済んですぐ私にその腕を掴ませ、再び元いた場所にあのように命じて飛ばさせた。
     つまり私は、ようやく知り合いに再会した直後、爆速で泥棒の片棒を担がされたのだった。

    「よし。アイツ結構持ってたな。好きなの食え」
     そう言いながらこの食事会のホストは抱えていたそれなりの量の干し肉や乾パン、チーズなどを嬉しそうに岩場に広げた。
    「どういう神経してるんですか??」
    「何言ってんだ。お前も共犯だろうが」
     盗品の検品を始めるパッチさんの姿を眺めがら、私はエレ教会にいる、つい先日お友達になった人の顔を思い浮かべて死んで詫びたい気持ちになって頭を抱えた。
    「……放浪商人は組合が厳しいのをご存知でしょう? 睨まれますよ」
    「大丈夫大丈夫。アイツこんな辺境に住んでる世捨て人タイプだし、なんなら後でミリエルんとこ行きゃみぃんな許してくれっから」
     唐突に知らない名前が出てきて面食らった。
    「ミリエル? さん?」
    「知らねえか? リエーニエにある結びの教会で司祭をやってる喋るでっかい亀。いぬじゃねえぜ?」
     そりゃあ亀なんだし犬ではないでしょう。 
     まぁ、蛇の娘がいるなら亀の司祭くらいいるかもしれない。半狼の男性といい、世の中にはまだまだ私のようなタイプの色んな人? 達がいるものだ。
    「その方が何か?」
    「おぅ。司祭サマってだけあって超が付く程のお人好しでな。まぁソイツの管理してる像の前でちょっと懺悔の真似事をすりゃ、何をやっても水に流してくれるんだよ」
    「それってどういう…」
    「何か知らねえけど、赦されるんだよ。随分前に、なんかイカつい喋るわんこ? に会った時も嘘の道教えて揶揄って遊んでたら殺意剥き出しでバチクソにキレられたんだけどな、ミリエルんとこ行った後にそのわんこんとこ行ったらケロッと全部無かったことになってたぜ」
     その喋るわんこってまさかカーレさんのお友達って言ってたブライヴさんじゃ……。
    「じょ、冗談みたいな話ですね」
    「けどマジよマジ。お前もなんか悪い事したら行ってみれば」
     パッチさんはそう言って、食事の準備に戻った。
     悪い事…か。
     私は生まれた事自体悪い事だけど、それでも許してくれるのだろうか。その優しい大きな亀さんは。
    「……そうですね、いずれ」
    「おー、そうしろそうしろ。さぁて、食おうぜ。沢山あるから遠慮すんなよ」
     パッチさんはゲストの私に『ご馳走』を(なんなら少し大きいものを選んで)当然のように差し出してきた。お腹は空いているけれど、流石にさっきの今では少し躊躇ってしまう。
    「気になるか? 盗んだものだろうが働いて手に入れたもんだろうが、飯は飯さ」
    「飯は飯……」
    「そーそ、この世の真理だよ。今更返しにいくのもアレだし、俺も借りのある腹すかした小娘差し置いて食いもん独り占めすんのはケツの据わりが悪いからよ。俺のためだと思って食え」
     寒空の下でひもじい思いをする先程の行商人や、カーレさんを思うと胸が痛む。
     ……でも。

    『……いいかい、お嬢さん。人間誰にでも止むに止まれぬ事情を抱えることがある。正しいかそうでないかに関わらず、そうせざるを得ない時が来る。それでもそれは、過去の選択の積み重ねの結果で、誰のせいでもないってことをよくよく覚えておくといい。結果それで命を落とすことになっても、だ』

     私はそれでも、食べることを選択した。
     改めて悪い子になってやろうという気持ちでもないし、カーレさんの言葉を都合の良いように解釈したわけでもない。
     ただパッチさんの自分勝手な哲学が、何故か私の根っこが不思議と少しだけ救われる言葉に聞こえたからだ。
     仕方なくではなくちゃんと意思を持って生きることは、苦しくとも案外痛快なのかもしれない。……なんて、恐怖から解放されてお腹が満たされたからか、私にしては少し楽観的なことを考えた。

    *

    「さてと。じゃ、俺は行くぜ。お前はこれからどうすんだ?」
     食事を終えて一息ついたところで、パッチさんはあっさりと立ち上がってそんなことを言ってきた。
    「特に目的はないです」
    「なんだよ家出娘。マジでノープランで出てきたのか。狭間の地ってそんなに治安のいい世界だっけ?」
     パッチさんの皮肉はいちいち腹が立つけれど、言い返せるほどの材料はないので黙ってしまう。
    「ま、俺には関係無えけど、せいぜい頑張れや。俺は帰ってやることがあるんでこれで失礼するぜ。じゃあな」
    「……えぇ。ありがとうござい──」
     いいのだろうか、これで。
     ただでさえ縁が希薄になってしまったこの世界で、最早生き残りが望まれる唯一の人と言って良い火山館縁(ゆかり)の人間との再会を、こんな簡単に終わらせてしまって良いのだろうか。
     ──いいや、ダメだ。
     ここでこの人を黙って帰したら、私は何か重大な機会を逃してしまう気がする。
    「待ってくださいパッチさん!」
     そう思って走り出し、強くその手を掴んでしまった。
    「私も一緒に連れていってください」
     案の定、パッチさんの顔が不機嫌に歪んだ。
    「バカ言ってんじゃねえよ。ついて来ても飯はもうやらねえぞ」
    「そうじゃなくて、…ええと、パッチさんの能力を見込んで、サバイバル技術を学びたいんです」
     引き留める理由は咄嗟とはいえ、一応筋のあることが言えたと思う。『招き手』の経験が妙なところで活きた気がする。
    「サバイバルねえ…。この世の終わりみてえな腐った木の根っこに丸腰で迷い込んだくせにガンガン進むような危機感の無いお嬢さんには難しいぜ?」
    「うぅぅそれに関しては返す言葉もありませんが、だからこそ、またそうならないよう能力を身に付けたいんです!」
    「わざわざンな七面倒なことしなくても、お前にはあんな立派な家があんだろうが。もう帰れよ。お前の女主人が心配して、」
    「あそこには帰れません!!」
     思ったより大きな声が出たが、その後は何故か震えてしまった。きっと寒さのせいだ。
    「……少なくとも、まだ」
     パッチさんの目に、私はどう映っているのだろう。でもようやく目線を合わせて、真摯な表情で見てくれるようになった。
    「ハァ……。いいか、俺はガキのお守りなんかする気はねえ。テメェのことと、ついでの曇り川の舎弟らのことで手一杯だからな。家出ごっこがやりてえんならせめて他を当たれ」
    「そのガキに、パッチさんは二度も助けられましたよね。私、役に立てると思います。汚れ仕事でもなんでも覚えますから」
     そう言うと、パッチさんの目がスッと鋭くなった。
    「何でもと言ったな。そんなに安くねえ言葉だぜ。……じゃあ聞くが、お前はいざという時躊躇いなく人を殺せるか? 汚物に塗れながら金歯一本を拾う覚悟は? お前の『女』を使えって言ったら、相手が誰であろうと股を広げられるか?」
     私の顔に熱いものが昇るのを感じた。甘く見ないで欲しい。そんなもので動揺するほど私は子供じゃない。
    「……やれというならやりましょう。ですが私はもっと高度な術(すべ)を、貴方から盗むことができます」
     握る手に力が篭る。屈してたまるか。
     ここで覚悟を見せられないようじゃ、私は本当にただそこに存在する呪いでしかなくなってしまう。
    「それに、パッチさん。よもやお忘れではないですか? 私は黄金樹に弓を引く背律の火山館の女ですよ。貴方にはか細く見えるだろうこの『招き手』が『か細い人間の寝首程度』、褥に潜り込み絡んでへし折ってやれないとでも? ……あぁ、だからパッチさん、私を連れて行きたくないんですね」
     パッチさんが値踏みするような目で私を見ている。
     男の人にジロジロ見られるのは慣れていない。でも思いつく限り言えることは言ったつもりだ。
    「……そういう啖呵を切る時はな、震える手を引っ込めて思いっきり笑わなきゃ効果半減だぜ、お嬢さん」
     言われてさっと掴んだ手を離そうとしたら、逆に強く掴み返されて息を呑んだ。
    「だが、悪くねえ。俺はガキは嫌いだが、ガッツのあるヤツは嫌いじゃない。その高度な術とやらを学んで、精々俺の役に立ってくれや。…アッチのこと以外でな」
     そう言ってパッチさんは私の手をぱっと離し、頭を雑にぐしゃりと撫でた。
    「使わなくて良いんですか? 貴方の言う『女』とやらは」
    「あー勘弁してくれ。ガキはシュミじゃねえし、お色気使うにも最低限の技術と才能がいるからな。俺には勿論、当面誰に対しても使うんじゃねえぞ。絶対失敗するから」
     よかった。ちょっとホッとした。
     ……ホッとしたけどなんだろう、このずっと失礼なこと言われてるような複雑な気分は。
    「……全面的に賛成ですけど、パッチさんてこう、デリカシーとかとは無縁そうですよね」
    「わかりやすくて有難いだろ。感謝しろよ」
    「ありがとうございます」
    「膨れっ面して言ってんじゃねえ。こう言うのはな、何処まで理解できてるか最初にはっきりさせた方がいいんだよ。後ろ盾も無しに生きるってのは簡単なことじゃない。お前からは良いとこの娘のお遊びじゃねえってところは見られたし、後はなるようになれだ」
     どうやら一先ず第一関門は突破できたようだ。
     ああああ…緊張したぁ。これヒトだったら確実に尋常じゃない汗かいてた。
    「…本当にありがとうございます、パッチさん。しばらくお世話になります。私頑張りますから、どうかよろしくお願いしますね」
    「……おぅ」
     改めてきちんと向き直ってお礼を言ったら、パッチさんは不機嫌そうに目を逸らした。
     なんで?? 私今度は膨れっ面じゃなくて自然と笑って言った筈なんだけど。本当にわからない人だ。
    「さぁて…どうしようかね。曇り川は手狭だからあんまり連れて行きたくねえしなぁ……」
     パッチさんの独り言を聞きながら、改めて景色を見渡す。
     空は怖いくらいに青く雲ひとつない…いいえ、いつも見上げている雲は海のように足下に広がって、雪原には凍てついた木々や動物達の霊が陽の光に透けてきらきらとしている。
     全ての時間と命が眠っているかのようで、今まで見たどの景色よりも浮世離れしていていて、ただひとつ黄金樹だけが、地上から伸びている。まさに天上の場所だ。
    (死んだ後に見る景色ってこういうのを想像していたな……)
    「おーい、何ぼーっとしてんだ! 動かねえと寒さで普通に死ぬぞ!」
    「! はーい! すぐ追いつきます!」
     いけない。景色に見惚れていたらパッチさんに早速置いて行かれた。

     故郷も、思い出の地も、その影すら見えない。
     そんな自分の過去から一番遠いこの土地で、私は何ができるのだろうか。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works