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    RSL2_hk7

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    終わらせるのを諦めたので

    読書の秋と相棒を尋ねて訪れた図書室には数人の生徒が読み耽っている姿が見て取れた。
    そんな中、見覚えのある色の頭部が目について思わずそちらへと歩いていけばちらりと向けられた視線がこちらを捉えると一瞬眉がぴくりと動く。
    静かな室内で大声を出すのはタブーである。
    そうして隣りまでやってきては椅子を引いて、少し声量を落として声をかければ先輩もいつもよりも抑えられた声量とトーンで口を開いた。

    「どーも、司センパイ」
    「彰人……は、冬弥待ちか」
    「そうですよ。……もしかしてセンパイだと思ったんすか?」
    「……ふっ、少しだけな」

    落ち着きを持った彼の声にどうにもくすぐったさを覚えながら、ここにいることを知らなかったのだから目当てにしているのはおかしいだろう、なんて流石に自意識過剰だとからかいそうになった言葉を飲み込む。
    昨日の昼ぶりに顔を見たのが少し嬉しくて、期待を持たれていた回答にまで頬が緩む感覚がしたからだ。
    なんとなく気づかれたくなてそれを誤魔化すように口数が増えていく。

    「なんか今日人多くないですか?」
    「今は読書月間だろう。それに読書の秋とも言うからな」
    「そういうもんですかね」

    活字が多いと眠気を誘われる自分には存外分からないものだなとつまらなさを覚えながら先輩の開いている本へと目を向ける。
    読めない文字が並んでいるそれは昨日も読んでいたような気がする。
    隣りに置いてあるのは英字辞典だろう。
    一部分にマーカーが引かれたり付箋が挟まっているそれは自分も持っているものだから見覚えがある。

    「それ、昨日も読んでませんでした?」
    「あぁ。まだ途中だからな」
    「でもそれ英語ですよね。センパイには読めなくないっすか」
    「だからこうして辞典を引いている」

    勉強は得意でない所は自分によく似ていて、それも好きなことを優先してしまう辺り親近感を覚えたのもだいぶ前だった。
    それでも勉強の方法を変えたり、最近はこうして苦手なものにも取り組むようになっている姿を何度か見ている。
    心境の変化なのかそれとも、なんて考えていると急に黙り込んだのが気になったのか不思議そうな声で名前を呼ばれてハッとした。

    「どうかしたのか?」
    「別にどーもしてないっすよ」

    昨日と同じ距離感で思わず話をしていたがここには人の目があることと本来の用途を思い出してこちらを気に掛ける先輩へ目の前に目を向けるよう進める。
    本を読むわけでもない自分は完全に場違いで、そんな居たたまれなさに加えて言葉を交わさない分や肩を寄せられない分、そして少しずつ変わっていく先輩に距離が開けたように思えてしまえばまた口を開いてしまった自分の堪え性のなさを嘲笑う。

    「それってどんな内容なんです?」
    「ん? これは海外でよく上演されるショーの原作だな」
    「ふーん。おもしろい?」
    「無論だ!」

    少し大きな声が出たことで気をつけるようカウンター越しに咳払いをする相棒と目が合って思わず二人で冷や汗をかきながらまた口を閉ざして沈黙が戻ってくる。
    目の前の物語へじっと向けられた視線は時折隣りの辞典へと移り、パラパラと捲られてはまた本へと戻される。
    そんな様子を眺めながら終わってしまった会話を寂しく思っては先輩の制服の裾を握れば囁くような声をかけられた。

    「……どうかしたのか?」
    「……何でもないっす」

    図書室なのだから会話するのはあまり良くない。分かっている。
    けれど不安に駆られてしまったのがどうにも居心地が悪くて温もりを求めてしまう。
    こんなことなら図書室になんて来なければよかった。
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