#司彰版深夜の真剣創作一本勝負
第8回『声』
待ち合わせにした駅前に着くも先輩の姿が見当たらない。
人混みをかき分けながら建物の陰へと移動して駅に着いたこと、そして自分の居場所と先輩はどこにいるのかとメッセージを送る。
程なくして既読されたそれに安堵しつつ辺りを見渡しては見覚えのある明るい髪色の頭を探すが、相変わらず目につかない。
大概先輩が先にこちらを見つけて大声で名前を呼ばれ注目を浴びる、というのがテッパンとなりつつあるデートの始まりを思い返しては少し頬の辺りが引き攣った。
返答のないメッセージ欄。
いつもならすぐにでも返してくれるか見つけてくれるのにそれがない今日はどうにも違和感を覚える。
とりあえず電話してみよう、そう思って通話ボタンを押すも出る気配は無く耳元では着信コールが鳴り続けた。
何かあったのだろうか。
そう思いながら電話を一度切ろうとした瞬間に肩に重みがのしかかる。
びくりと跳ねた体。
少し速くなった心音のまま背後を振り返ると探していた男の姿があって咄嗟に安堵のため息が漏れた。
イヤホンを外しながら発した第一声は驚いてしまったことに少しの照れくささを感じて生意気なものになってしまった。
「……いたなら言ってくださいよ。今日は珍しく静かなんすね」
そう言えば困ったように笑う。
その様子がどうにもおかしくて安堵したのも束の間、顔には心配の色を浮かべてしまった。
「……司センパイ? なんかあったんすか?」
「……」
返事はない。
思わず眉を顰めれば、先輩の手が喉元へと触れる。
喉を擦る彼の顔は相変わらず困ったように笑っていて、普段あれだけ騒がしい男が静かな理由らしいそれがふと頭に過ぎった。
「……は? 声、出ないんすか?」
「出しづらいだけだ」
ようやく聞こえたそれはいつもに比べてとても小さなもので、さらには掠れているようにも思える。
「ちゃんと名前も呼んだぞ」
「……え? なんすか?」
そう聞くことのない小さな声量では人混みだと聞き取りづらい。
少し距離を詰めて耳を寄せると何故かぐっと肩を押されて距離を置かれてしまった。
スマホを取り出した先輩は指先を動かして、止まったと思えばこちらのスマホから通知音が聞こえてメッセージを送ったことに気がついた。
―朝起きたら声が
「いや、だったら今日はやめて……」
「っ!!」
突然手首を掴まれる。
驚いて見ていたスマホから顔を上げると目の前の男はどうにも焦った顔をしている。
「えっ、な……なんすか?」
そう問えば先輩の口は動いたのに紡がれたはずの言葉は耳に届かない。
首を横に振るのを見て