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    otk_ota

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    人の死(勘違い)を都合よく利用するさいて~な話を書きました マモいぶでありマモ虐です

    不謹慎Nプラン 魔界には寿命がわかる魔法のアイテムがある。死神の望遠鏡と言われている。
     伊吹が魔界に来てから早数年。彼女はまだ若い。人間の中でも若者に分類される年齢である。しかし悪魔たちにとっては人間の若者が老いて死ぬまでの時間は瞬きの間に等しい。
     ある日マモンはベールと肩を並べて元気よくご飯を食べる伊吹を見ているときに急に不安になった。こいつ、すぐ死んじまうんじゃないか?
     そこで彼は通販サイトで死神の望遠鏡一日使用券を購入した。金欠になった死神がたまに発行して売るのである。しかしマモンはこのときサイトがジョークグッズ専門サイトであることに気が付かなかった。デモナスで酔っぱらっていたのである。ちなみにマモンが買ったのは望遠鏡を通して見える者すべての寿命が「残り一日」と表示されるものである。
     翌日、宅配便で届いた券に魔力を込めて望遠鏡を召喚し、マモンはドキドキしながら望遠鏡を覗き込んだ。伊吹を思い浮かべると、彼女の姿が見える。伊吹の頭の上には大きく「残り一日」と表示されている。
    「ハァ!?」
     ここでマモンは選択を誤った。気が動転していたのだから仕方がない。
     伊吹の寿命がのこり一日であることを胸の内に秘めてしまったのだ。死神の望遠鏡を持ってルシファーの部屋に駆け込んでいたら、ジョークグッズであることに気が付いただろう。
     時刻は午前十一時。もうすぐ昼食の時間である。
     休日にも関わらず珍しく兄弟全員が食卓に揃った。
    「よ、よし。伊吹。今日はマモン様の肉も分けてやる」
    「ありがとう」
     伊吹は遠慮せずマモンの皿から地獄鳥のソテーを取った。
    「これも食べろ」
    「うん」
    「これも」
    「うん」
    「これも食べとけ」
    「うん」
    「デザートも今日は譲ってやる」
    「わーい」
     お腹いっぱい、と言ってニコニコ笑う伊吹を見てマモンは悲しくなってきた。この笑顔が見られるのもあと一日だけなのだ。そう思ったら涙がぶわっと溢れてくる。
     急にシクシク泣き出したマモンを見て伊吹と悪魔たちはギョッとした。
    「マモン? もしかして罰ゲームで私にご飯を分けないといけなかったとか? ほんとは全部食べたかったよね、ごめんね、遠慮すればよかったね」
    「いや、昨日の飲み比べでそんな罰ゲームは課していない」
     ルシファーが首を横に振った。
    「じゃあなに? マモン、なんで泣いてるのか教えてくれる? 涙を止めてあげたいの」
     マモンは下唇を噛んで押し黙ってしまった。伊吹は困惑する。
    「離さなかったら何も解決しないと思うよ」
     マモンの肩にポンとサタンが手を置いた。いやいやと駄々をこねる子どものようにマモンは首を振る。
    「話す気がないなら放っておけば。そのうち泣き止むでしょ」
     ベルフェゴールが少し冷たいことを言った。しかし彼の眼はマモンを案じていた。
    「冷蔵庫にある俺のプリン食うか?」
     とうとうベルゼブブがそんなことを言い出したのでアスモデウスとレヴィアタンは目を見開いた。あのベールが食べ物を分けようとするなんて。
    「……いい、ベールが食べろ」
     マモンはクスンクスンと泣きながらお兄ちゃんらしく断った。
    「何か私にできることはある?」
    「す」
    「す?」
    「好きな花は?」
     このときマモンは伊吹の墓に持っていく花のことを考えていた。
    「うーん、今はチューリップかな」
     伊吹は先日レヴィアタンとマモンと夜通し遊んだホラーゲームのことを思い浮かべた。中盤で出てくる子どもの落書きにやたらとチューリップが書かれていたのが印象に残っていたのだ。
    「わかった」
     マモンは袖で涙を拭ってよろよろと部屋を出ていった。伊吹と残った兄弟たちは顔を見合わせた。
     ──そして翌日早朝。マモンは伊吹の部屋のドアを静かに開ける。手には色とりどりのチューリップが。
    「いぶき、いぶきぃ」
     静かに寝ている伊吹を見てマモンはえーんと泣きながら彼女のベッドに花を置いた。そして伊吹は混乱していた。目を開けようにも開けられない雰囲気なのだ。これはいったいどうしたことか。そうこうしているうちに兄弟たちが伊吹の部屋に集まった。集まってしまった。
    「目を覚ましてくれよぉ」
     マモンは床に膝をつき、伊吹のベッドに顔を伏せて泣き続けている。その背中を兄弟たちは立って見ていた。伊吹も目を開けて彼のつむじを見ている。
     ──どういうこと?
     伊吹はルシファーに目で訴えた。
     ──わからない。
     ルシファーはコテンと首を傾けた。ぶりっ子しやがって、とサタンが彼を冷たい目で見ている。
     もういっそ起きてしまおうか。伊吹が身体を起こそうとするとレヴィアタンが右手を前に出して首を横に振った。
     まだおきないで。
     口パクでそう伝えられて伊吹は再び枕に頭を預けて目を閉じた。マモンの泣き声と兄弟たちのひそひそ話す声が聞こえる。
    「マモン、マモン。顔を上げないか」
     ルシファーがやけに優しい声を出した。
    「みんなで現実を受け止めよう。伊吹は目を覚まさないんだ。何もできることはない」
     まあ嘘は言っていなかった。こいつらこの状況を利用する気だな、と伊吹は心の中で呟く。人の死をいいように使いやがって。不謹慎な悪魔たちめ。
    「葬儀と埋葬はちゃんとしてやりたい」
     マモンがまともなことを言った。レヴィアタンがマモンに近づく。
    「うん、そうだね。でも今の僕たちにそんな余裕はないんだよ。何でか分かる?」
    「うう、ぐすん、ひっく、みんなのクレジットカードを上限いっぱいまで使ったから……?」
     ウソ、サイテー。靴を買うだけって言ったのに。アスモデウスはマモンを睨んだ。
    「そうだ。そしてさらに今日、大量に借金返済の催促状が届いた。マモン。俺たちは葬儀すら開けない」
    「ご、ごめんなさい……返します、全部かえすし金の用意は俺がするから……ううっ、いぶきぃ、ううう」
     サタンが一枚の紙とペンをマモンに差し出した。
    「とりあえずこれにサインしろ」
    「うん……」
     涙で視界不良のマモンは紙に何が書かれているのかわからないままヨレヨレのサインを書いた。
    「よし、もういいよ伊吹。ありがと」
    「腹が減っただろ。キッチンに行こう」
     ベルフェゴールとベルゼブブが伊吹に声をかけた。
    「マモンごめんね。でも借金は返さないと」
     ポカンと口を開いているマモンの頬に伊吹はキスをした。
    「頑張ってお金稼いでね」
     伊吹が生きていることへの安堵の涙と今後の地獄を悟った絶望の涙をマモンは流した。そして泣きながらトランクケースに荷物を詰めて嘆きの館を旅立った。今日から二十四時間労働の日々である。
     三日後、カジノで大勝ちしたとホクホク顔で帰ってきたマモンは喜びのあまり伊吹を抱き上げて熱烈なキスをして、兄弟全員からビンタされた。
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