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    otk_ota

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    双子サンド

    友人への捧げ物です たまには伊吹が酔ってよ。ベルフェゴールのお願いにより、彼女は人間界から取り寄せたアルコールを双子の部屋に持ち込んだ。
     それぞれ缶チューハイを持って、ベルフェゴールのスペースに置かれている机に集まっている。ベルゼブブとベルフェゴールはいつもランプのそばに設置している椅子に、伊吹はリビングの椅子を持ち込んでそこに座っていた。
     机の上には料理が山積みになっている。ベルゼブブが飲み会をすると聞いてキッチンから持ってきたのだ。明日の朝食当番による作り置きだったが、ベルフェゴールと伊吹が担当なので問題なかった。また明日の朝に作ればいいか。二人は顔を見合わせてクスクスと笑う。
    「へえ。デモナスと違って甘いんだね」
    「これが甘いだけで、お酒によって違うよ」
    「もぐもぐむしゃむしゃもぐもぐむしゃむしゃ」
    「ウイスキーとか、ワインとか、いろいろあるから今度飲んでみようか。また三人で飲み会しよ」
    「うん」
     兄弟全員で飲むときと違って、のんびりした雰囲気に安心している伊吹は普段よりも飲むスピードが速かった。だんだん赤くなる彼女の顔をベルフェゴールは微笑みながら見ている。ドクニンジンと暗黒ガチョウのスモークを挟んだサンドイッチを十五人前平らげたベルゼブブはようやく缶のプルタブに手をかけた。喉仏が何度も動く。見ていて爽快な気持ちになるいい飲みっぷりだった。伊吹もつられていつもよりひとくちの量が増えた。
    「──それでさ、この間話したバイトのことなんだけど」
    「三人でやろうって言ってた短期のやつ?」
    「そうそう。そのバイトはナシになったから。その代り、ホーカスポーカスの店番と品出しと警備にしよう」
    「それは構わないけど、どうしてそうなったのか聞いてもいい?」
    「店主が」
     今までひたすら飲み食いしていたベルゼブブが唐突に口を開いた。嵐の前の静けさのような不自然に穏やかな声だった。
    「人間の、特に若い女を食べるのが好きらしい」
     悪魔にとって人間は捕食対象である。極上のごちそうだ。
    「しかも、両方の意味で。ぼくたちがついてるからそんなことは絶対にありえないけど、伊吹が嫌な思いをするかもしれないし」
     ベルフェゴールは重たい息を吐いた。缶を傾ける。
    「そういうの慣れてきたからそこまで心配しなくてもいいのに」
    「伊吹が気にしなくても俺たちが嫌だ」
    「──そうだね、ありがとう」
     ベルゼブブが満足げに頷いて机に手を伸ばし──何もつかめなかった。机の上に置かれていた全ての料理が彼の胃袋の中に収められている。彼のしょんぼりした顔を見て、ベルフェゴールが「もう一回キッチンに行けば?」と提案した。
    「そうする」
    「まって、私も行く。根こそぎ持ってきたらサタンがまた怒るよ」
     ベルゼブブの後を追おうとして伊吹は腰を浮かせたが、完全には立ち上がれなかった。くらくらする。思っていたよりもアルコールが回っている。
    「伊吹、大丈夫?」
     ベルフェゴールが上目づかいで彼女の顔を覗き込んだ。
    「だいじょうぶ、じゃないかも。だいぶ酔ってる気がする」
    「ぼくがベールのこと見張っておくから、とりあえずここで横になりなよ。待ってて。水持ってくる」
     伊吹の肩を支えながら数歩移動し、自身のベッドに彼女を横たえたベルフェゴールは早足で部屋を出ていく。ぼんやりする頭で伊吹は彼の足音を聞いた。
     彼の寝床は当然のことながら、持ち主の匂いが染みついていた。毛布を体にかけた伊吹はふわりとやさしい香りがして目を細める。ベルフェとハグしたときにする匂いだ。そう思った彼女は口の端を緩ませた。まぶたの重みに逆らわず、目を閉じる。
     ──なんだか安心する。ずっとここにいたい。
     伊吹は意識を手放した。穏やかな寝息。


     大量の食糧を抱えたベルゼブブと伊吹に飲ませるための水を持って部屋の扉を開けた二人は彼らの帰還に対する声掛けがないことにすぐ気が付き、足音を殺して部屋の中に入っていく。
    「あ、寝てる」
     ベルフェゴールは伊吹の額を撫でた。そのまま手は髪の生え際をくすぐり、頭皮に優しく触れる。
    「かわいい」
    「あんまり触ると起きるぞ」
    「わかってる。いつもはぼくが真っ先に寝るから知らなかったけど、こうして寝てる伊吹を二人で眺めるのもいいね」
    「もぎゅもぎゅぱりむしゃ、そうだな、ぱりぱりもぐもぐ」
    「ねえ。このままここに閉じ込めちゃおうか。三人でずっとこの部屋にいよう」
     いいでしょ。ね。伊吹。ベルフェゴールは彼女の耳に口を近づけて囁いた。吐息が触れてくすぐったかったのか、伊吹はふにゃふにゃと笑って体を丸めた。
    「ほら、いいって」
    「そんなことは言ってないと思うが」
     ベルゼブブは眉を八の字にした。いたずらっ子の笑みを浮かべた弟をどう止めようか。せめて伊吹の同意がないと。考えながらも手は止まらず、食品と口の間を往復している。
    「冗談だって。そんなことしたらみんながうるさいし」
     ひどくつまらなさそうな顔でベルフェゴールはぼそぼそと話した。
    「でも、すごくいい案だと思う。もうちょっと邪魔が入らないようにすれば完璧だ」
     兄は弟のフォローをした。二人は顔を見合わせて笑う。
     ひとまず今夜は三人で眠ろう。
     幸せな世界を作る計画は少しずつ進めよう。
     双子は彼女にぴったりと寄り添って、足を絡め、目を閉じた。
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