「真島ちゃん、帰ったよ~」
俺に自宅の掃除を言いつけて、外出していた家主が戻ってきた。
「ちゃんと掃除終わっただろうな?」
「……あぁ、終わったで」
佐川はんが外出していた約3時間、俺は部屋にちらかっていたゴミを片付け、シンクにたまっていた皿を洗い、汚れていた服は洗濯し、テーブルを拭いたりフローリングを拭いたり…
まぁ、とにかく部屋中を掃除した。
「へぇ…綺麗になってんじゃん。これならいつお嫁に行っても大丈夫だなぁ?」
「は?なんで俺が嫁に行かなあかんねん」
…冗談への受け答えも面倒くさい。
とにかく疲れたし、このあとグランドの営業が待っているのだ。
少しくらいは自宅で身体を休めたい。
「ほな、もうええやろ。俺は帰るで」
「はぁ?なに勝手に帰ろうとしてんの」
…まだ何かさせる気なのだろうか。
「ほら、さっさと皿とフォーク用意しろ」
「? 何やねん,皿とフォークって…新しい拷問でも思いついたんか?」
「どういう思考回路してんの真島ちゃん。ケーキ買ってきたんだよ、一緒に食おうぜ」
「…ケーキ?」
「今日は真島ちゃんの誕生日だろ?」
誕生日?…俺の?
…すっかり忘れていた。
日々の激務と監視下の生活で、日付の感覚なんて無くなっていた。
「飼い犬の誕生日をちゃあんと覚えてるんだから、優しい飼い主様だよなぁ?
良かったね、真島ちゃん」
佐川はんが、たぶんケーキ屋で買ってきただろう箱…を開けて渡してきた。
中にはショートケーキやチョコレートケーキ、チーズケーキなど、いろいろな種類のケーキが入っている。
「真島ちゃんが何好きかわかんなかったからさ、まぁいろいろ買ってきたよ」
「え…あ…ありがとう佐川はん…」
誕生日にケーキを食べるなんて、何年ぶりだろうか。
佐川はんは、普段は殴ったり蹴ったり、今日みたいに突然家を掃除しろとか理不尽な命令をしてくるが、
ごく稀に優しい時もあって……ん?なんかいいように絆されている気がする…
でも、誕生日を覚えていてくれたことは嬉しかった。
「好きなの食べな」
「ええんか?じゃあイチゴの…」
「あぁ?イチゴは俺のだからダメだ、殺されたいの?」
「な、何でや!今好きなの食べろ言うたやん!」
…やっぱり優しないわ。
久しぶりに食べたケーキは甘くて優しい味がした。
「ほな帰るで」
「…あー真島ちゃん」
「何や?まだ何かあるんか」
「誕生日おめでとう」
「!」
「言うの忘れてた、悪ぃな」
「…柄にもないこと言わんでえぇわ(照れ)」