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    はねみな

    ( ╮╯╭)<ほどよく

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    はねみな

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    🐉🔥

    笑う、手を振る、あしらう、かわす、少し絡んでそっと突き放す。全部慣れてるし、慣れるくらい繰り返してきたけれど、
    「……慣れてるんだね」
    どこか居心地が悪そうに目を伏せるこの人に、返す言葉をオレは知らない。
    お互いに少し酔っていて、気持ちが浮ついていた。店を出て、駅に向かって人通りの少ない路地を歩いて、この人が――カブさんが何かにつまずいたのを咄嗟に腕の中に抱え込んで、ごめんねありがとうって言いながらやたら焦っているカブさんに、つい、思わず、触れてしまった。
    「あ?」
    呟いたのはオレとカブさん、どっちだったのか。多分どっちもだ。腕の中には目を丸くしているカブさんがいて、まだすぐそこに唇があって、二回目のキスは少し長かった。
    「慣れてるわけじゃ、ないです、けど」
    向かい合わせに立ち、言いよどむオレに、カブさんは伏せたままの目を合わせてくれない。
    「ごめんなさい」
    自分でも何に対して謝っているのかわからない。ううん、と白の混じった頭が横に振られる。
    「あの」
    「帰ろうか」
    転ばないように気をつけるね、と軽い口調で言うカブさんがオレの横を通り過ぎていく。
    待って。
    伸ばそうとした手と声を押しとどめ、声を飲み込み、手のひらに爪を立てる。引き止めてどうしようっていうんだ。何がしたいんだ、何が言いたいんだ。
    オレは。
    オレは――。
    「先に行っちゃうよ?」
    振り返らず、ゆっくり歩きながらカブさんがオレを呼ぶ。
    ああ、そうか。なかったことにしてくれるんだ。なかったことにされるんだ。
    そう気づいたら、もう、だめで。
    「カブさん!」
    背中に向かって名前を叫んで、
    「好きです! もう一回、今度はちゃんとキスさせて!」
    生まれて初めて、真っ正面から玉砕覚悟の告白をした。
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