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    はねみな

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    はねみな

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    🐉🔥
    酔っぱらい🔥さん
    ※ちょっと追加しました

    「きばなくん、ぼくと、わかれてくらさい」
    舌っ足らずな声が恐ろしいことを言う。
    「おねがいします、わかれて」
    飲むペースが早いとは思っていた。大丈夫ですかって何度か聞いたけど、いつも通りのふにゃっとした笑顔で大丈夫だよって言うから、それ以上何も言えなかった。すっかり行きつけになったバーを出る頃には足元がおぼつかなくなっていて、やっぱり大丈夫じゃないじゃんって軽口を叩きながら、ふにゃふにゃになってるカブさんに肩を貸して、いつも通りオレの部屋に向かっていたら、
    「わかれて、きばなくん」
    これだ。
    こんなことを言うために早いペースで飲んでたのか。なんで、どうしていきなり。いつも通りだったじゃん。さっきまでいつもと全然何も変わらない笑顔と口調と視線だったのに、オレの部屋にいつも通り明日の朝まで一緒にいるはずだったのになんで。
    「だって、ぼくもうもどれらいよ」
    何処に?
    半泣きになっているカブさんを支え、それでもゆっくり歩きながらオレの方が泣きそうだ。
    「むりらもの、ぜったい、むり」
    だから何が。
    ちょっと怒った声になってしまい、ひく、と息を飲むカブさんに慌てて謝る。
    「ごめんなしゃい、ごめんれ、きばなくん」
    ううん、オレの方こそごめんなさい。でも何が何だか全然わからないからちゃんと教えてほしい。何で別れなきゃいけないの。オレのこと嫌いになりましたか。
    「すき、すきなんらよ、だからもう、ほんとうにやら」
    いやだよう、とカブさんはしゃくり上げる。泣き上戸とは違う。さっぱりわからないけどカブさんの中にはちゃんと理由がある、ように思える。
    お付き合いを始めるときも相当大変だったけど、今日もなかなかの修羅場っぽい。カブさん、あっちこっちで気持ちの糸が絡まってるからなあ。苦笑しつつ、さてどこに糸口があるかな、と探りを入れる。
    カブさんはオレのこと好きなんだよね。
    「うん」
    でも別れたいんだ。
    「うん、わかれたい」
    どっかに戻れないのが嫌なの?
    「うん」
    どこ?
    「いちばん、さいしょのとこ」
    最初とは。
    うーん、と思い当たる節を探していると、
    「きばなくんがねえ、いなかったとこ」
    先に答えを言われ、足が止まる。
    「もうねえ、ぼく、わかんないんらよ」
    わかんない、とカブさんは繰り返す。
    「きばなくんがね、いなくなっちゃったらねえ、どうしたらいいのかわかんない、けど、いまなら、ちょーっとだけ、おぼえてるかもしれないから」
    だから、今すぐぼくと別れてください。
    今なら大丈夫だと思う。多分。やっぱりあんまり自信ないなあ、どうしよう、ごめんね、ごめんなさい。
    口から零れるままに言葉を紡ぎ、
    「ごめんねえ」
    立ち止まった足の先、ぽたぽたと涙が落ちる。
    「すき、おねがい、わかれてくらさい」
    ちくはぐだ。全然、全くちぐはぐで、カブさんはべろべろに酔っていて、ちぐはぐで支離滅裂だけど、これはきっとカブさんの本音だ。本当、こんがらがって、絡まりまくって大変だ。
    よし、それじゃあこうしましょう。年次契約制ということで。
    「けー、やく?」
    そう、一年間の契約制。今日から一年経ったときにお互いの条件が合えば、また一年お付き合いしようねって毎年更新してくの。
    「じょうけんって」
    好きだなーって思ってること。それだけ。他にいらないでしょ? どう? だって今はお互い好きなのにすぐ別れるなんておかしいじゃん。めちゃくちゃ先のこと考えるから怖くなったり不安になっちゃうんじゃないかなあ。だからとりあえず、まずは一年、目標は小刻みに、ね? いかがでしょう?
    カブさんは俯いたまましばらく動かず、やがて、
    「わかった」
    と小さく頷いてくれた。
    「ぼくは、またいちねん、ずーっとすきらからね」
    うん、そうだと嬉しいです。
    「すきだよ、ぜったいすき」
    うん。嬉しい。
    「……がんばるね」
    何を?
    「きばなくんに、すきでいてもらえるように、いちねんがんばる」
    そんなに頑張らなくても大丈夫だと思うけどなあ。
    「いっしょうけんめーがんばります、よろしくおねがいします」
    こちらこそ。じゃあ部屋に着いたらさ、ちょっと頑張ってオレといちゃいちゃしてくれる?
    「う、が、がんばり、ます……」
    小さくなる声を聞きながら、またゆっくりと歩き出す。
    「きばなくん」
    少し歩いたところで控えめな声が名前を呼んだ。返事をすると、
    「……大好き」
    身を寄せながらさっきよりもしっかりした声がそう言うので、部屋に着いたらちょーっと覚悟しといてね、と思うオレでした。

    安心してよ。オレだって、あなたのいない人生なんてもう絶対無理なんだから。
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