まだ半分夢うつつの気分のまま、ふらり、ふらふらと屋上への階段を一歩一歩登っていく。
重たい扉を開けると同時に纏わりついてきた風はこの季節にしては存外涼しく、ほんの少しだけ脳が覚醒に近づいた。
探していた相手はすぐに見つかった。
朝というよりは夜に近い、そんな薄明かりの中でも恵まれた体格はシルエットですぐ分かる。
陽の光のもとでならキラキラと輝く金髪はさすがにこの暗さではよく分からないけれど、さらさらと風に靡く一本一本が綺羅、綺羅と瞬くように見えるのは、俺が寝ぼけているからなのだろうか。
「ローラン」
「!。立香、なんだ起きたのか?」
「そっちこそ」
「なんか眠れなくてなぁ」
手すりにもたれ、カラカラと笑う腕にわざとらしくドンとぶつかる。
押し合いへし合い、うだうだとしたぬるいじゃれ合いののち、どちらともなく半分半分で体重を掛け合い、くすくすと笑い合った。
「・・・たばこ」
「ん。たまにはな。あ、そっち匂いいく?」
「いいよ」
「そ?」
どれくらいの時間、ここにいたのだろうか。
涼しいと思った風はずっと当たっていると少し肌寒いなと思うくらいで、触れ合っているローランの腕もいつものぽかぽかとした子ども体温ではなく、ひやりと冷え切ってしまっていた。
研究室棟はひっそりと静まり返っている。
下の階では俺たちと同じように、最後の追い込みで泊まり込んだ学生たちが死屍累々という有り様でーーーというかそのわりに夜は酒盛りをしていたので、主にそれが原因だがーーー、きっと起きてるのは俺たち2人だけなんだな、と思う。
見上げた顔はいつもと変わらないようにも見えるが、少し疲れが滲んでるようにも見える。
常ならばコロコロと変わる表情がごっそりと抜け落ち、機械的に口に運ぶ煙草は一体何本目のものなのだろうか。
「ローラン」
「んー・・・・・む。」
「戻んないの?」
「・・・・そうだな。そろそろ戻るか」
苦すぎず。だが、甘ったるいものでもない。
煙の匂いを纏った唇もまた、ひやりと冷えきっていた。
「ああでも別に、それ吸いきってからで・・・」
「っ・・」
言葉尻をパクりと呑まれる。
少しだけ熱が戻ったような気がした。
「ろーら・・「立香」
またひと食み、ふた食みと重ねたそれは、三度目にはもうはっきりと情の灯った口付けとなっていて、冷えた体に血が巡り、どこか夢うつつだった脳みそが急激に覚醒するのを感じる。
ぎゅうと伸し掛かってくる体を精一杯受け止め、降り注いでくるキスに丁寧に返していく。
そろり、と腰に手を回そうと思ったところでローランの頭が的を外れ、カクンと肩口へと落ちてきた。
「・・・・・・眠くなってきた」
「えぇ・・・」
空が明るくなってきた。
金糸のような髪の間に混じる一際明るい毛のいくつかが、朝陽を浴びて綺羅綺羅と星のように瞬いている。
しょうがないな、と溜め息をつき、今すぐにでも寝落ちてしまいそうな大きな身体をよいしょ、と担いでドアの方へと足を向けた。もちろん、短くなった煙草もきちんと回収して、だ。
「りつか・・・」
「んー?」
「課題おわったらさ、・・・えっちしたい」
「っ・・・。うん。ん?・・・まぁ終わってなくても俺は別に、」
「外で」
「そとぉ???」
う"っ、と沈み込んだ体を踏ん張る。ほんとに寝落ちやがったなこいつ。
覚えてようが覚えていまいが、実際やるかどうかは別として、全部終わったら覚えてろよと心に決め、それはそれとしてこの大荷物を運び出すのかぁ・・と。腹の底からの溜め息が出た。