「或る北の記録」「北には星がある。そして、それを燃やす為の灯台があるのさ」
その言葉を思い出した少女は、微かに息を吐いた。
ある青年のおとぎ話だと誰もが笑い飛ばし、事実青年も笑っていたが、少女だけは信じた。そんな少女に、青年はまた笑って、ゆらりと蜃気楼のように肩を揺らした。
純然たる信頼か、初恋による盲目的バイアスか、しかして二人の関係性を誰にも語ることはできまい。何故なら、青年は_
「僕らは生きるためにここにいるけれど、じゃあ、死ぬための誰かは、どうしてまだ世界にいるんだろうね?」
その声が未だ、祝福のようにこびりついているのだとしても。
目が覚める。いや、眠ってはいない。気絶に近いだろう。
一体、どれだけそうしていただろうか?空白の記憶は短く、鈍痛も引いていないからさして時間は経っていないはずだ。
2234