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    mitsu_ame

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    買い物に出たら月が綺麗だったのでD/s本丸の小夜歌ちゃん。
    Dom小夜とsub歌仙。同室でなかよしだけどD/s的には歌仙さんの片思い。小夜的には手のかかる昔馴染み。

    ※D/sユニバース
    ※月の満ち欠けがダイナミクスに影響を与える設定を捏造しています。

    『月明か、君愛し』


    月の明るい晩だ。

    まるまると肥えた月は薄曇りの空の上、のっぺりとした闇の中でなお、ひときわ輝く。星々の煌めきを殺して爛々と。
    そんな光を遮るために、雨戸を閉めきってしまう。そうすれば四角く閉じた部屋の灯りは、障子越しにともる廊下の常夜灯だけ。薄いうすい人工の灯りにほっとする。宵闇より恐ろしいのは、何よりさやかな月あかりだ。
    そっと布団へもぐり込む。先に隣の布団へ沈んでいた気配が僅かに揺らいだ。
    「おやすみなさい、歌仙」
    「…………おやすみ、お小夜」
    就寝の挨拶はいつもと同じで、それが何故だか寒々しい。寒々しさは独り寝の寂しさに似て、それでいて他ならぬ小夜が傍に居るのに痛烈だった。
    きっと、月光があんなに豊かなのを見たせいだ。あれはどうしたって心も体も波風立たせて仕方ない。
    居心地のよさを求めるように、布団を肩口まで引き上げながら寝がえりを打つ。右肩を下敷きにして横臥すると真正面に小夜の横顔が見える。ツンとした顔は静かなものだ。胸あたりの布団がわずかに上下しているだけ。もう寝入ってしまっただろうか。分からない。
    (ねぇ起きている?)
    聞くのなんて簡単だ。だけれどおやすみをしたのに話しかけるだなんて、行儀が悪い。月夜が心細いのも、寝付けそうにないのも。自分だけの都合なのだし。

    悶々として、結局、薄明かりに浮かぶ横顔を眺めるだけになる。変化に乏しいそれを眺めていたって、一向に眠気は訪れない。
    なだらかな額、小さく尖った鼻、淡い色のくちびる。閉じた瞼の皮膚は薄く、血管がかすかに透けて見えるほど。短い睫毛が呼吸に合わせてほんの少しだけ揺れる。
    「…………お小夜」
    ちいさく呼びかける。ほとんど吐息だ。これで応えてくれたなら。その時は甘えてもいいだろう。
    そうやって勝手に決める。じ、と向けた眼差しの先、伏せていた真白い瞼はやんわり持ち上がった。視線だけがこちらを見る。あぁ、よかった。これで甘えられる。
    「そのう、……ね、お小夜」
    ねえこれでわかって。君ならわかってくれるだろう? そんな甘えたな気持ちで名を呼ぶ。
    さむい。さびしい。もっとそばにいて。
    口にするのはなんだか憚られる。けれどそのままにしてしまうには、今夜は巡り合わせが悪すぎる。
    きゅ、っと握った敷布がきしきし鳴いて。ねぇこれぐらいさびしいのよ、と話す代わりに伝えるだろう。
    それぞれの布団から投げた視線が、敷布の狭間でかち合う。はちん、と音がするほどにおもうのは、僕の気が弱くなっているからか。それとも君のまなざしが持つ強さのせいか。
    ただただ黙して、青と緑とで行き来する。

    君ならわかってくれるだろう?

    言葉よりきっと雄弁なそれを受け取って、逸らさずに。
    どれほど黙していただろうか。ほんの少しにも、長い間にも思えた時間を空けて、お小夜は視線のみでなくこちらを向いた。眉尻をさげ、困ったような顔で笑う。
    「歌仙。ちゃんと言葉で説明してくれないと。言わなければ、わかりませんよ」
    暗闇に相応しいひそめた声は、それだというのに強く大きく心へ響いた。
    真っ先に浮かんだのは、どうして、と詰る気持ちだ。君が分からないはずないじゃないか、と。
    でもすぐに、分かっていても分からないフリをされているのだ、と気付くことができて、二の句が継げなかった。お小夜は今、僕の気持ちを分かっていて尚、僕の言葉足らずを咎めている。
    彼に叱られるのは、どうにも心地のいいことだった。そうするのはいつだって、僕と第三者との振る舞いのことばかりだけれど、今回ばかりはお小夜への僕の振る舞いに関することであるから、余計に。
    胸がドキドキとして、頭の中はお小夜のことでいっぱいになる。唇はうすく開くばかりで、呼吸をするのに忙しい。心も体も、話をする支度が整わない。
    「歌仙?」
    ――言って。
    言葉にしなさいと言うくせ、名前を呼ぶだけでそんな風に命令して。
    開きっぱなしの口を閉じて、唇を舌で湿らす。そうでもしないと乾いてかわいて仕方ない。その割に潤む咥内、閉じ込めた浅い呼吸、途切れて、溜息。
    「……あのね、お小夜、」
    声を出す。言葉にする。気持ちを詳らかに晒す。
    なにせ、今宵は月の明るい晩なので。
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