赤い花 あたたかな日射しが、その野原を照らしていた。
見渡す限り一面に咲いた赤い花の野に、風が吹きわたる。
細く長い茎に、ふわりとした花びらを持った花が一輪づつ、首を傾げるように揺れていた。
ひょろりとやせた木が、まばらに生えている。
その一本に寄り添うように、小さな家があった。
粗末な木の柵で囲ったなかに、数羽のにわとりが遊び、杭に繋がれたヤギが草を食んでいる。
ほんの少しの畑と、古い井戸。
ひとりの老婆が、わずかな木陰に置いた小さな腰掛けにじっと座っていた。
花の揺れる音に、耳をかたむけているかのように。
ふいに、強い風が吹き、老婆は結った髪を押さえたが間にあわず、花を模した古ぼけた髪飾りが草の上に転がった。
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