over the rainbow魔界で過ごした5年間、ダイはポップへの思いを募らせていた。
それが生きる支えだったのだ。
当然ながら、再会してからというもの、ダイは5年の月日を埋めるべくポップにアプローチしまくっていたのだが、ポップの方は「何バカなこと言ってんだ」と全く相手にしていなかった。
ポップにしてみれば、ダイはレオナと結婚してめでたしめでたし、というシナリオを5年間信じていたのだ。何を血迷って、と思うのも無理はない。
5年間の魔界暮らしと、無事地上へ戻ってきた高揚感とか、かつて自分を蹴落とした後ろめたさから気持ちがバグっちゃってんだろ、と。
それが今になって、どうやらダイの自分への気持ちが一時の迷いではなく、本当に心底好いてくれているのだということ、そしてそれに伴って、自分もダイに惚れているのだ、とようやく自覚したらしい。
とうとうポップの方からダイに「付き合ってほしい」と告白するに至ったのだった。
しかしダイにも意地がある。今まで散々つれない態度を取ってきたくせに、と思うと、嬉しさと同時にそれみたことか、と言いたいような、ちょっと意地悪したい気持ちがむくむくと湧いて出た。
今まで待たされた分、ちょっとくらい焦らしてもバチは当たらない。
「…そう簡単にはうんとは言えないなあ」
「が…がんばる!」
「寂しい時そばにいてくれる?」
「飛んでいく!」
「山のてっぺんでも?」
「海の底でも」
「寒くて凍えてたら?」
「一晩中でもあっためる」
「家で精霊のコンサート開いてって言ったら?」
「連れてくる!」
「おれには精霊の声聞こえないよ」
「じゃおれが歌う!」
「魔法でこの空に虹かけてって言ったら?」
「…なんとかする!」
「じゃ、それで」
「…それで?」
「かけてよ、虹」
「…わかった。虹かけられたら、付き合ってくれるんだな」
「二言はないよ」
「よし…」
それからポップは持てる知識を総動員して考えた。
虹は太陽光が雨粒の中で反射して見える現象だ。位置は太陽の反対側、時間帯は朝か夕方。
ラナリオンで雨を呼ぶことはできる。
その後雨雲を去らせて、再び太陽が出たら…。光は波長によって屈折率が違う。
つまり、光を司る精霊に呼びかけて…、
(よし、これで行こう!)
ポップの顔に笑みが浮かんだ。
「よし、やるぜ!」
その夕、ポップが真剣な顔でダイを外に連れ出した。
ダイは内心ドキドキしながら見守っている。
ーーちょっとやりすぎたかな。
ポップなら成功させると思うけど…。
もし、うまくいかなかったらどうしよう?
あんなに必死になってくれると思わなかった。正直、嬉しい。物凄く嬉しい。
だけど…。
ダイの不安をよそに、ポップの詠唱が始まった。
「天空に散らばるあまたの精霊たちよ、我が声に耳を傾けたまえ…」
ダイの胸に懐かしい思い出が甦る。
ーーヒュンケルに捕らわれたマァムを助けるために、あの時、ポップと2人でライデインを必死に特訓したなあ。
ほんの数年まえなのに、遠い昔のことみたいだ。
あの頃から、いや、もっと前、おれの冒険の始まりからずっとポップと一緒だった。
「ラナリオン!!」
ポップが叫ぶと、たちまち空が黒く染まり、
雨雲がたちこめる。
ちょっとやりすぎじゃないかというくらいだ。やがて雨が降り始めた。
「よし、次だ」
ポップは雨に濡れながら手を振り払う。
ラナリオンが解除されたようだ。
雨雲が徐々に消え去り、太陽の光がポップの髪に落ちた雫を照らしきらきらと輝かせる。
「あまねき光の精霊たちよ。我が願い聞き届け給え。盟約を結びし大魔道士の名において…」
「この天空に七彩の虹霓を齎し給え!」
ポップの両手が高々と差し上げられる。
七色の光の柱が、さながら天翔ける竜のように天に放出され、美しく弧を描いた。
ポップが振り返り、にっと笑う。
「どうだ?」
ダイは言葉もない。目の前で好きな相手に、自分だけの為にこんな魔法を見せられて、どうもこうもない。
ダイの無言に業を煮やしたポップが叫ぶ。
「なんだよ、おれは条件クリアしたぜ!ご褒美でもないのかよ!」
「ポップ…、すごいよ、見事な魔法だ」
「そうだろうそうだろう」
へへん、と鼻を擦って得意げになるポップ。
「でもおれも、魔法だったら負けない」
ダイも不敵に笑う。
「へえ、大魔道士様に魔法で勝負しようとは大した自信だ。どんな魔法だよ?」
ポップのその言葉を待ってた、とばかりにダイの顔が近づいて、唇が触れた。
「………」
「ポップ?」
「…」
「これでいいかな?」
「…バカやろー!」
慌ててそっぽを向いたポップの耳は真っ赤に染まっていた。
どうやら喜んでもらえたようだ。
「ポップ、晴れて恋人同士だよ」
「…うるせえ」
「あ、そんなこと言うんだ」
ダイは唇を尖らせる。
「…よ…よろしくお願いします…」
ポップが向き直ってボソボソと呟く。
「…こちらこそ」
ダイはにっこり笑って、もう一度愛しい恋人に口付けた。
2人を祝福するかのように、美しい七色の虹がいつまでも空に輝いていた。