じーわん光波とぬいぐるみ 人間というこの生物、特に雌においては触れ合いが重要な意味を持つらしい。現に私が指先で撫でると顔を緩ませて中枢器官の拍動もとても落ち着く。こちらも悪い気持ちはしないためいつまでもこうしていたいものだがサイバトロンでの仕事が山積みなためそうはいかない。指先を離すと彼女は切なげに目を瞬かせるが引き留めようとはしなかった。彼女は私の立場を理解しているのだ。なんといじらしい。
「...何か欲しいものはあるか」
いつも私を待ち続けるこの人間の健気さを労ってやろうと聞いてみた。
『この星にあるかわからないけど、紫の布と、綿と針が欲しいかな。裁縫セットがあればもっといいけど。』
「どうしてそんなものを?」
『そ、それは...』
うつむいた人間は気恥ずかしそうに両の人差し指を付き合わせる。
『寝るときとか寂しくないようにあなたの、縫いぐるみを作りたいの』
「ぬいぐるみ?...」
人間には妙な慣習があるものだなと思いつついいだろうとレーザーウェーブは言い残してニコの部屋を去った。
*****
二日後。
再び部屋に現れたレーザーウェーブに娘は微笑んで駆け寄った。
「前に話していたぬいぐるみだが、やはり人間サイズの道具をこの星で探すのは難しくてな」
レーザーウェーブは右手を差し出した。
「私が作ってみたぞ、人間」
金属の手のひらには、可愛らしくデフォルメされた彼の縫いぐるみが乗っており、娘は思わず黄色い声をあげた。
『可愛い...めちゃくちゃ可愛い...!ありがとうございます!』
「気に入ったようだな」
レーザーウェーブはどこか嬉しそうな声を出しながら優しく娘の頭を撫でた。目の前で点滅する琥珀のオプティックから甘い視線を感じて『で、でも...』と彼女はぬいぐるみを強く抱き締めた。
『一番は、レーザーウェーブさんがいいです...レーザーウェーブさん、お仕事忙しいと思うけど早くかえってきて欲しい...』
「そ、そうか?」
問われて娘は深く頷いた。
『お仕事頑張ってね、レーザーウェーブさん。ぬいぐるみと一緒に待ってるから』
ぬいぐるみを強く抱きしめつつ、上目遣いで見送られてからもその日のレーザーウェーブはまったく仕事が身に入らなかったという。
Fin.