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    mbsonsaku_r18

    @mbsonsaku_r18

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    mbsonsaku_r18

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    めちゃくちゃ夢要素が強め。
    今回私にしては長め。最初の方みっちゃんが振り回されまくってる。

    一期頑張ったね

    バレンタイン騒動「みっちゃん、ちょっと今いい?」
    「大丈夫だけど……どうしたの? 主がここまで来るなんて珍しいじゃない」
    「バレンタインのことなんだけど……なんかオススメのお店とかないかな」
    「……誰かにあげるの? いつもは気にしてないよね?」

     雪がバレンタインのことを相談したいから、と声をかけると目を丸くしながら燭台切は首を傾げる。声はほんの少し強ばっていて警戒をしているのか、恐る恐る問いかける。

    「んー……そうなんだけど今年は謝謝くんとこからも雛花ちゃんからも貰ったし……いつもお世話になってるから今年はみんなにも送ろうかと思って」
    「あぁ、そういうこと。良かった、本丸が血の海になるかと思った」
    「やだ、そんなこと起こるわけないじゃん、そもそも手合わせ以外の抜刀禁止にしてるじゃん」
     燭台切の言葉に雪は怪訝そうな顔をしながら燭台切の言葉を一刀両断する。しかしその言葉に燭台切は苦虫を噛み潰したかのような表情をしながら「そうだったね」なんて思ってもいないだろうことを返す。

    「にしても毎年ほかの本丸からは貰っても放置だったじゃない、どうして今年は?」
    「一応お礼の電報は送ってたんだよ……。ただ……いつもみんなにもお世話になってるのになんにも返してあげられてないから」
    「へぇ、でもギフト系なら歌仙くんの方が詳しいんじゃない?」
    「そういうのは燭台切を頼れって言われちゃったの。和菓子は詳しいけど洋菓子はあんまりなんだってさ」
    「そうだったんだ、そういうことならオーケー、任せてくれよ!」

     みっちゃん頼りになるぅ、なんて言いながら雪は燭台切に抱きつく。燭台切は途端に慌てたように辺りを見渡しながら雪のことを引き剥がす。
    「もう! すぐ抱きつくのやめてって言ってるでしょ! そういうのは一期くんとか鶴さんだけにしてよね」
    「え〜、いいじゃん別に」
    「主は良くても僕は良くないの。とりあえず教えてあげるから離れてよ、鶴さん怒ったらおっかないし、一期くん嫉妬したらすごく面倒なんだからね?!」

     燭台切は焦ったようにくっついて来ようとする雪を遠ざけようと泣きそうな声で離れるように促す。
    「何もそんなに必死にならなくても。別に一期も鶴丸もこんな事でいちいち目くじら立てないよ」
    「君はそう思うだろうけどね、あの二人主にはそういうところ全く見せないからね、主だけだよあの二人が優しいとか思ってるの」
    「散々な言われように遺憾の意」
    「教えるのやめようかな」
    「ごめんなさい神様仏様燭台切光忠様!!!」

     手を合わせ分かればよろしい、なんて言いながら燭台切はニッコリと笑う。雪もそれ以上はなにかを言うつもりは無いのか「なんのお店がいいかなぁ」なんて言いながら手元の端末をいじり始める。

    「……ところで、何個必要なの? 数によっては買うよりも作った方が早いけど」
    「あ、そうなの?」
    「もちろん!」
    「本丸の皆にはあげようと思ってて。いつもお疲れ様ってことで。あと謝謝くんと雛花ちゃん。その時の近侍にもあげようかなって。あと、一期と鶴丸にはもうちょい特別なのあげたいなって。いつも近侍頑張ってるから」
    「いいんじゃない? それなら作った方が早そうだし早速材料買いに行こうか」

     雪の言葉に燭台切はうんうんと頷きながらコートを羽織ると手を差し出す。雪が不思議そうに顔を傾げていると燭台切はそれこそ何をしているんだ、と言いたげに雪の手を握る。

    「え?」
    「鶴さんから言われてるでしょ、主は出かける時手を繋いだ方がいいって」
    「聞いてないけど」
    「嘘! 僕恥ずかしくない?」
    「大丈夫、みっちゃんはいつだってかっこいいよ」
    「すぐ主は僕たちを甘やかす!」
    「そんなことないよ、甘やかしてる気ないもん」

     あぁかっこ悪い、なんて言いながら燭台切は顔を覆い、蹲った。雪はそんな様子の彼に手を差し出す。
    「ほらほらみっちゃん、私と手を繋いでくれるんでしょ? てか、繋いでくんないと私迷子になってまた鶴丸に怒られちゃう」
    「本当にそういうところ!」

     そう言いながら燭台切は立ち上がると差し出された手を握るとぷりぷりと怒りながら雪の歩調に合わせながら歩き始める。
    「あはは! みっちゃんってやさしーよね、なんだかんだ言って私に合わせてくれんじゃん!」
    「もう! 置いてけるわけないでしょ!」
    「ごめんね、ママ」
    「主すぐ僕のことママって呼ぶよね」
    「だってママじゃん」
    「主を産んだ覚えはないよ。しかもそれ歌仙くんにも言ってるよね?」
    「えへ」
    「それで誤魔化そうとしないで」
     文句を言いながら燭台切からはふわふわと誉桜が舞っていて、なんだかんだ雪との気易いやり取りの時間を楽しんでいるのだろう。
    「はーい、ごめんなさーい」
    「全くもう、少しは反省してよね!」

     雪の反省してないような返事に燭台切は苦虫を噛み潰したような顔をしながら雪のことを見つめる。

     万事屋に着くと中は女審神者がはしゃぎながらチョコレートを選んでいる姿が目に入る。
    「とりあえず、何作るつもりなの? 主って料理得意だっけ?」
    「それなり! レシピあれば難しくなければ作れるよ」
    「ああ、そっか。まだ始めたての頃は主が簡単なもの作ってたんだっけ? 鶴さんは食べたことあるって自慢してるもんね、一期さん悔しそうな顔してるから作ってあげてよ」

    「みっちゃんとか歌仙さんが作ったご飯のが美味しくない?」
    「それはそれ、これはこれだよ。……とりあえず大量に作るならトリュフとかどう?」
    「あー、トリュフね、じゃあ製菓用のチョコと生クリーム、ココアパウダーがあれば充分かな」
    「OK、手作りチョコの材料は奥のコーナーだったっけ?」
    「多分? 私に聞く方が間違ってるよ」
    「そうだったね」

     燭台切はため息混じりにそう答えるとフロアマップを探して辺りを見渡す。周りの審神者たちがきゃあきゃあはしゃいでるのは聞こえないらしい。
    みっちゃんは普段からモテるから聞こえないんだろうな、なんて考えながら雪は繋がれた手を暇そうにぶらぶらと振る。
    「ちょっと主暇なら一緒にフロアマップ探して欲しかったんだけど」
    「え? いいの? 私あっちだと思う!」
    「もう見つけてるしなんなら真逆だよ!」
    「ごめんてみっちゃん」
     雪が歩き始めようとした瞬間繋いだ手を引き寄せると「全くもう、だから主はひとりで出かけちゃダメって言われるんだよ」なんて言いながら雪の手を引いてずんずんと歩き続ける。雪の反省してない謝罪の言葉は無視を決めたようだ。

    「……うん、あっちみたいだね。はぐれないように手を離さないでよ、こんなところで迷子になられたら探すの苦労するんだから」
    「ごめんて……みっちゃんこの間の根に持ってる?」
    「本当に大変だったんだから! 長谷部くんは泣いてて鬱陶しかったし、鶴さんはすごく凹んでたんだから」
    「もう二度と迷子にならないよ〜!」

     信用出来ない、と言いたげに燭台切は顔を顰めさせる。そう言って何度も迷子になったのでこの件に関して雪は全く信用されていない。

     手作りコーナーは先程のフロアよりも人は少ないがそれでも可愛らしい女の子たちが幸せそうにチョコの材料を選んでいるのを見るの雪はほんの少し居心地の悪さを感じる。
     何故かこの場に不釣り合いのような気分になったのだ。
     さっさとこの場を離れたくて燭台切の手を強く握るとへら、と笑いながら製菓チョコを指さす。
    「とりあえず業務用買っとけばいい?」
    「……いいんじゃない? 大量に作るんだし。むしろ業務用じゃないの買うつもりだったの? 博多くんに怒られるよ。異去と連隊戦で散財した時怒られたのもう忘れた?」
    「ぴゅっぴゅ〜」

     吹けてないよ、なんて言いながら冷たい目線を向ける。雪が売り場のカゴを手に取るとその手からするりとスマートに奪い取る
    「え、いいよいいよ、自分でもつよ」
    「何言ってんの、主……それも女の子に重たいものなんて持たせられるわけないでしょ」
    「みっちゃんいっけめ〜ん!! 大好き」
    「はいはい」
     雪の言葉に慣れたように流すと適当にミルクとビターのチョコレートを選ぶとカゴの中へぽいぽいと適当に投げ入れる。
     ココアパウダーも大容量のものを一つ、二つと手に取りそのうちの上質でいるがそれなりに安価なものを選ぶ。
     それを隣で見ていた雪は首を傾げる。雪にはココアパウダーの違いが全くもって分からなかったのだ。燭台切の手を引いて先程選んでいたココアパウダーを指さしながら問いかける。
    「えっ待って待ってさっきのと何が違うの」
    「原産地とメーカーだよ。こっちのメーカーの方が美味しいんだよ。ココアもね、ちゃんとベルギーのやつで……」
    「わ、わからん。産地でそんなに変わる? どこの使っても同じでしょ」
    「主は馬鹿だもんね」
    「大変遺憾の意を表する」
    「さっきもそれ使ってたけど、使い方違うよ」

     燭台切の呆れた目を交わしながら雪は燭台切のこと引っ張り、次の材料を買おうと歩き始めるも燭台切の力に敵うわけもなく、すぐに引き止められてしまう。
     雪が不満げに唇を尖らせていると心底軽蔑したかのような目で雪のことを見下ろす。
    「主、ステイ」
    「わぁ、主を犬扱いしてる」
    「生クリーム売り場逆だったけど置いてっても良かった?」
    「ごめんて」

     燭台切の言葉に雪が軽く謝ると「まぁ主はいつもの事だもんね」なんて言いながらさっさと生クリームのコーナーへと歩き始める。それでもきちんと雪の歩調のことは考えられたペースで雪は思わず頬を緩める。
    「生クリームはこれかな」
    「ほへえ……」
    「本当はラム酒を入れるともっと美味しいんだけど……」
    「謝謝くんがお酒弱いから」
    「うん、だから今回は簡単に作れるやつね」

     にっこりと笑いながら先程選んだ生クリームをカゴの中に入れるとさっさと帰りたい、と言わんばかりのレジへの向かい方に思い出したかのように口を開いた。

    「待ってよ、ラッピングは?」
    「ラッピングの量考えてる? そんなの業者から一括購入に決まってるでしょ」
    「いきなり言い出してごめんて」
    「本当にね!」
    「来年からは気をつけるね」
    「絶対嘘! 主なんだかんだ言っていつも唐突なんだからね!」
    「あはは」

     今日だけで何回謝ったんだろう、怒っていてもイケメンはイケメンだなぁ、なんてことを考えていることがバレたらきっともっと怒られるだろうと思いその言葉は口を噤む。

    「そういえばいつ渡すの?」
    「バレンタインでいいんじゃない? ちょうど審神者会議があるじゃん、あれ全員強制現地参加でしょ?面倒臭いなぁ」
    「ふぅん、誰と行くの?」
    「今回は一期にしようかなって。前回鶴丸だったでしょ?」
    「そっか、僕は面倒事になっても知らないからね!」

     会計を済ませた燭台切は手早く買い物袋に商品を詰めていく。この時ばかりは雪の手を離すことになるので不安なのだ。フラフラとどこかに行こうとする雪を引き止めたり、「私邪魔だから向こういようか?」の発言に、全力で否定したり。まるで小さな子供に言い聞かせるような気分になりながら雪のことをチラチラと監視する。

    「全くもう、主ってばすぐどっかに行こうとするんだから!」
    「いや、だってケーキ美味しそうで……」
    「言い訳しないで」
    「うっす」

     雪はじろり、と睨まれると小さな体を縮こませる。
    「ほら、あとは一期くんと鶴さんに特別なプレゼント用意したいんだっけ? 何渡すつもりなの?」
    「決めてない!」
    「うーん! 元気なお返事ありがとう!! 本当に行き当たりばったり!」
    「ごめんて」
    「それもう聞き飽きたよ!」
    「反省してる」

     今日も燭台切は元気だなぁ、なんて思いながら雪は辺りを見渡す。なにか彼らに合うようなものは無いかと見渡す。
     そんな時にふと目が止まったのはフラワーアレジメントの専門店だった。
     燭台切の裾を引っ張り、看板を指さしながら近づく。
    「ねぇねぇみっちゃんあれ気になる」
    「ちょっと一人で歩いていかないでよ。……フラワーアレジメント?」
    「うん、フラワリウムって言うんだって。……これ、名入れも出来るんだ」
    「いいんじゃない、それで。一期くんも鶴さんも喜ぶと思うな」
    「……でも邪魔じゃない? 置物って貰っても困るでしょ」
    「二人はそんなこと思わないから安心してよ、僕が保証する」

     ふんわりと笑った燭台切に雪は少し悩むようにまじまじと見つめた後に大きく頷いた。
    「よっし、みっちゃんの言葉信じるよ! これにする。お姉さん、これ二つおまかせで名入れをお願いしまーす!」
    「はい、かしこまりました。……恐れ入りますが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
    「あ、はい一期一振と鶴丸国永でお願いします。プレゼント用に個別でラッピングもお願いします」
    「はい、かしこまりました。一週間程お時間かかりますが……」
    「問題ないので、お願いしまーす! 出来上がったら連絡ください、取りに来ます! これ、連絡先です」

     雪は満足そうに笑いながら店を出ると出てすぐの場所で立って待っていた。
    「お待たせみっちゃん」
    「ちゃんと注文できた?」
    「中身自体はおすすめにしといた。私センスないし」
    「まぁ二人は主のセンスの方が喜びそうだけど」
    「絶対ヤダ」
    「知ってる」

     ほら、帰るよなんて言いながら燭台切は再び手を差し出す。雪もその手を迷わずに握るとヘラヘラと笑う。

    「さ、早く帰ろう。あんまり君が本丸を出てるとうるさいのがいるからね」
    「えー、長谷部とか?」
    「長谷部くんもうるさいね」
    「なるべく本丸には帰るようにしてるよ?」
    「三日ぐらい忘れることあるでしょ。あの時長谷部くんうるさいんだよ」
    「これからは毎日なるべく行くよぉ」
    「本当にそうして」

     心底鬱陶しそうな声にこれからはなるべく帰るようにしよう、と雪は心に決める。とはいえ、たまに忘れるとは思うが、その辺は許して欲しい。

     本丸に帰ると燭台切は雪を部屋まで送り届けると、買った荷物を台所に仕舞ってくると言い残して部屋にひとり置いていく。
    「うーん、作る日が楽しみ!」

     一週間後、鶴丸と一期に内緒でフラワリウムを取りに行くのは難儀した。粟田口のみんなには口止めとしておやつを用意して協力してもらい、鶴丸と一期の足止めをしてもらった上で燭台切とそれだけを受け取りに行く。

     その後、燭台切と歌仙、堀川から指導を受けながら全員分作り終えるとラッピングをして全員に手渡すと、みんなキラキラした笑顔で受け取る。

    「いやぁ、渡してよかった! あんなに喜んでくれるなら毎年やろうかなぁ」
    「勘弁してよ、主すぐどっか行こうとするんだから。来年は一期くんか鶴さんと一緒に行ってよね」
    「ごめんて」
    「反省してない時の口癖なの? それ」
    「ごめんて」
    「してないようだよ、燭台切。彼女にはもう少し反省してもらわないとね」

     雪の言葉に呆れたように歌仙は溜息をこぼす。河川に怒られるのもいつものことなのか雪はのらりくらりと交わしながら四人分のラッピングされた包装を紙袋の中へとしまう。
    「明日雛花ちゃんと謝謝くんに渡すんだー」
    「喜んでくれるといいね」
    「うん!」

     翌日。雪は強制参加の審神者会議に顔を出す。長くて退屈な会議も終え、この後は交流を兼ねた懇親会が日空かれていた。相変わらず人でごった返していたが、会場自体は狭いので二人は案外簡単に見つかった。一期の手を引きながら二人に駆け寄るとバレンタインに作ったトリュフを差し出す。
    「謝謝くん、雛花ちゃんこの間はバレンタインチョコありがと! これ私からのお返し〜」
    「ゆっきーあんがとね! これゆっきーが作ったん?」
    「そだよ〜。材料はみっちゃんが拘ってたから、私が失敗してなければ美味しいと思う」
    「雪さん、ありがとうございます」

     二人が連れていたのはそれぞれ、謝謝が一期一振で、雛花は鶴丸国永を連れていた。珍しいこともあるもんだな、なんて思いながら雪は二人にも丁寧にラッピングされたトリュフを差し出す。差し出された箱を二人は雪の顔と交互に見比べて一期一振は朗らかな笑顔を浮かべながら首を傾げる。
    「あの……良かったら一期さんと鶴丸くんもどうぞ。いつも謝謝くんにも雛花ちゃんにもお世話になってるからそのお礼。さすがに二人の本丸全員分は用意できなかったから、代表でもらってくれると嬉しいな」
    「……よろしいのですか?」
    「? もちろん。どうぞ、一期さん、鶴丸くん」
    「ありがたく受け取ろう、すまないな、俺たちまで」
    「ありがとうございます、このご恩はまたいずれ」

     二人はにっこりと笑顔を浮かべながらチョコレートを受け取ると大事そうに抱える。

     それを気に食わない、と言いたげに見ていた一期一振の表情には気が付かない。雪が会談を始めようと口を開いたその時。
    「ほら、主。もう御用はお済みでしょう、帰りますよ。では皆さん、また今度」
    「えっ、ちょっ、一期?! ごめん、二人とも! また今度ね!」
    「あー……うん、またねゆっきー」
    「グッドラックです、雪さん」

     雪の背中を押すとグイグイと歩き始める。雪は慌てて二人に手を振りながら一期に押されながら会場を後にする。雪は二人がなぜそんな微妙な顔をしているのか分からなかったが、後々に微妙な顔をしていたのか、一期の顔を見た時に発覚した。
     一期はいつもの朗らかな笑顔を引っ込めていて、真顔になっていた。いつも笑顔の人が真顔でいるのはなかなかに怖い。

     本丸についても一期のその顔は変わらないし、一言も口を聞いてはくれなかった。それでも部屋にはいてくれるのだが、一期は真顔でこちらを見つめていて何かを言う訳でもないので、気まずい空気が部屋の中に充満していた。
     そんな時間は別に長くもなければ短くもなかったが、珍しい一期の様子や、部屋の中に充満した気まずさに耐えられなくなった雪はおずおずと口を開く。
    「ね……ねぇ、もしかして一期怒ってる?」
    「はぁ、本気で分かんないんですか?」
    「わ、わかんないよ……」
    「……へぇ」

     一期の瞳がすぅ、と細くなる。雪はその目を見て、非常にまずい、と感じた。どうにかしなければと思考回路がグルグル回るも、ちっともいい案は出てこない。
    「ど、どうすれば機嫌治してくれる……?」
    「別になんにもしなくてもいいですよ、怒ってないですし」
    「えっ、それは絶対うそ! だって一期こっち見ないし口も聞いてくんないじゃん! な、何でもするから許してよ〜!」
    「……なんでも?」

     一期の目がじぃ、と雪の瞳を見つめる。真意を図られているような気がして、そらしてはいけないような気分になり雪も一期のことを見つめ返す。
    「え、うん……。一期が機嫌直してくれるなら何でも……」
    「……言質取りましたからね。……ああ、後仮にも私は男ですし、末端とはいえ神です。……軽々しく何でもする、とおっしゃるのはやめた方がいいですよ」

     にっこりと笑顔を張りつけた一期に雪は訝しげな目を送る。そんな様子を見ていた一期は立ち上がり、雪の手を取るとずい、と顔を近づける。
    「そうそう、私の事信用なさってくださるのは結構ですが……。主はもう少し私という男のことを知ってもらわねばなりませんね。……なんでも、とおしゃったのはあるですから、では主には私のお願いを叶えてもらうことにします」
    「あ、あれ……笑ってるはずなんだけど怒ってる気がするぞ……」
    「気のせいです。私のおねがいなんでも叶えてくださるんですよね?」
    「わ、私に出来ることなら……?」
    「あぁ、それなら簡単ですよ、少し待っていてくださいね、すぐ戻りますから」

     ほんの少し機嫌を良くしたように見えるが、奥底には仄暗い怒りを感じとれて雪はそこまで怒るようなことがなにか合ったのだろうかと思い返すが何も思い当たることは雪には心当たりが無かった。
     強いて言うなら向こうの本丸の一期一振と鶴丸国永にチョコを渡したことぐらいだからそんなことでここまで怒るようなことなんだろうか。

     部屋で待っていろ、と言われた雪が部屋で大人しくしていると今朝一期に手渡したものが収まっていた。

    「……まだ食べてなかったの? 朝餉の後のデザートに、って思って渡したんだけど……」
    「ええ、なんだか勿体なくて。私はあなたが作ったものを食べるのは初めてですから、大事に食べようと思いまして」
    「そ、そう? ならなんで……」
    「折角ですから、あなたに食べさせてもらおうかな、と」

     一期の言葉に雪は目を丸くした。そんなことで良いのかと。それならいつもやっている事だし、慣れたものだ。
     一期の手元にはそれを食べるためのフォーク等がなく雪は食器を取りに行こうと立ち上がる。
    「それでも一期の機嫌が治るなら……。ちょっとまってて、食器とってくる」
    「いえ、必要ありませんよ」
    「いや、だってチョコだよ? 手についちゃうじゃん?」
    「主の手は汚くないので気にしませんよ」
    「いや、汚いって。てかそういう問題じゃ……」
    「……なんでも言う事聞くって仰ったでしょう? ああ、お行儀のことですか? それなら歌仙殿には内緒にしてあげますよ。バレても私のせいですから、主が怒られないようにして差し上げますから。それとも主は神との約束を違えるおつもりですか?」

     一期は、きゅうと目を細めると雪の顔をまじまじと見つめる。この件に関して雪に拒否権はない、と言いたげな目に雪は目を逸らしながら首を振った。
     今日の一期は随分と強引だと雪は感じていた。雪は一期が差し出しているチョコレートを受け取ると封を開ける。
    「わかった、わかった。……ほら、あーん」
    「んっ……」

     雪が一粒手に取り、一期の口元まで運ぶと目を閉じて口を開く。
     いつもは口元まで運べば自ら口の中に入れるというのに今日はとことん甘えるつもりなのか雪が口の中に入れるのを待っているようだ。雪もそれを直ぐに察するとチョコが溶ける前に口に入れてしまえ、と一期の口の中にチョコを入れた、その時。
    「ちょっ、一期?! は、離して」
    「……」
     口の中に入れた雪の手を掴む。そのままかり、と指に軽く歯を立て、じい、と雪の反応を見つめる。雪が驚いて手を引っ込めようと腕に力を入れるも、そもそも雪は女で一期は男だ。それに刀剣男士で人間の男よりも力は歴然たる差がある。当然、敵う訳がなかった。雪の顔にじわり、と熱が集まる。

     雪から目を離すことなく一期は表情の変化を見逃すか、と言いたげにまじまじと見つめる。その瞳の奥に宿っているのは目を離すな、と言いたげな色を宿していて雪は目を逸らすことも遮ることも許されておらず雪は一期の様子に戸惑いを見せた。
    「あっ、あの、いちごっ……」

     雪の戸惑ったような声を一期は無視してそのままペロリ、と指先についたココアパウダーを舐め取る。その行動に雪は肩を揺らす。
     雪はどうして、と言いたげに瞳を揺らし一期のことを見つめる。
    「……これでお分かりいただけたか。私達は、男だということ。私があなたをそういう目で見ている、ということ。私達が本気になれば主は抵抗できないんですからね。よくよく考えて発言してくだされ。……簡単に何でもするなんて言うものじゃないですよ」

     雪の戸惑う瞳を見て満足気に目を細めると名残惜しげに指先に口付けると雪の手をようやく離す。
    「……ごちそうさまです、主。おいしかったですよ。残りは一人で大事に食べますね。お願いを聞いて下さり、ありがとうございます」
    「……え」
     去り際に雪の頬にキスを落とし誉桜を舞わせると驚いて固まっている雪の手からチョコの箱を抜き取ると満足気に微笑み、雪の部屋を後にする。

     バレンタインから数日、鶴丸と一期を呼び出しフラワリウムを手渡す。
     雪としては一期とはまだ気まずくて二人きりになるのは如何せん気恥ずかしさがあり、鶴丸と一緒に呼び出したのだ。

    「ありがとうございます、主」
    「わざわざこんなものを用意しなくたってチョコだけでも充分だったのに」
    「じゃあ鶴丸にはあげない」
    「嫌だ、君から貰ったものは何に一つとして譲る気は無いぞ」

     鶴丸が受け取ろうとしたフラワリウムをぎゅっ、と抱きしめると鶴丸はムッとしながら雪の腕から抜き取ると渡さないぞ、と言いたげに懐へとしまう。

     これで残るは私だけですよね、なんて言いたげな一期の前に雪が一期の目の前に立つと気まずそうに目を逸らし、一期のために作ったフラワリウムをずい、と差し出す。
    「……はい、一期」
    「ええ、大事にいたしますね、主」

     受け取るその一瞬、鶴丸が目を離した、ほんの一瞬。一期の指先が雪手をするり、と撫でる。

     ぶわり、と雪のその白い顔が赤くなり、脱兎の如く逃げ出す。
    「っ……!! じゃあ私仕事! 仕事してくるから!! 今日は解散!!」
    「おいおい、待ってくれよ主! そっちは真逆だ!」

     逃げ出した雪の後ろを鶴丸は慌てて追いかけ、部屋には一期だけが取り残される。

    「……誰にだって、渡しませんから。主、お覚悟してくだされ」
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