Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    botabota_mocchi

    @botabota_mocchi

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 103

    botabota_mocchi

    ☆quiet follow

    ご想像にお任せします。ラハ光♀。
    酔っ払い公(https://poipiku.com/3188973/5731919.html)と地続き。

    ##ラハ光

    痛い目見せてよ反省していないな、と。真っ先に脳裏によぎったのはその一言である。
    海都リムサ・ロミンサ。どこまでも続く真白な石造りの道が、空と海の蒼を区切るそこ。北洋地域への船の出る国とあって、グ・ラハがエオルゼアに降り立つ際には必ず利用される場所であった。冒険者と約束をしていた今日とて例外でない。たしか、ミズンマストに一泊して、翌日調査に出ていくのだと言っていた。バルデシオン委員会再建に向けて忙しくしているようで何よりだ、手伝えることがあればいつでも言ってくれ、と。そう返したはずである。それならあんたの顔が一目見たい。暇があれば会ってくれなんて熱烈な言葉をいただいたので、その日暮らしの冒険者は海都へ足を向けたのだ。他でもない彼に会いに、溺れた海豚亭へと。
    煌々とした照明の下、その真っ赤な髪の毛と同じくらいの赤ら顔をした男がカウンターに突っ伏している。バデロンがこちらの姿を見とめ、「もしかして連れか?」と苦笑してくるところまで含めて、なんだか物凄く――デジャヴだ。面倒見のいいマスターに縁がある。
    水晶公の時は久々の酒が回ったのだろうし、原初世界にて己の若い体と付き合う分には、節度を持って自分のペースで呑んでいたように思われた。嗜む程度にとどめていたはずだ。それなのに、どうしてまた。

    「強いお酒とか渡しました?」
    「いや。たむろってる冒険者連中と勢いよく安酒かっくらって、だ。あんたの連れなら止めときゃよかったな」
    「いえ、いいです。酒量くらいわたしの名前がなくても本人がセーブしてくれないと困ります」
    「そりゃあそうだ」

    カラカラと笑う。日頃荒くれ者の元海賊衆や冒険者の面倒を見ているだけあって、雑な物言いに理解がありすぎた。
    バデロン曰く、こうだ。最近軌道に乗ってきた冒険者グループの一人とエオルゼアの英雄の話ですっかり意気投合。盛り上がる会話をつまみに酒がどんどんと進み、和気藹々とした空気の中会計を持って――共に飲んでいた冒険者はすっかり潰れてグループのメンバーに回収されていったところでぷつりと意識を落とした、と。タチの悪い絡み方をするでもなかったから、てっきりそこまで酔っていないのかと思っていたらしい。
    隣の席に飛び乗って、肩を揺する。むずがるように尻尾と耳が動いて、ゆるりと面が上がった。

    「ラハくん」
    「……あれ、オレ、何してたんだっけ……飲んで……そう、あんたの話、してたんだ! 本人が来たぞ、あいつ喜ぶだろうなぁ!」
    「もう帰ってますよ」
    「なんだよぉ……あんたのこと、もっと自慢したかったのに」
    「自慢って……」
    「そうだ……オレの一番憧れの英雄がどんなにすごい人か……どんなに素晴らしい人か……オレが誰より知ってたいけど、みんなにだって知ってほしいよ……あんたは自分に厳しすぎるから」

    いっぱい褒められて、いっぱい認められて、愛されてほしいのだとラハは言う。自分で言うのもなんだけれど、これだけ世界中に名声の轟いている英雄にまだ足りないだなんて、この男は強欲がすぎる。真っ赤な顔で幸せそうに褒め称えられて悪い気はしないけれど、それは別に冒険者が英雄だからではない。富も名誉も関係ない。彼が自分を心から愛する人だと知っているからだ。一人の人間として。

    「隠しておかなくていいんですか、あなたにとって一番の……わたしの素敵なところ」

    そんなカマをかけたのは、たぶん、好奇心である。ラハは手を替え品を替え冒険者を賛美するけれど、彼のいっとうお気に入りがどこなのかはちっとも知らないのだ。未知があれば暴きたくなる。性分だ。紅い瞳はぼんやりとしたまま冒険者を見つめている。かくす?とおうむ返しして、むにゃむにゃと口の中で『一番』の魅力を吟味して。それから、破顔した。

    「隠さなくていいよ、見せつけたいんだ。生きてオレのそばにいてくれるとこ」

    答えになっていやしない。つまりなんだ、たかだか一介の冒険者の人生を丸ごと全部肯定して、好ましく思っているとでも、なんて。こんな、前後もないような酔っ払い。抑圧した本音を曝け出すような姿を――こうでもなくてはわがままに気儘にあれない姿を、いじらしさだと感じるくらいの欲目があった。そのくらいには、目の前のこの人のことを好意を持って見つめていた。

    「まったく……仕方のないひとですね」

    自分で思うよりもずっと柔らかい声がホールに落ちて、少しだけ居た堪れない心地だ。ビアホールで酒の一杯も頼まない非礼の詫びを兼ねてチップを置くと、バデロンは「律儀な奴だ」と笑った。

    「部屋に運んできます」
    「手伝いは?」
    「はは、いりませんよ。この人自慢の英雄だそうなので、わたし」
    「豪胆だねぇ。とはいえ、気心知れた相手だろうと酔った男の部屋だ、気をつけな」
    「お気遣いはありがたく。何かの間違いがあった方がよほど、この人は酒に気をつけるようになりそうですけど」
    「あんたが送り狼たぁ笑える話だな。一思いに食っちまうか?」
    「できませんねぇ、一生後悔しそうな人なので」

    腕の立つバデロンが取り仕切っているとはいえ、スリなんかも多いお国柄である。ウルダハなんかで寝こけていたらもっと色んな危険が想起されるし、軽々しく酒場で寝落ちなんかするものではない。けれども、それを叩き込むためだけに起こす行動としては、己の存在が彼の中で重すぎる自覚があったのだ。なんせ、隣で生きているだけで最高の人らしいので。
    ふにゃふにゃの酔っ払いの体温は熱かった。代わって鍵を受け取って、一人用の部屋に転がり込む。自分より図体の大きな人間を動かすのは、当然、歴戦の英雄にだって骨の折れることだ。多少雑にベッドに転がすのくらいは許して欲しかった。灯りもつけずに歩き回った室内は薄暗い。けれども、大きな窓から差し込む満月の光のおかげで、視界は十二分に明瞭だった。

    ところで。

    「今夜のわたしの寝床はきみが決めていいですよ」

    ベッドに突っ伏す体が露骨に強張った。耳のいい彼はちゃんとわかっているはずだ。まだ客室に空きがあることも、冒険者が今夜の行く宛に困らないことも。相変わらず素知らぬ顔で狡いことのできないひとだ。わかっていて乗る私も私だけれど、と内心ごちた。寂しさだろうか、欲だろうか。部屋まで誘い込んだ『狼』の思惑は語られていないけれど、なんだって応えていいと思っていた。望むのならば。こちらを恐る恐る伺い見る真っ赤な顔は酒気によるものではないだろう。ぎゅうと寄った眉根は何かに耐えているようで、迷っているようで。なんだか悪い女にでもなった気分だ。……悪くないな、と思った。

    そっと腕を引かれたのを、月光だけが照らしていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💯💖💖💴💕💕💘💖💖💖💖☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works