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    naibro594

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    naibro594

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    【ダンムル/🔧軸】
    🌹と🔧工房パラレル。これから⏰🌇になる話。
    新人管理人(マネージャー)⏰の仲間入りと、気さくな🪲と、一番優等生で問題児のあいつ。
    注意:⏰は人の頭(時計頭に見える認識阻害機を使用)、🌇がほぼ出ない

    嗚呼、愛しき工房の日々 1今日、新たな所属者が来た。もしかすると昨日かもしれないが、わからない。
    いつ積まれたのかも不明である書類の隙間に貼られていた代表からのメモを受け取った。
    『新しい子が明日来るの。仕事のこと訊かれたらよろしくね〜』
    これでは何もわからない。多分昨日だったのだろう。

    つまりは男にとって、赴任してきたばかりのマネージャーというものは、何ら意識を割くに値するものではなかった。


    1.
    ある者は目を擦りながら。そして朝礼が始まったことへ気づいていないように作業を続ける者すらいる中で、ワインレッドの服を着たいくつもの視線が一つ所に向けられる。
    「みんな〜、今日はこの工房に新しく入る子を紹介するね。これからみんなの仕事や生活をサポートしてくれるマネージャーだよ。さあダンテ? 挨拶して」
    <えっと……ダンテです。よろしくね>
    ぺこりと下げられた頭は人のものではない。その義体は彼の丈が余って折られた袖から覗いている赤い腕時計によく似ていた。
    このバラとスパナ工房の会長であるロージャが
    スカウトした新しい『管理人』。所属のフィクサーによってひどく偏っている業務量の是正や支援、そして何より面倒な書類の承認作業から逃げたい彼女にとって、彼の存在はまさにうってつけだった。

    とはいえ、入社したばかりの新参者にやり方を否定されてすんなりと聞き入れる人間などそうはいない。
    それを理解しているダンテはまず、入社して最初の一カ月を工房のフィクサーたちと『友人』になることへと費やした。
    持ち前の人当たりの良さに屈託のない笑顔を想起させる軽快な針音。ロージャから事前に得ていた情報を足がかりとして、世間話をしながらも相手のことを喋らせていく。
    年配で厄介そうな者も、仕事のことやこの都市への愚痴に流れるがままの相槌をうち、若い経験と甘さを残した持論を一つ添えてやればたちまちに心を開いて容易に懐へと潜りこめる。
    自分同様つい最近入ったばかりという黄髪のフィクサーは、身につけていた小物から推している特色について熱く語らせた。そうしてから『尊敬するこの工房の敏腕会長』へと話をスライドし、同じ場所に所属する仲間としての認識を強めてもらう。
    友好的なグレゴールからは彼のみならず、他の所属員についても聞くことができた。
    <やあ、おかえりグレゴール。コーヒー一杯どう?>
    「いいのか? うれしいね」
    <せっかくだから飲んでる間、仕事の話を聞かせてよ。まだ外勤のことは全然わからないんだ>
    彼は外勤専門のフィクサーで、事務所にはいないことが多い。指示書の受け取りや成果の報告に訪れたところを捕まえて話をするのが定石だった。
    「うちの隊長も他の奴らもみぃんな旦那の話してるよ。人気者だな? 寂しくてやきもち焼いちまいそうだ」
    <こうやってコーヒーをダシにしてまで、君とお話ししにきてるのにかい?>
    「はは、嬉しいこと言うな〜。だから好かれんだ、お前さん」
    人気のない外階段の踊り場に散らばり落ちる笑い声をあたたかな風がさらっていく。
    生来の人懐こさの奥に、少しだけ見え隠れする打算。口に出さずともわかる、似た者同士。
    ダンテにとって彼はつきあいやすく、また最も利用しやすい情報源だった。グレゴールから見たダンテもそうで、お互いにわかった上でこうして穏やかな休憩時間を過ごしている。
    「しかしさすがの旦那でも、あいつをどうこうするのは難しいんじゃないのかな。あの……何つったか、いっつも残業で書類仕事してるヤツ」
    <あ、やっぱり……?>
    そう。それなのだ。
    この一月でダンテは、この事務所に所属するほぼ全てのフィクサーに関しておおよその情報を得ていた。仕事において得手不得手とする分野、性格から休日の趣味、好きなものまで。
    それらは次の段階、つまりは指導や是正へと進むための大切な足場になるものだ。
    ただ──たった一人。
    このバラとスパナ工房において、重要な案件は一度は彼のもとを通るほどに優秀であり、そして誰よりも勤務環境に是正の必要なフィクサーに関してだけは、全くといっていいほどに何も得ることができていなかった。
    彼はこの工房の主力であり、そして最も大きな欠陥だ。彼一人に頼りきった結果、この工房では他の人材がろくに育っていなかった。
    倒れるか、去るか、死ぬか──きっかけはどうあれ。今のままでは、遅かれ早かれ工房の壊滅は免れない。
    それに、何より。
    <……誰がどう見たって限界だよね、あれ>
    「だよなあ……」
    恵まれた骨格に似合わぬ痩けた頬に濃い隈。ひどい時には外勤中に立ったまま電池が切れて落ちている、最早なぜ動けているのかもわからない壊れかけのロボットのような男。
    <……でも、めげないよ、私。ロージャには恩があるからね>
    行く宛もなく彷徨う最中で手を引いてもらったその時に、彼女の大切なこのバラとスパナ工房をもっと良くしてみせると決めたから。
    「はは、俺の資金のためにも頼むぞ旦那。…………じゃあそろそろ、次に行くよ」
    <うん。気をつけてね、グレゴール>
    階段を降りていく背を見送れば、少しして風が煙草の微かな煙を届けてくれる。
    今のその一本は彼にとってのスイッチ、仕事に集中するためのものだ。
    <さあ、私も仕事しなくちゃ>
    ぐいと伸びをして、ダンテもまた事務所の中へと踵を返す。まずはあの目をどうにかしてこちらへ向けさせるところからだ。
    いくつものアプローチを練りながら、発生源同様無機質に降り注いでいるタイピング音の雨中へと飛びこんでいった。
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