安息の場所散った檀香梅の花弁の中、ふと脳裏を過ったのは尾を引く赤い目の横顔だった。
遠く過去を想い、自らを糧に世界の回帰を望んだ彼女と。屠ってきた都市の人々と同じように自分の感情すら斬り捨ててしまって、かつて身を削り生じさせた紅に溶けたらしい彼と。
抱いていた気持ちを伝えた時に見た、攻撃ではなくまるで子供が体を丸めて身を守るような拒絶の姿。僅かな違和感に歩みを進めた先で得た温もりに、『……だから、嫌だったんだ』という誰に聞かせるでもなく零れ落ちた言葉。
夜を重ねる度にその目の奥の哀しみを知った。とうに裂けてしまった空の心では未来など満足に描けないのだろう。手の中に握りしめた唯一残る欠片のために残った外側も全て捧げてしまうつもりなのだと、だから、それ以上を持つつもりはなかった、持ってはいけなかったのだと。
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