腕枕と体温⑤◇ ◇ ◇
お昼までの部活の後、家に帰って軽くシャワーを浴びた。昨日の家のうちに母さんには、友だちの家でゲームしながら泊まってくると言ってあるので、家のゲーム機と着替えをリュックに詰めて家を出た。
ちょっと慌てているかもしれないけど、大丈夫かな。
リュウジさんにメールをしてから、電車に乗る。
昨日は、二人きりになったあと、久しぶりに会えたので舞い上がってしまい、色々夢中になって恥ずかしいことを口走ってしまったかもしれない。今思い出すのは、その先を望んでるリュウジさんの言葉とか熱っぽい瞳とか途切れ途切れで……
周りに人がいなければ、頭を抱えそうなくらい恥ずかしいけど、僕は今日、その続きのためにリュウジさんの家に向かっているのだ。
◆ ◆ ◆
シマカゼから連絡が来たので、最寄りの駅に向かう。どうやらお昼も食べないで飛び出して来てしまったようだ。昨日、自分でも前のめりになってしまった自覚があるので、冷静になった今日、シマカゼは緊張しているかもしれない。
改札前には、リュックを背負ったシマカゼがいる。
「荷物重そうだな」
「友達とゲームすることになってるので、ゲームと、着替えが入ってます」
「…緊張してるな」
「…少し」
「大丈夫、ゆっくり帰ろう。まずは急いで来たシマカゼのお昼ごはんをからだな」
「はい」
シマカゼの表情は、家に帰って色々考えてしまったのだろう、ちょっと固い。少しでも安心できるよう、たまに行く安くておいしい定食屋に向かうのだった。昼ご飯を食べながら、部活の練習メニューや、夏休みのことを話して、少しずつ表情が和らいできたようだ。
「夕飯は何がいい?」
「ぼくも手伝わせてください」
「じゃあカレーかな」
「ふふ」
「ちょっと買い物もしないとな」
定食屋を出て、冷蔵庫に無さそうな食材を買ってから、カフェで冷たいドリンクを買う。外は少し暑かったが、パラソルが出ていたので、テラス席に座ることにした。
「甘そうだな」
「ほうじ茶味、飲みたかったんです。美味しい…」
ニコニコしながら、期間限定のドリンクを飲むシマカゼは、いつも落ち着いているけれど、年相応のかわいらしい顔にハッとさせられる。
「色々連れ回してしまったけど、疲れてないか」
「いえ、リュウジさん……気を使わせてすみません」
「昨日…ちゃんと止まれて良かった」
そう言って指先に触れてみる。シマカゼはちょっと驚いたようだったが、視線は伏せたまま、ほうじ茶ラテを飲んでいる。顔がさっと朱が差す。
「……家に行っても大丈夫か。先にご飯作ろう」
「…はい」
◆ ◆ ◆
身体に触れることは生理的に求めてしまうものだ。仕事や課題で、自分のことを疎かにしてしまうので、何気ない会話や一緒に食べる食事は、かけがえのないもので、シマカゼがいることで、自分のことが好きになれてきた気がしていた。
家に着いて一緒にご飯の準備を終えると、夕飯にはまだ早いようだった。流しの中を片付けていると、
「…リュウジさん」
シマカゼが後ろからぎゅっとTシャツの裾を握る。前にもこんなことがあった。正面から来るのが恥ずかしいのは彼らしい。
「…ぼく、もう大丈夫です。…だから…」
背中にシマカゼの頭がぎゅっ付けられていて、そんな甘えた仕草にぐっとくるものがある。手を拭いて、向き直ると、
「…分かった」
頭を優しく撫でる。その手でそのまま頬に触れる。
「先にシャワーを浴びててくれ」