Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    kawarano_zassi

    ジャンル雑多。エログロとかの可能性も無きにしもあらず。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 94

    kawarano_zassi

    ☆quiet follow

    ほぼなにも変わってないけどまたあげちゃういえーい!

    私は何もない空間に立っている。わかるのは周囲が暗闇に沈んでいることと、その中に立つ私を、上から降ってくる光がスポットライトのように丸く照らし出しているということだけ。声を上げて誰何しても応えはなく、動きも物音も匂いもしない。
    そんな空虚で何もない空間の中にあっても、私の胸に不安はなかった。むしろ怯えや恐怖などとは縁遠い、浮き足立つような高揚感に包まれている。
    光が照らすこの場に立っていられることへの歓びと多幸感、そして誇りを胸に抱いて、ただそこに立ち続けた。そこに立つ私は完成されていて、満ちていた。
    だがそうしているうち、ある変化が起こった。
    満ちていたはずの私にいつの間にかできていた隙間。そこから風が吹き込んで来たのだ。
    春のように朗らかなそれをどうすればいいのかわからず、立ち尽くす。
    そうする間も風はただ吹き、私の中をぐるぐると巡る。
    どうすることもできずにいると、暗闇の向こうから視線を感じた。
    (誰かに見られている。)
    光と私しか存在しないそこへ、別の誰かが侵入したのだ。私の視界は怒りのあまり真っ赤に染まり、その闖入者に怒りの雄叫びを上げて早々に立ち去るよう示した。だがそれは立ち去る気配を見せず、赤く浮かび上がる敵影に私はとうとう腰元の斧へ手を伸ばす。
    それを、背後から誰かの腕が捕らえた。
    同時に光は消え失せ、私は引かれるまま誰かの胸に背中から収まる。視界の端に、赤がチラつく。
    見れば、私を両脇から抱きかかえる赤い袖が、持っていた銃をそっと私の両手に握らせた。されるがままの私の腕は、なぜか小刻みに震えている。オドオドと視線だけ右へ左へと彷徨わせていると突然、目と鼻の先に人影が現れた。
    机に突っ伏して眠るそのひとからは寝言が聞こえる。真っ白で強烈な光に照らされた黒いうなじが光を反射し、金属の輝きでもって私の目を刺す。
    赤い袖に促されるまま、その無防備なうなじに銃口を向ける。金属の肌と触れ合った銃が、腕の震えにあわせてカチカチ、と不快な音を鳴らす。いつも少し猫背気味な背中が、ゆったりとした呼吸の度にかすかに動いている。
    瞬きもできぬまま固くなるばかりの私を袖が宥めるように撫で、梳かれた髪がさり、と耳元に落ちた。下界に曝された狩人の耳を、重油のような囁きが犯す。
    「さぁ、今しかない。自分を救え。」
    呼気を受けて靡いた髪が、耳をくすぐる。その甘美な声に、浅い呼吸で喘ぐようにしながら首を横に振った。
    無理だ、できない。
    「いいや、出来る。だってあんたは神に遣える狩人だろう。こんな男一人狩るくらいなんともない。」
    「こいつを殺したところでなにも感じやしないさ。邪魔な石ころを蹴飛ばしたところで悲嘆に暮れたりするか?しないだろう?だから、」

    『『『さぁ、さぁ!さぁ!!その引き金を!!』』』

    耳の間でぐるぐるととぐろを巻いていた言葉は、今や万雷の大合唱となって私を囃し立てる。
    でも、だめだ。だめ。だって。だって、そんなことをしたら、まるで、私が、
    「神か、人か、ふたつにひとつ。」
    「証明しろ“ブラッドハウンド“。お前が“何“なのか。“誰“のものなのか」
    冷却塔の底よりなお冷ややかなこの声がどこから湧くのかすらわからない。急かす絶叫は留まるところを知らずに飽和していく。腕と下腹が、とろりと甘やかに擦られ、冷や汗を辿って舌が首筋を這った。声と裏腹な温度をした吐息が口端にかかる。
    「それとも、手伝ってほしい?」
    まわりの絶叫がぴたりと止み、耳鳴りがするほどの静寂が支配した。
    「手伝ってもいいけれど、それには対価が必要だ。あんたは何を差し出せる?」
    歌うような声へただイヤイヤと幼子のように首を振るしかできない。
    「おやおやおや?これは困ってしまったなぁ。」
    弾む声で言ったそれは嘲けるように忍び笑いを漏らして返答を、ただ待っている。私が堕ちる時を。
    うまく呼吸ができないまま金属を擦り続けていた銃口を、徐に自分のおとがいへ向ける。唇が勝手に何かを口走った気がしたが、発砲音にかき消されてなにも聞こえなかった。これで、私は解放されるのだ。もうなにも考えなくていい。なにも。彼のことも。私を安堵が包む。
    至近距離での発砲で一時的に聞こえなくなった耳が回復する頃、ずっと瞑っていた目蓋を開ける。目の前の銃口からは、まだ硝煙が立ち上っている。
    確かに私の下顎から脳を捉えていたはずの銃口が、後ろから伸びてきた腕によって矛先を捻じ曲げられていた。
    恐る恐る振り向けば、目の前には、顎から上が丸ごと吹き飛んでしまった頭があった。銃撃によって四散した肉片は時間が止まっているかの如く、空中に静止している。
    自身が生み出した凄惨な光景にヒュ、と息を飲む私へ、上顎を失った舌がチロチロとうねり、平然と話しかけて来た。
    「あーあ、今日はこれでお別れかな。でも、」
    空中に止まる肉片の隙間から、弾け飛んだ目玉がぎょるりと私を見つめる。
    「また来るね。」
    言い終わると同時にどちゃ、と血肉が、下に叩きつけられる音が響く。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏❤👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works