Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    kawarano_zassi

    ジャンル雑多。エログロとかの可能性も無きにしもあらず。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 94

    kawarano_zassi

    ☆quiet follow

    雇ペス燻る苛立ちを酒で飲み下す。この行きつけのくたびれたパブはいつもほどほどに人がいる。賑やかさは煩わしく、静かすぎては落ち着かない気分の時に来ては、片隅でグラスを傾けながらまばらな酔客たちをぼーっと眺めたり、自分の考えをまとめる場として使うことが多い。今日はこの先の捜査をいかに一人でやっていくかを考えていたが、まともな考えが浮かばないまま空のグラスばかりを重ねていた。上の決定を、俺はいまだ納得できずにいる。
    確かにここアウトランズの治安はいいとは言えない。盗み、密輸、詐欺、そして暴力。大抵の犯罪は毎日大盤振る舞いだが、ウチが捜査していたのはいつもの突発的犯罪ではなく組織的に行われている人身売買についてだった。証人は誰一人として居らず、被害者と思しき行方不明者が増えるばかりで、いくら追いかけてもバイヤーや顧客たちは煙のごとく消えてしまう。何も掴めぬまま焦りだけが積み上がっていくチームに、タレコミのメールが届いたのは二週間前のことだ。自分と家族の身の安全と引き換えに、知る限りの売買ルートを教えるという。存在しているということしか辿り着けていなかった俺たちにとって、それはまさに光明と言えた。
    だがそれを上は信じなかった。タレコミを偽物だと断じ、具体的な成果が認められないとしてチームを解体するとまで言い出した。これに皆で否を訴えたが判断は覆らず、頼みの綱だった情報提供者も、警察に頼らない形で安全を確保したという言葉を最後に音信不通となってしまった。あんな声で、何が「安全」だ。警察におもねったやつの末路などひとつしかないというのに。
    また込み上げてきた怒りを吐き出す代わりに、またグラスを干した。
    「おい、閉店だよお客さん。金置いてさっさと出てってくれ。」
    「わあってる、出てくさ。すぐな。」
    モップを持って面倒そうに声をかけてくる店主に回らない舌で返し、多めのチップと代金を置いて店を後にする。酒気で火照る頬に夜風が当たるのが心地よかった。
    自宅のアパートへはどっちへ曲がるのだったかと考えていると、ぐいと後ろへ引かれた。クラクションと怒声を残して車が目の前を通り過ぎていく。
    「あの、大丈夫ですか?」
    「あぁ、助けてくれてありがとう。」
    「随分酔ってますね。肩を?」
    「いや…、いや、すまない。世話をかける。」
    断ろうと首を振ったら何歩かたたらを踏んだ。飲み過ぎたことを自覚し、ありがたく彼の肩を借りる。親切な男もいたものだ。背はそれほど大きい訳ではないがしっかりとした身体をしているのか、俺が体重を預けてしまっても平気な顔をしている。その涼やかな目元を彩る泣きぼくろを眺めながら、自宅への道を案内していく。








    あまりの眩しさに腕を上げようとしたが、ギッと手首を締めるベルトが鳴っただけで、光を遮ることはできなかった。キツく閉じた瞼の裏で徐々に慣れていった目を恐る恐る開けると、正面の無影灯と傍らで何かのリストをチェックしている異様な人物が見えた。全身一部の隙もなく黒ずくめで、時代錯誤な嘴型のマスクが顔面を覆い隠しているそいつを誰何しようと動かした口にはマウスピースが嵌められているのか、ろくに話すことができない。あたりを見渡すと、狭い室内に詰め込まれた薬品棚が目に入る。どうやら俺は中央の手術台に拘束されていようだと理解し、呼吸が止まった。前後の記憶が全くない。なぜ俺はこんなところに?
    唯一自由に動かせる目玉をキョロキョロと動かし、どうにか現状を把握しようとする。黒いやつがチェックし終えたリストを棚に置いた時、部屋の扉が軋んだ音を立てた。
    「ブラッドハウンド、まだ大丈夫か?」
    「あぁ、解体はこれからだ。なにか依頼でも?」
    「いや。肝臓はいつもの奴が競り落としたから、軽く血抜きしといてくれ。」
    「了解。ありがとう。」
    「なぁ、これが終わったらしばらく暇だろう?一緒に旅行にでも行かないか?」
    「旅行?どこか行きたいところでもあるのか?」
    「いいや?……そうだな。海はどうだ?前あんたが珍しそうに特集見てただろう?」
    訳のわからない会話を脳がうまく処理してくれない。よくよく見れば、今入ってきた男は俺に肩を貸してくれた男だった。考えたくない方向へ思考がまとまっていく。
    男は親しげに言葉を交わしながら寄ってきて、黒づくめを抱きしめるように腕に閉じ込めたのを滲む視界で捉える。
    「あれは……。そんなつもりでは」
    「嘘。しばらくここらもバタつくしちょうど良いじゃないか。あんたの水着姿も見たいし。」
    「ふむ。君が期待するような格好はしないぞ?」
    「そうかい。まぁ、脱がすのは同じだから構いやしないさ。」
    「ふふっ、結局することは普段と変わらないな。」
    「あんたがいるのに抱かないわけないだろ?マンネリ防止だとでも思えばいい。」
    「わかった。準備は任せても?」
    「もちろん。」
    じゃあ後で、と戯れあいながらの会話を終えて、二人がそれぞれのドアを出ていく。どうか家族や同僚たちは無事であるようにと祈ることしかできない俺の耳には、手を洗っているのだろう水音に混じって微かに聞こえてくる鼻歌も悪魔の呪詛にしか聞こえなかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭🙏👏👏👏🙏💞💘💘💘💘💘💘💘💘💘
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works