偽物の芝生と壁紙の青空。一匹の男が鎖に繋がれている。
そこは、彼の為だけに作られたユートピアだった。
大きな体には窮屈そうな狭い小屋。その中に中途半端に下半身を潜らせて、男はぴいぴいと鼻を鳴らして眠っている。その姿は不幸そうにも幸福そうにも見えなかったが、本当の犬のようになり下がった様を見るたび、女は目を背けたいような、その実ずっと見つめていたような重たい気持ちになった。
だから出来ることならこの部屋には寄り付きたくないのだけれど、誰の思惑か、家の中を歩くだけですぐに入口の”舌”に捕まって、もう何度も足を踏み入れる羽目になっている。
雑に投げ入れられた体のほこりを払いながら立ち上がると、その音で目を覚ました男がバウと吠えて小屋から這い出て来た。そして一刻も早く女に近づこうと走り出すものだから、ピンと張った鎖に首輪が引っ張られて悲痛な鳴き声をあげてしまう。女が渋々といった様子で近寄ってやると、男は嬉しそうにその腕を舐めまわした。
1145