熱烈アピール 定期健診の際、ケルシーとひとことふたこと雑談を交わすことがある。ほとんどの内容は業務に関することであり、彼女の迂遠な、もとい含蓄に富んだアドバイスによって解決の糸口が見つかることも少なくはないためドクターとしてはありがたい時間ではある。だが日々の業務に関すること以外にも、時おり日常生活に関する『お言葉』をいただく場合がある。というのもドクターは記憶喪失でここ数年より前の記憶を一切持たず、それゆえにたまに生活において妙な振舞を見せてしまうことがあるらしいからである。立場が立場であるため直接的な注意を受けられる機会は少なく、そして役職上洒落にならない事態を招いてしまう危険性もあり、ドクター本人としてはひどく助かっているのだが、今回はといえば身体的特徴というかなりデリケートな部分についての注意が飛んできた。これはまずい、とドクターは即座に判断し神妙に頭を下げた。
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