藍忘機も静室の外に出るのを避ける必要がある為、元に戻るまでは彼の手料理を食せず姑蘇藍氏の食事を食べるしかない。藍思追が運んできてくれた藍氏の昼食を食べ終わった魏無羨は猿梨の実を口に放り込み咀嚼した。瑞々しく甘い味が広がる。甘さの中にも酸味があり、姑蘇藍氏の料理の苦味を緩和してくれる。
藍忘機より先に食べ終え、味覚に甚大な打撃を被っていた魏無羨はもう1つ口に入れ今度はゆっくりと舌先に広がる味と香りを堪能した。
虎は猫科で猿梨の実は木天寥科である。いわゆる猫にまたたび状態となった魏無羨は目がとろんとしていつも以上に藍忘機に甘えたくなった。
藍忘機が食事を食べ追えるのを近くに座り尻尾を左右に振りながら今か今かと待ち、食べ終えたのを見るとすぐ本能のままに抱きつき頭をぐりぐりと彼の広い胸板に擦り付ける。かと思えば藍忘機に生えた耳をぺろぺろと毛繕いするように舐めた。
藍忘機は照れて視線を下に向けると耳と一緒に生えた魏無羨の尻尾が大きく左右に振られている。猫が尻尾を揺らしているのは甘えているのだと先程の書物に書かれていたのを思い出し魏無羨の腰に添えている指がほんの僅かに動いたが、藍忘機に抱きついて甘えている魏無羨はその僅かな動きには気が付かなかった。
自分に甘え安心しきっている彼をもっと甘やかしたいと思う反面、彼が泣き許しを乞うくらいにめちゃくちゃにしたいと相反する衝動が藍忘機の胸を占める。触れてしまうと抑えが効かなくなってしまいそうで動こうとしない藍忘機を見て魏無羨は拗ねたように耳元で甘く囁く。
「なあ、藍湛。俺はお前が食べ終えるまでちゃんと待ってたのに褒めてくれないのか?」
「……やめ、やめなさい」
「んー、何を?」
「手をそんな所に置いてはいけない」
「そんな所ってどこ? 俺の左手はお前の背中に回してるだけだよ。抱きついちゃ駄目なのか?」
「右手をどかしなさい」
魏無羨は背中に回した左手で藍忘機の抹額を弄りながらなんの事だかさっぱり分からないという様子で尋ねる。
「右手? 右手がどうかした?」