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    k_nagaame

    無配慮派生🌟🎈雑多

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    将参
    月夜にひとを埋める

     月が綺麗だな、とふと思う。僻地の山奥、四肢拘束に猿轡で冷えた土の上に転がされていなければ。
     否、このシチュエーションであっても隣に居るのが微笑む参謀ならば、まぁ、まぁ、悪くなくは無かったかもしれんが。
     町へ出た帰りに路地裏で拉致された。大臣派の人間がまだ居たのか、ならばこれを機に吐かせて残党を殲滅するのも良いかと大人しく拐われてやった、が。
     ……まさか山に埋める為に連れてこられるとはなぁ…。
    「こいつが居なくなれば大臣派の復権も格段にやりやすくなるだろ、参謀の…なんだ、あのひょろっとした男。あいつは簡単に従わせられそうだろ」
    「いや、あの男も殺しちまえ。あっちこっちで手の平返す奴なんざ信用できるか」
     参謀の手の平。あと生白い手の平がひらひらと、裏返る。転がされてやるのも悪くないと接吻ければ、即座に頬を打ってくるのだろう、ただ耳まで赤いだろうから気分は良い筈だ。
    「さて、オラ見てみろ、お前の墓穴だ。そんな芋虫みてぇな格好じゃ這い出せねぇ深さだろ?」
     小突かれて穴を覗き込む形になる。…二、三メートルはあるか、良く掘ったものだ。
    「最期に言い残すことはあるか?聞くだけ聞いてやるよ、命乞い以外ならな」
     猿轡を乱暴に外される。男共の背後には、月。
    「…はは、良い夜だ。美しい月が三つも空に昇っている」
    「はぁ?何言ってんだ、天下の将校殿が恐怖で狂ったか?」
     耳障りな笑い声が一つ、打撃音と短い呻きとともに穴へ転がり落ちていった。オレの眼前に居た男が振り向く。…こんな奴に見せるには、勿体無い笑顔をした長身が月を背負って首を緩く傾けた。
    「美しい夜に御機嫌よう、クソ野郎共。それ、うちのものなので返して頂いても?」
     にこり、微笑む参謀に男が罵声を浴びせる。それを五月蝿い、と一言、スコップで横腹を殴打して穴へ落とす。それだとかものだとか、ふむ…うん、いや悪くはない。つまり参謀はオレを自分のモノだと宣言した訳だ。気分が良い。
     参謀が喚く男たちに向かって何か振りかける。それから至極面倒臭そうにオレの拘束を解いて何をやっているんですか、と。
    「大臣派の人間だったようだからな、残党が諸々と集まっているなら一度に叩いてやろうと拐われてやったんだが、着いてみたら生き埋めにされるところだった、という訳だ」
    「という訳だ、ではなくて。…私が気付かなかったら貴方埋められてたんですよ」
    「気付いていただろう、目が合ったのだから」
    「…………」
     苦虫を噛み潰したような顔をする。そう、拐われる時に路地の入り口に参謀は居た。駆け寄ってこようとしたのを視線で制した瞬間泣きそうな顔をしたのを、確かに見た。何より、
    「オレは参謀を信じているからなぁ」
    「……はぁ…」
     がっくりと肩を落とす。オレから視線を穴の底へ落とし、ところで、と柔い声が言う。
    「この愚行は貴方方二人で?他に仲間は?」
     覗き込むと縺れた舌がふたり、と答える。撒いたの麻痺薬か何かか。
    「貴方方二人?他に二人?どちらか、早急に」
     自分達だけだ、と。段々と手足も動かなくなってきたようだ。成る程やはり参謀の作った薬は効果が良いらしい。
    「では将校殿、早く立って下さい。埋めますよ、ほら」
     立ち上がったところでスコップを渡される。参謀はやりますよ、と平然と淡々と横に積まれた土を元に戻すように穴へと放り込み始めた。
    「残念ですね、他に仲間が居れば助かる可能性もあっただろうに。自分達の墓穴をせっせと用意して、御苦労様」
    「最期が、美しい夜で良かったな」
     絶望と懇願に満ちた悲鳴が上がるが、何分言葉として聞き取るには難しい程に呂律が怪しい。何処か、誰かへ遺したい言葉か後悔か何かだろうがオレたちには関係無い。





     綺麗に埋め固めた土の下からはもう何も聞こえない。息を吐いて空を見上げるといつの間にか真上に月があり、空にぽかりと穴が空いているように見えた。
    「私はいつまでも貴方の酔狂に付き合う気はありませんからね。程々にして下さいよ」
     岩に腰を下ろして深い深い溜息。そう言って死ぬまで付き合ってくれるのだろう、酔狂だろうが狂気だろうが、死ぬまで、死んでも、地獄の果てまでも。
    「……何を笑ってるんですか、埋めますよ」
    「埋めるなら別の場所にしてくれ、お前が毎日泣きに来る場所に他人が先に埋まっているのは堪えられん」
    「…………はぁあ…。馬鹿々々しい、早く帰りましょう」
    「そうだな、オレたちの家へ帰ろう」
     貴方の家でしょう、呟いて立ち上がる。突き立てたスコップは墓標だろうか、誰が来ると言うわけでも無いだろうに。
    「腹が減ったな…帰り着く頃に開いている店は…ないか」
    「あなたもうおじさんなんですから、こんな時間に食べない方がいいんじゃないですか?」
     懐中時計をから視線を上げたオレに、参謀はどこかおかしそうに眉を下げて幼げな表情で笑っていた。
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