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    ちゅきこ

    @chukiko8739

    20↑腐/文字書き1年生/掲載ものは基本tkrb🍯🌰(R18)/CP固定リバ有の節操なし
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    ちゅきこ

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    タイトルも決まってない諸景情趣つづき冒頭。
    書きっぱなし誤脱あるかもごめんなさい。
    頑張って書きたいので元気玉ください!

    諸景情趣20しんしんと雪の降る気配が障子越しに感じられる。傍の火鉢で赤くなった炭がぱちんと小さく爆ぜる。舞い上がる小さな火の粉が煤になって畳間に溶けるまで、辺りは怖いくらいに静かだった。年跨ぎの挨拶を済ませた本丸は往来の喧騒や宴会の賑やかしい声も無く、輪番の遠征と内番の他は、各々の刀派や誼みの面々で過ごすことになる。
    戦帰りに手入をした大倶利伽羅が目覚めなくなってから半月過ぎようとしていた。
    手入部屋から居室に移ってからは、僕は専ら彼の寝床の傍へついていた。長く厨番から外れても咎められないのは、二振目、つまりもう一振の燭台切光忠が代わりに仕事をしてくれているからで、時折回廊で出会すと、この頃出門がないのでいい役を貰ったと言って僕を気遣うように笑うのだった。
    きっと僕が彼でもそうするだろう、もし一振目の大倶利伽羅が目覚めなくなったとしたら。
    ここには僕たち燭台切光忠が二振いるのと同じように、伽羅ちゃんと大倶利伽羅の二振が顕現していた。伽羅ちゃんは僕とほぼ同時期からこの本丸にいて、先に修行から戻り、第一部隊の結成にはほぼ必ず参集される戦力の要だ。
    僕らは互いに青葉の頃からの記憶も各々の思案も清明に共有されていた。所謂、言わなくても相手のことは殆ど承知している。
    それなのに伽羅ちゃんは僕に頑なだった。寂しい時、少しだけ嬉しい時、恥ずかしい時、本当は震えるほど怒っている時、その何れも彼は涼やかな顔をするばかりで、声をかける僕がまるで嘘を吐いているように振る舞った。強くなりたかったのだ、と今思えば優しく解釈できるかもしれないけれど、〈聞こえて〉いる僕にさえ周囲と同じような立ち居振舞いを見せる彼が許せなかった。
    その上、後から顕現した二振目の僕には初めからすごく寛容だった。何も知らない真っ新な姿の僕ならそうまで気に入るのかと僕の狭量が猛烈に二振を遠ざけた。
    最後にここへ来た大倶利伽羅を見た時、少しだけ伽羅ちゃんの気持ちが分かった気がした。何も繋がらない、昔から知る姿なのに真新しい彼を見て、純粋に綺麗な刀だな、と思えたから。僕と伽羅ちゃんの間には結ばれないものと、こうして向き合えるのかと素直に嬉しく思った。
    二振目の大倶利伽羅は実直で真の強さがあり、無垢でやや危なかしく、言葉は少ないがよく目で語る刀だ。微かに湛えられている憂も、ふたりでいる時だけは綻ぶ。最近は伽羅ちゃんにもよく懐いていて、軍記の話をしたり手合わせをしたりしていた。

    急な出陣だった。当初派遣された第一部隊の戦況芳しくなく、負傷者を出しての帰城と聞いてから直ぐに大倶利伽羅をはじめ別の六振が呼ばれている。
    僕も伽羅ちゃんも何故かその日は本丸に控えで、直近で修行から戻った面々の力試しということだったのかもしれない。急な結成の組み替え、近侍の忠言、そして通用門の開錠まであっという間だった。難しい戦地だが必ず部隊は切り抜けて還ってくることは皆が承知していた。
    二度目の第一部隊の帰城を出迎えると、大倶利伽羅は怪我を負っていた。部隊長の加州くんに声をかけ、大倶利伽羅の肩を担ぎいつものように先に手入部屋に向かう。また無茶をして、などの小言くらいは漏らしたかもしれない。彼の脇腹は深く抉られていて、自分で歩行はしていたが話すのは難しいだろうという状況だった。
    手伝札で手入は即座に執行された。大倶利伽羅の服を脱がせて浴衣を羽織らせ、手拭いで傷を拭ってから処置をする。
    心鉄を打たれるような電光と衝撃が疾る。弾ける大粒の白光に視界が不規則に遮られた。触れている大倶利伽羅の身体が俄かに熱くなる。脳裏に浮かぶのは嘗めるような炎ではなく蔵から無限に噴き出す悍ましい熱風だった。蔵に閉じ籠められた火種が扉を開けて空気を吸った途端に爆ぜるように燃え上がり一面を包んでいく。
    その記憶は此処へ来る前の、はじめの連環のその果て、終わりにあるものだった。誰も知らない、僕だけがずっと内に抱える熱。当時はあれから暫く眠ってしまったけれど、今の僕や大俱利伽羅の身には怒らないことだ。手入は無事に終えられた。眼前の大倶利伽羅は手入が済めば僕が止めるのも聞かずすぐに起き出す筈だったのだ。
    あまりに穏やかな顔で眠っているので、疲れてそのまま仮眠をとっているのかと思った。寝返りひとつ打たない彼を見てそうではないと気づいた時、全てを見誤ったのだと気づいた。
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