生徒は見た 季節外れのボート小屋は校則違反にはもってこいだった。重なり合うオールの隙間に手を入れればお目当ての箱に指が触れた。久しぶりに吸う煙草は舌を痺れさせ、煙が目に染みる。換気のために窓に手をかければ、行儀良く並んだボートに誰かが寝そべっていた。
グレーのヴェストに金ボタン、グレーのスラックス。監督生エルヴィン・スミスだ。模範生の彼がなぜ講義をサボタージュしているのかは分からないが、問題は彼の股に黒髪の頭があったことだ。エルヴィンはその髪を梳きながら、普段からは想像もつかない顔をしている。そう、ひどく人間らしく、いやらしい顔。肺をニコチンで犯しながら魅入っていた俺は、黒髪を鷲掴みにされ、股間から持ち上げられた横顔に煙草を唇から落とした。
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