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    神崎りあ

    今は炎ホ

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    神崎りあ

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    久々に書きたい。
    完結させるつもりです…

    ぬいぐるみを手放せないホークスのはなし「え?」

    思わず、寝転んでいたベッドから起き上がった。膨らんだ風船が萎んでいくような、何とも虚しい気持ちが胸の中に広がる。
    聞き返したかった訳では無いのだが、聞き間違いである可能性に一縷の望みをかけて、電話口の向こうからの返事を待った。

    「週末、チームアップの要請があって、そちらには行けなくなった」

    ――でも、やっぱり、答えは変わらなかった。


    …………。
    なんと、返したらいいのか、分からないまま。
    無言でいると、電話口の向こう…エンデヴァーから声をかけられる。

    「聞いているか?」
    「え?あ、はい。聞いてます」
    「そうか。そういうことだから、約束はまた今度にしてくれ」
    「………」

    やです。
    と、言ったら、彼はなんと答えてくれるんだろう。
    遠距離恋愛という、初めてにしてハードな恋愛をしているホークスは、それが通常どの程度恋人に会えないものなのか、どのくらいの頻度であうことができるのか、ネットで聞きかじった程の知識しか持たなかった。それでも、3ヶ月というのは長い方なのではないだろうか。少なくともホークスにとっては、会いたくても会えないもどかしさや寂しさを募らせ、焦がれるには十分な期間だった。
    今週を頑張れば久々に会えると胸を膨らませ、電話がかかってきた時には会う約束の確認かと、元気いっぱい通話ボタンを押したのに。

    胸が重たくて、慎重に言葉を選ばなければ、なにか間違えたことを言いそうで、ホークスは唇を噛んだまま話せないでいた。
    でも、だって。
    子供みたいな言葉しか浮かんでこない。
    同業者なのだから、不測の勤務が発生することは、重々承知している。正直理由なんかどうだっていいのだ。それにこんなことは初めてではなくて、エンデヴァーも自分もそれこそ何度も約束を破る理由にしてきた。たかが恋人、それも自分のためなんぞに、ヒーローを放棄していいわけがない。そんなことはしてほしくない。
    対して、そんなん、あなたの事務所は大所帯なんだから、優秀なサイドキックに任せればいいでしょ、俺と仕事どっちが大事なんですか、なんて、どこのメンヘラ女だと突き飛ばしたくなるような言葉が、本気で浮かんで消えない。

    「…ホークス」

    痺れを切らしたエンデヴァーが、その苛立ちを隠そうともしない声色で名前を呼んだ。
    びくりと肩が揺れる。

    「何も無いならもういいか?切るぞ」

    がくり。肩が落ちた。
    なにそれ。
    てかなんでそっちがイラついてるの?

    「……それだけ?」
    「…は?」

    それはもう本当に無意識に、口が喋っていた。

    「もう謝ってもくれないんですね」

    電話の向こうで、詰まるような声がする。そして、短いため息。鼻の奥がつんと痛む。
    ああもう、自分が悪いとも思ってないんだ。

    「ホークス」
    「あ、いいです、大丈夫です。お仕事ですししょうがないっすよね〜。そんじゃ」

    早口で言い切ってしまうと、その勢いのまま通話終了ボタンを押した。向こう側でなにか言いかけていた気がするけど、聞いてあげる気にはとてもなれなかった。
    聞き分けのいい、出来た恋人でありたいのに。理想は現実に押しつぶされていく。感情のコントロールはあんなに沢山訓練したのに、エンデヴァーの前ではどうしたって上手にできない。
    ぼすん、と、再びベッドに沈みこんだ。携帯を伏せて置き、長く深いため息をついた。
    気が抜ける。自分がどれほど緊張していたのか、力の入って軋んだ肩が物語っていた。

    …ここのところ、自分も忙しくて。それこそ食事をする暇もない程に忙しかった。
    ホークスは、出自から、自分がそこそこ食い意地の張っている人間だと自覚している。三食きちんと食べられるほうが稀だが、空腹が自分の精神状態に直結していることを理解している。
    イライラムカムカ、果てにはメソメソして、ホークスの精神状態は健康とは言いがたかった。
    それに加えて、ここ数日起こった事件がなんとも後味悪く、その時の気分がかなり尾を引いていた。だからどうしても会いたかったのだ。そばにいて、話を聞いて欲しかった。
    そんなメンタルの時に追い打ちをかけるようにきたエンデヴァーからのキャンセルの連絡は、どうにも受け入れがたくて。今になってじんわりと、瞳に涙の膜が張る。

    おやすみなさいくらい、言えばよかった。

    まぶたを閉じると、涙が滲んだが、それは直ぐに枕に吸い取られてしまった。

    「えんでばー……」

    次から次へと溢れる涙を枕に吸わせながら。
    定位置にあるはずのそれを手探りで手繰り寄せる。

    母が買ってくれた、エンデヴァーのぬいぐるみ。

    もう随分と小さく感じるそれを、胸にぎゅうと抱き寄せた。
    腹を押してももう鳴かないけれど、耳に染み付いたあたたかな機械音は、ゆっくりとホークスを癒してくれる。

    もうこうやって何度も、寂しくてたまらない夜を乗り越えた。声を殺して泣く夜も、ぬいぐるみは知っている。

    物言わぬエンデヴァーは抱き締め返してはくれないけど、苛立った声も冷たいため息もつかない。ただ黙って胸の中に居てくれる。
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