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    とーい

    @utugixt

    👒受すきな🐸。小話ばかり。時々🥗👒ちゃんも

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    とーい

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    桜流しの雨という言葉が素敵だなと思い妄想。奪っていくスタイルの雨師🐯さんと桜の花精👒さんとの短い妄想。

    ##ロール

    春驟雨の帳に隠れて――桜流しの雨――そろそろ、起きたらどうだ。
    絹のように柔らかな蕾をそうっと雨粒で揺らせば、ようやく、待ち臨んだ時がおとずれる。
    「――あ、とらおだぁ」
    ほころぶ花のうちで大きなあくびを一つ零した桜の花精のふにゃりとした笑みに、暗色のフードをおろしたローも薄い笑みを返し手を差し伸べた。


    起き抜けこそローの懐で二度寝を決め込んでいたが、一夜明け、すっかり目が覚めたらしい。
    地上に降りたローがその姿を定位置である小高い丘の上に探していると、遠くから、呼ぶ声が聞こえた。
    「おーい、とらお!こっちだ!」
    視線を向ければ、桜だけでなく、こぶしに木蓮、つつじ、それに人里から賑やかな声に惹かれてやってきたらしい蓮華に菜の花——春が来た喜びを共に祝う花精達の宴が開かれていた。
    こっちこいよ、と大きく手を振るルフィとともに、種が異なるためにルフィのそれよりも紅の色が濃い桜の精たちが、纏う衣の如く頬を染め控えめに手招く。
    自分たちを咲かせる役目も負うからだろう。特に美しく咲くことが何よりも誇りである花精のなかには、雨師との関係を良くするため媚びをうるものもいる。
    特に、ルフィという身近に愛でられる存在がいることにより、羨み、妬み――あわよくば自分がその場所に、という下心が艶めいた笑みに透けて見えて。
    不機嫌な表情を作ったローは、ルフィの声をも無視して空に向かいてのひらを掲げた。
    次の瞬間には、空を渡る雲の上。
    地上を見下ろせば、その羽衣で浮かびあがれるぎりぎりまで本体から離れたルフィが「もういっちゃうのかー?」と叫んでいる。その、なにもわかっていない呑気な表情に自分でも理不尽だと知りながらも苛立ちを覚えたローは、腹いせに動かした指先で粒の大きな雨粒を弾き飛ばし、花精達を慌てさせた。
    まあるい額に最初の一粒をぶつけられたルフィが「とらおのばか!」と叫んだ声が聞こえたが、既に降らせてしまったにわか雨を一瞬で止めるわけにはいかない。
    遠ざかっていく羽衣のかたちが、おぼろげになり、見えなくなるまでその場に留まったローは、自嘲を込めたため息をこぼしてその地を後にした。

    ◆ ◆ ◆

    桜の花の命は、短い。
    風師の気まぐれで遠くまで流され戻ってきた時には、ルフィはその本体である桜の木の内で再び永い眠りについていた。
    たった一年のうち、数日しかない逢瀬の機会を潰してしまった自身に怒りを覚えれば、雨脚が強くなっていく。この地で一番に咲いたルフィの眠る木は青々とした葉を茂らせる雨に喜んでいたが、まだ花を残していた桜の花精達が、ローに恨みがましい視線を向けながら散り、その姿を消していく。
    眠りについたルフィの体に背中を預け、落ちていく花たちが小さな川面を流れていく様を見るともなしに眺めていたローの虚ろな目に、ふ、と光が宿る。
    脳裏に蘇ったのは、書庫で紐解いた書物に書かれた、禁を侵した雨師の記録を綴った言葉。
    花に宿る娘に恋い焦がれたその男が、おとめを散らし、奪ったその方法は――それだけがどうしても思い出せなかったローは、地上に降り立った時のような緩慢な動きが嘘だったかのようにマントを翻し空に駈けのぼった。

    ◆ ◆ ◆

    ――起きろ。
    「――んぅ……?さぶっ!え、とらおか?なんでこんなに寒ィんだ?!」
    ルフィにとって、春を告げるのは『春の雨』というよりも『ローの声』だ。
    丘の上、この辺りで一等高い場所にある桜の木が、ルフィの棲み処。そろそろ起きる頃合だというのは、木の内で感じる空気のあたたかさで知ることができるが、最初の蕾が咲くその日まで、数日かけ呼びかけてくるローの声こそが、ルフィにとって春という幸せな時間の始まり。
    出会った頃こそ、『さっさと起きろ!』なんて枝を叩くようにして起こされたものだが、巡る季節の中でもたった七日前後の短い時を重ねていくうち、仲間たちが、恋人と揶揄うような関係になった
    だからこそ、先の春は理由もわからずローと会える時間が削られてしまったことが寂しくて。
    そのまま眠りについたからなのか、それとも、ローがまだ不機嫌なせいでこんなに寒いのか、と羽衣を体に巻き付けるようにしてどうにか起き上がったルフィは、ローが招き入れるようにして広げたコートの内にさっと飛び込んだ。
    満開が近くなればほとんど変わらない――まだ友ともいえない頃にローにそう言った時は、どこがだチビ、と揶揄われたものだが――背丈になるが、起きたばかりの今は、ローの掌に座れるほどの大きさ。
    だからこそ、簡単に、いちばんあたたかでほっとする、鼓動の音が聴こえる場所にくっつくこともできる。
    けれど、久しぶりのぬくもりに、ほっといきをはいて名前を呼ぼうとした、その時。
    「――?」
    風を切る鋭い音。そして、一瞬、体が浮き上がったような、ほんの少しの息苦しさを伴う不可解な感覚。
    驚きに目が覚め、それでも花が散る前の眠気に似たそれに引きずられ落ちそうになる瞼をどうにか開いたままで首を巡らせたルフィは、大粒の雨の向こう側に、溶けるように消えていく羽衣を見た。
    「大丈夫だ。――痛みは、感じなかっただろう。これを、手に入れた甲斐があった」
    起こすための呼びかけよりも、ほんの少し柔らかさが加わった声が告げた言葉。頭の中で繰り返してもそれが何なのかわからず、それでも視界の端できらりと光った何かが、ローが手に入れたものであり、あの音の出どころだろうということだけはぼんやりとわかった。
    何が起こっているのか教えて欲しい、と眠気のせいでうまく回らない口の代わりに視線を上へと向ければ、フードを目深にかぶったロー返してきたのは、見たことのないような表情。
    笑いかけられているのに、ほんの少し、怖い。
    元々淡い色が抜けて、真白になった薄い衣を掻き合わせ小さく震えながら、ローの名を紡ごうとしたルフィの唇を、冷えた指先がなぞった。
    その手の行く先をおったルフィの周囲から、音が、忽然と消える。
    ――さあ、いくぞ。
    そう言っているように思えた口の動きに、どこへ、と尋ねようとした次の瞬間、ルフィの体も意識も、コートの内の暗闇に飲み込まれた。
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