緑のカーテンに隠れて切り絵のようにくっきりと落ちる緑を形どった影の下、どちらともなく交わった瞳。
触れた頬の間で交わった汗の粒が、首筋を滑り落ちていった。
ここ数日、雲ひとつない青空の頂点で輝く太陽の光は、痛いほど眩しい。
そろそろこの好天も終わりだと号令をかけたナミより甲板に運び出させられた男部屋の洗濯物は、半ば水遊びと化しながらも、フランキーの発明とジンベエが生み出す水流のおかげであっという間に終わった。パラソルの下に置いたデッキチェアに体を預け、乾いた喉を潤すドリンクのグラスを優雅に傾けながらも風を読んでいたナミが洗濯物の回収を指示するまで、ほんの数時間しかかからず。
ただ、夏島が近いのか、腕を伸ばしたルフィがマストから甲板に伸ばしたロープの一番上から下まで、一気にシャツを取り込み終わったその瞬間、まだ青空の欠片が残っている空から大粒の雨が降ってきた。
乾いた服は部屋に、タオル類は大浴場の棚に。手分けして片づけを終えた仲間たちとダイニングで喉を潤そうとした時、ルフィはその輪の中にひとりだけ足りないことに気がついた。
「――ぞーろー……寝てんのか」
オレンジをベースとしたジュースが入ったグラスに雨粒が入らないように、と傘を持たされさたルフィが甲板をぐるりと一回りしてたどり着いたのは、ブランコが揺れる木の影。そこには今、この暑さのせいでどこにいても気だるくなってしまうチョッパーのために、朝顔に似た花の蔓を網に絡ませた即席のウソップ特製グリーンカーテンがあり、最初に外に出た時は気がつかなかったのだ。
「おーい、おれが全部飲んじまうぞー?」
グリーンカーテンと枝葉のおかげでほとんど濡れていないブランコに腰を降ろしたルフィは、自分の分のストローを咥えつつ、木の根に座り幹に背を預けたゾロの寝顔を覗き込んだ。
――ふと、そういえば最近間近でこの顔を見ていないな、と気がついた。
一度それを意識してしまえば、止められず。
ずず、と音をたてて最後の一滴までジュースを飲みほしたルフィは、空になった自分のグラスを足元に置き、ぐ、と体を前に倒した。
「――もったいねェな。ちょっと零れちまったぞ」
掠めて終わらせるはずのそれが、いつの間にか頭の後ろに回されたてのひらで逃げ場をなくされ、深い口づけに変わり――離れたのは、雨音が弱くなってから。
すまし顔でグラスを奪い取り喉を鳴らすゾロを睨みつけたルフィに、あっという間にジュースを飲みほしたゾロが口角をあげて見せた。
「なんなら、もっと汚してからもっかい洗濯するか?またすぐ乾くだろうよ」
口調は軽いが、間近でルフィを映す隻眼は鋭く、再び空に現れた太陽の光よりもぎらついている。
――ナミに叱られるだろうけどな。
そう言って笑ったつもりだった自分の目も、きっと同じだろう。酒井ほど度はほんの少し違う笑みを浮かべたゾロの表情に、そう感じた。
勢いよくブランコから離れた拍子にグラスが倒れたのか、むき出しのふくらはぎにひやりとした感触を覚えたが、重なった唇と僅かに湿り気を帯びた服越しに伝わるじんわりとした熱が瞬く間に体中に広がり、それをかき消した。