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    とーい

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    1日1ロールタグ五周年とハピエンロルのコラボ企画用作品。
    お題が「夏の花とロール」とのことだったので、いろいろ調べてみてクレオメという花で書いてみました。密かに両片想いなロールです。話に出てくる花は、物語のなかで実際の花とは少し違う不思議な花として描写しています。

    #1日1ロール
    1RollADay
    ##ロール

    宵に舞う蝶の秘密 そろそろか、とグラスを置き視線を動かしたローに、ルフィもスプーンを動かしていた手を止めた。
    上陸するときは目を開けていられないくらい眩しかった太陽も、この島で一番うまい食事を出すと連れてこられた宿の一階にあるレストランで飲み食いしている間に、水平線へとその緋色の体を沈めようとしていた。
     ただ、ローがそろそろだといったのは、何も活動しやすい時間になったという理由だけではない。風を取り入れるために開け放たれた窓の下に視線を向ければ、色合いを変えた街のなかを歩く人々が同じ方角に歩いているのが見える。目深にかぶった濃紺のローブも、手に掲げた小さなランタンも同じものだ。
     行くか、とたちあがったローの手にも、小島に入る際に火を入れると説明されたそれがある。もう一方の手を差し出されたルフィは、これから始まるという祭りに胸を躍らせながら、麦わら帽子の上からローブをかぶせ、その手を取った。



     この島は、島民が住む大きな島と、その脇にひっそりと寄り添う小島に分かれている。ただ、その小島に人が立ち入れるのは、大潮の日に島を繋ぐ道が現れた時だけ。
     普段はその小島に自生する薬草を採取する役割を担うものだけが上陸を許されているが、特に暑くなるひと月だけ、夕方から夜にかけては、島民以外でもある特定の条件を満たせば島へ渡ることができる。
     島に上陸したのは自生する薬草を手に入れるためだったが、たまたまその話を酒場で聞きつけたローの脳裏には、ひとりの青年の姿がすぐに浮かんだ。
     祭り、と言えば、楽しいことが何よりも好きな同盟相手——麦わらのルフィがいちもにもなく誘いに乗るだろうということは、確信があった。ただ、問題はどうやってルフィだけを誘い出すかということ。
     手に入れた薬草を煎じつつ何日か船長室で物思いにふけり、数か月をかけて準備を整えたローは、久方ぶりにサニー号の甲板に立った。
     船長だけを連れ出すためにある意味一番の難物の、何かと勘が鋭い考古学者と航海士の追及は珍しい古書数冊と宝箱ひとつでかわしつつ、手土産の肉で船長とふたりきりになることに成功したローは、そういえば秘密の祭があるという島を知っているか、と誘いかけた。
    「……なんだそれっ。おもしろそうだ!」
     思惑通り、ルフィは口に詰め込んだ肉をゴクリと飲み込むと目を輝かせ——これは、二人でいかないと参加できないといった条件も素直に聞きいれ、そのままポーラタンク号へと乗り移った。
     楽しみだな!と船長室におかれた海図を眺めては向けられる笑みに、ローも「そうだな」と薄い笑みを返した。



     サンカジョウケン、のためにつないだままの手から、じわりと熱が伝わってくる。ただ並んで歩いているだけだというのに、同じように歩く人々がそろいの長衣で顔を隠しているからなのか、本当にこの手の持ち主が自分の知っている男なのかわからなくなってくる。
    「——とらお、」
     そうっと名前を呼び手を引けば、歩き続ける人々の邪魔にならないようにか海に現れた道の端へと連れていかれた。端といっても、宵闇の道で事故が起こらない様、転々と小さな灯りが置かれており、波打ち際はまだ遠い。
    「——どうした、麦わら屋」
     本当は見せてはいけないからか、ほんの少し衣をもちあげただけだったが、足元からの淡い光にローの顔が浮かび上がる。ほ、と息を吐いたルフィは、ローと同じく声を潜めた。
    「なあ、どんな秘密があるんだろうな。宝探しだといいな」
     無駄かもしれないと思いつつローの顔を覗き込み問いかければ、やはり、さあな、と短い答えが返ってきただけ。ただ、その口元に浮かんだ笑みは、ルフィの心臓を、どくん、と跳ねさせて。
    「——麦わら屋?」
     ローに会うたびに時々起こる心臓のおかしな動きに戸惑ったルフィは、なにもこんなときに、とそこをそっと抑えた。俯いたルフィに不審を覚えたのか、ローの声が間近で聞こえる。
    「……なんでもねェ!なあ、秘密に一番乗りしよう、とらお!」
     おい、と少し大きくなった声に、ゆっくりと歩く人々からも視線が集まるのを感じる。それでもルフィは、人々の間を縫い、ローの手を引いて足早に島を目指した。



     飛び込むように上陸した二人に、島の入り口に立っていた島民から、密やかな笑い声が漏れたような気がした。
    「——滞在時間は、こちらの火がお教えします」
     火が灯された蝋燭がランタンの中心に据えられる。その灯りを頼りに、ローは白や紫、ピンク、赤といった不思議な形の花弁をつけた花の間を進んでいった。
    「迷路みたいだな!」
     雰囲気にのまれていたのか、上陸するまでは再び口を閉ざしローの手を引いていたルフィが、ようやく弾んだ声を上げる。この先に宝があるかも!とはしゃぐ声が、夜に響いた。
    「——声を押さえろ、麦わら屋」
    「なんでだ、とら——」
     忠告したからか、あ、と漏れたその声は、咄嗟に口元にあてられたてのひらでくぐもった。
     視線の先で、ひらり、と赤い花弁が舞い踊る。それはまるで。
    「……まさに、蝶だな」
     クレオメ——別名、風蝶花と呼ばれるその花は、常夏の島では珍しいものではない。けれどこの島に咲く花は、このひと月の間だけ、その名の通り蝶のように夜に舞うという珍しい性質を持っていた。
    「もしかして、これがこの島のお宝か?」
     なァんだ、と苦笑交じりに呟いた声は、少し残念そうだ。だが、つと伸ばした指先にまとわりつくように舞う花の姿に、小さく上がった笑い声は楽しそうで。
    「面白れェ花があんだな!」
     蝶と一緒に踊るようにくるりと回ったルフィの体に、堪えきれず、ローは腕を回した。
     重なり合った二つの体の周りを、ふわり、ふわりと蝶が舞う。かと思えば、そのうちの二匹が、ランタンの中に吸い込まれる。
    「とらお、蝶が……!」
     慌ててランタンを掲げようとするルフィを押しとどめ、麦わら屋、とその名を口にしたローの声は、自分でもおかしなほど弾んでいた。



    「——あれ?」
     目を覚ましたルフィは、そこが探検のために上陸した島ではなく、宿屋のベッドの上であることに驚き、目を瞬かせた。
     その声に、窓辺でグラスを傾けていたローが視線を動かす。
    「……どうした。腹が減ったか」
     ふ、と口元を緩めたローの表情に、ルフィはまた心臓が跳ねるのを感じた。だが、これまでと違い、胸の奥に沸き起こるのはむず痒いほどのくすぐったさではなく、何かが満たされたような心地よさ。
    「なあ、トラ男……おれ、島で、」
     その理由があの島で見た花に関係があるような気がするのに、島でのことを思い出そうとしても頭がぼんやりとして考えられない。
    「麦わら屋、とりあえず横になれ」
     ルフィの様子がおかしなことに気が付いたのか、表情を改めたローがベッドの脇に歩み寄ってきた。そのまま、目を塞がれるようにてのひらで頭をそっと押される。素直にベッドに背中を預けたルフィは、ローが悪かったなと謝るのをぼんやりと聞いていた。
    「あの島で夜にしか咲かねェ花が特別な薬になると聞いていたんだが……どうやら、強い幻覚作用があるらしい」
    「……おれ、どくに、は、つえェぞ……?」
     ローの大きなてのひらでそうっと頭を撫でられていると気持ちよく、また眠気がじわじわと忍び寄る。もう話すことも億劫になり、ねむい、と一言呟けば、ふ、と小さな笑い声が聞こえた。
    「効果は強いが、一晩たてば抜けるらしい。今は、しっかり眠れ」
    「ん……」
     更に深く眠りへ誘うように、ローのてのひらがそっと瞼を閉じさせた。と、そこ以外にも、唇に、柔らかなものが触れる。ああ、あの蝶が飛んできたんだ、とその姿を思い浮かべたルフィは、ゆっくりと溶けた赤と共に眠りに落ちていった。



     すう、と静かに寝息を立てるルフィから唇を離し、ローは窓辺に置いたランタンへと視線を向けた。とうに蝋燭は消えているはずなのに、ランタンの中では蝶にも花にも見える灯が、ゆらり、と揺れている。

     ——この島にだけ咲く、クレオメ。それが舞う夜に上陸できるのは、他人に知られてはならない恋人たち。その花が持つ意味の通り、この島に訪れたことも誰にも知られず、その花を持ち帰ることができれば、秘密は保たれたままその関係を維持することができる。
     一方で、密かな恋心を持つ者は、意中の相手と島にはいれば、花の助けを借り、相手の心の内を知ることができる。もし、思いが通じ合っていれば——

    「秘密のひとときでかわしたキスが、相手の心をその時のまま縛る、か」
     今は同盟相手の自分たちだが、目の前に立ちふさがる大きな壁を壊した時にその関係が今のままとは限らない。——ルフィの方は、それでもあっけかんと、友達で敵なんだ!!と笑いそうだが。
     ただ、どちらかが海賊王の椅子をとるその日まで、ローは秘めた想いを口にするつもりも、成就させるつもりもなかった。勿論、最終的には海賊らしく奪いに行くつもりだったが、相手は、時に拳を交わした強敵であっても惹きつける男だ。横からかっさらわれても面白くない。
     欲しいものを手にするには、時には計略も必要だ。
    「——麦わら屋」
     眠るルフィに覆いかぶさったローは、夜が明けるまでの残された時間を楽しもうと、もう一度その唇をそっと塞いだ。



    end
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    宵に舞う蝶の秘密 そろそろか、とグラスを置き視線を動かしたローに、ルフィもスプーンを動かしていた手を止めた。
    上陸するときは目を開けていられないくらい眩しかった太陽も、この島で一番うまい食事を出すと連れてこられた宿の一階にあるレストランで飲み食いしている間に、水平線へとその緋色の体を沈めようとしていた。
     ただ、ローがそろそろだといったのは、何も活動しやすい時間になったという理由だけではない。風を取り入れるために開け放たれた窓の下に視線を向ければ、色合いを変えた街のなかを歩く人々が同じ方角に歩いているのが見える。目深にかぶった濃紺のローブも、手に掲げた小さなランタンも同じものだ。
     行くか、とたちあがったローの手にも、小島に入る際に火を入れると説明されたそれがある。もう一方の手を差し出されたルフィは、これから始まるという祭りに胸を躍らせながら、麦わら帽子の上からローブをかぶせ、その手を取った。
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