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    とーい

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    1日1ロールタグ様5周年ととハピエンロル様のコラボ企画、間に合わなかったけど書きたかったので「夏の風物詩とロール」を書いてみた。いろいろ夏を詰め込んで、大人×DKな現パロろる。

    ##ロール
    #1日1ロール
    1RollADay

    華の残影に隠れて「——おわった~ッ!!」
     チャイムの音と同時にそう叫んだルフィに、いつも通り怒鳴りつけようとしたらしい担任が、それを深いため息へと変える。
    「まあいい。……こっちも似たような気分だからな」
    「へへっ、悪かったな。ケムリン!」
    「スモーカー先生だろうが!——おい、麦わら!てめェ、まだ話は終わって」
     ちゃんと宿題はやってくっから!と言い残し、無造作にテキストやペンケースをリュックに突っ込んだルフィは、さっと頭を下げて拳を避けた。そのまま、軽々と机ひとつと窓枠を飛び越えて、廊下に逃げ出す。
    「モンキー・D・ルフィーっ!!」
    「わりぃっ!おれ、ほんと急いでんだ!」
     夏休みにはいり、しん、と静まり返った校内に、スモーカーの声が響き渡る。階下まで聞こえた怒鳴り声に同じく大きな声で返しながら、ルフィは小さく震えたスマートフォンをリュックのポケットから取り出した。
     画面に表示された短いメッセージから窓の外に視線を向ければ、遠くに、門に寄り掛かった背の高い男の姿が見えた。

     よく冷えた車内に、シートベルトをしているうち汗が冷えていく。もっと涼しくなってちょうどいい、と構わずにいれば、膝の上にタオルが投げられた。
    「拭いとけ」
    「え、いいよ。あっちぃし」
    「夏風邪は馬鹿がひく——ってのはただの例えだがな、おまえ、よく腹出したまま寝て風邪ひくだろうが。医者の言うことはちゃんと聞いとけ」
    「っ、それはコドモん頃の話だろ!」
     まだこどもだろうが、と笑うローに、ルフィは何も言い返せなくなっておとなしく首筋の汗をぬぐった。そもそも去年の夏ローと再会したのが、アイスとかき氷の食べ過ぎで夜中に慌てて連れていかれた病院の診察室だったのだから。
     ローは、まだルフィが幼い頃に近所に住んでいた、父方の遠い親戚だ。一人っ子のルフィとよく遊んでくれており、ローが医者である父親の研究について海外に行くことになった際は足にしがみついて泣いて、大人たちを困らせたらしい。
     その辺はよく覚えていなかったが、診察室でわずかに目を見張ったローにまず母が気が付き、ルフィが腹を抱えて診察台に横になった傍らで、懐かしい大きくなったわねと思い出話を交えて話す声を聴いているうちにぼんやりと記憶がよみがえってきた。
     適度なところで話をかわし、医者としての顔でルフィを見下ろすローの、状態を確かめるために腹にふれたてのひら。それは、転んだり木から落ちた時に泣きじゃくるルフィを手当てして慰めてくれた、だいすきなてのひらだったから。
     ——もちろん、あの頃は、年の離れた兄に対する感情だった。けれど、今は。
    「……」
     ふ、とわずかに上がった口の端に、タオルの向こうから見ていたことがばれたとすぐに分かった。
    「どうした?」
     きっと、この頭の良すぎるこの男は、今のルフィがローに対して抱く感情が、兄のような男に向けるそれではないと気が付いている。気が付いていて、ルフィが送る他愛ないメッセージに気が向く時だけ応えたり、いくら親戚の集まりがあるといっても来なくてもいい迎えに出向いたりしているのだ。
     もしかしたらペットのように思っているのかもしれない。今はどうかわからないが、子どもの頃のローは動物園が大好きで、特に滑らかな毛並みの白クマが大好きだった。大きな、ちょうどルフィくらいの大きさのぬいぐるみを持っていたような覚えがある。それを抱きしめて撫でている時は子どもらしい無邪気さを見せて——。
    「補講、今日までだったんだろう。さすがに疲れたか」
     その頃と同じ手つきで髪をくしゃりと混ぜられて、ルフィの心臓が大きな音をたてた。
    「買い出しも頼まれているが、寝てていいぞ。たいした量じゃないしな」
    「……なんか、ずりぃ……」
     今度は大きなてのひらで、幼いこどもを寝かしつけるうな仕草で触れられたルフィは、思わずぽつりとこぼした。
    「——だな」
     小さな小さな呟きは聞こえていないと思ったのに、ローの口からも微かな声がこぼれた。けれど、問いかけた視線は、顔にかぶせかけられたタオルで遮られた。

    *

     古いが昔ながらの広い日本家屋である祖父の家は、ふすまを取り払い二間をぶち抜きにすると二十人ほどが余裕で座れる広間になる。そこで合流した両親をはじめ、主に親戚の女性陣から囲まれほめそやされ——ついでに、それぞれのおすすめのお嬢さんを紹介しようかと持ちかけられている——ローを見ていたくなくて、ルフィはひとりにぎやかな声を背にして縁側に腰を下ろした。
     微かな蚊取り線香の匂いが、夜の風と混ざり合う。豚の形をした蚊遣りは、幼い頃のルフィが目の上にマジックで落書きした痕が残っている。マロ、と名前を付けた。それも一緒にいた時だ、とすぐにローのことを考えてしまう自分が嫌で、ルフィは先に寝てしまおうと立ち上がった。
     と、その時。どん、と空を打つ音が遠くに聞こえた。
    「——行ってみるか」
     はなびだ、と呟いた声に、いつの間に背後に立っていたのか、ローが応えた。
    「へ?——あっ」
     ぐい、と引っ張られたルフィは、縁側の下に並べられたサンダルのひとつに慌てて足を突っ込んだ。色違いのそれが、ルフィの戸惑いや質問を質問を寄せ付けないかのようにどんどん先へと進んでいった。

     さほど歩くことなく、遠くに屋台の灯りが見えてくる。財布も何も持たずに出てきてしまったことを後悔しながらも、つい、そのオレンジ色の光の列と美味しそうな匂いに惹かれてそちらに足を向けようとしたルフィに、無言で歩き続けていたローが小さな笑い声を漏らした。
    「さっきあんだけ食っといて……腹、壊すなよ」
     何が食いたい、と問いかけながらちらりと財布を見せたローに、ルフィは先程までの気まずさや少し拗ねていたことなど忘れて、焼きそば!と声をあげる。だから食いすぎだ、と呆れながらも、ローはルフィがねだるままに焼きそばだけでなくイカ焼きやりんご飴も買ってくれた。
     それを食べながら、長く尾を引く音が聞こえるたびに空を見上げる。ぱらぱらと漆黒に散る色彩にあわせ、歓声や吐息がもれる。そんなルフィに、ローはここに来るまでとは打って変わって、ゆっくりと歩調を合わせて花火を見るための広場まで歩いてくれた。
     けれど、楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。
    「……あーあ。次で最後かぁ……」
     会場に流れたアナウンスに、あちこちで同じような呟きが聞こえた。ただ、最後の花火が一番大きいらしく、楽しみだとはしゃぐ声も同じくらい聞こえる。大きな花火は楽しみだったが、ふってわいた、ローとの所謂デートっぽい時間がこれで終わってしまう。
     やだな、とこぼしたルフィは、後ろ手に手をついて空を見上げたままのローの横顔をちらりと見やった。と、同じようにローを盗み見ていたらしい浴衣姿の女性と目が合う。
     きゃあ、という微かな嬌声に続いて、一緒に来ていた友達に言ったのか、弟君に気がつかれちゃったよ~、という声が聞こえた。
     ぱっと視線を落としたルフィは、手にしていたりんご飴の袋をぐいと外した。
    「——なんだ、家まで取っとくんじゃなかったのか」
     すぐに、呆れた声が間近で聞こえる。花火が上がっていた時と同じように耳に直接吹き込こんでくるようなローの声は、一瞬落ち込んでいたルフィの心を一気に引き上げた。連続で打ちあげられた花火のようにばくばくとなる鼓動がローに聞こえませんように、と祈りながら、ルフィは問いかけには答えずりんご飴にかじりついた。
     ひゅるる、とこれまでにないくらい長い音が聞こえてもりんご飴に夢中のルフィに、見なくていいのか、とローが笑う。こそり、と視線を動かせば、先程の女性は周囲と同じようにスマートフォンを空に向け、もうこちらを見ていなかった。
     だからルフィは、真っ暗な中でもすぐ近くにあるおかげでよく見える、ローの顔を独り占めできた。
    「……せっかく——のに」
     りんご飴を手に、じい、とローを見つめるルフィに、ローが苦笑交じりに何事か呟く。
    「とらお?」
     なんて言ったんだ、と問いかけようとしたその時、空気が揺れた。
    「!!」
     ぱっと視線を動かせば、視界いっぱいに赤い大輪の華が光の粒を弾けさせている。それに夢中になっていたルフィは、ローのてのひらが、するりと首に回ったことに気が付かなかった。
    「——っごかったな!と——」
     人々が歓声を上げ、スマートフォンを掲げたまま消えゆく華の欠片に手を伸ばす。ルフィも同じように片手を上げたまま、視線を動かした。
     その唇に、一瞬、柔らかなものが触れる。目に残る光の欠片のせいか、近づいてきた顔は見えなかった。けれど、そんな相手、ひとりしかいるはずもなく。
     どうして、と吐息交じりにこぼしたルフィの唇を、す、と手を動かしたローが食べかけのりんご飴で塞いだ。
    「——したかっただろ?こっちもそろそろ我慢の限界だ」
     暗闇に戻った空の下、ルフィは再び、大人ってずるい、と心の内で呟き目を閉じた。


    end
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