火の爆ぜる微かな音に、肌に触れていた黒髪がかさりと揺れる。
気をやった後の微睡みから目覚めたのか、薄く開いた唇から、言葉にならない寝言のような吐息のような声が漏れた。
ちょうど、寝酒としていた瓢箪の中身も空。
そろそろ布団に移るか、と新たな薪をくべ傍らで小さな塊となっていた朱の着物を引き寄せたゾロは、若竹色の長羽織の下でもぞりと動き、本能的に苦手な火から遠ざかり好ましいぬくもりを求めて首に腕を回しかけようとする細い腕をそっと掴んだ。
ぐにゃりと力の抜けたそれに袖を通し、最後に帯を、と肩に頭を預けさせたところで、半ば眠りに囚われていた黒曜の瞳に光が煌めいた。
「ーーあ」
ぱちり、とまんまるの瞳を瞬かせたルフィの声が、弾んでいる。すっかり覚醒し、膝に手を置いて立ちあがったルフィの腰から、まだ結び目を作っていなかった帯がはらりと落ちた。
「すぐ終わる。じっとしてろ」
素直に聞きはしないとわかっていてもそう声をかけたゾロは、ルフィの心をとらえたのは何かと隻眼を細めた。もう一度長羽織を自分のそれよりも華奢な肩にかけ、すっぽりと体を包み込みながら、色褪せ破けた障子戸の向こうの闇に目を凝らす。
と、ひとひらの花弁が夜に踊った。
「ーーゾロ!雪だ!!」
「……通りで冷えるわけだ」
はしゃぐルフィの体が冷えすぎない様しっかりと抱きこんだまま外に出れば、音もなく、淡い白がゆっくりと落ちていく。
「……ししっ」
そうっと闇に伸ばされたてのひらに、ふわり、と白が落ちる。ただ、儚いそれは体温ですぐに溶けてしまう。それを楽し気に見つめていたルフィが、ひゃ、と小さな声をあげた。
見るともなしにルフィの指先を見つめていたゾロは、落とした視線の先で、ほんのりと朱をはいた首筋を落ちる雫を見た。それはちょうど、何度目かの交わりの最中本能の赴くまま付けた痕の上を滑り。
思わず喉を鳴らし、脳裏に蘇ったその時のまま再びそこに牙をたてようとした瞬間、遠く、鐘の音が響いた。
音の名残を追いかけて、次の音が重なる。
煩悩を払うというそれに気をそがれたわけではなかったが、ゾロは、一瞬むき出しにした牙ではなく、薄い唇でそこに触れた。
「……っ……!」
冷たさに首をすくめていたルフィが、今度は温い体温にびくりと体を跳ねさせる。つい先ほどまで雪に煌めいていた瞳によぎった色に、抑え込んだはずの欲が再び首をもたげる。
「ーーすっかり冷えちまったな」
あっためてくれるか、と吐息と共に囁きかければ、すり、と首筋を髪にくすぐられた。
鐘の音が数を重ねる中、それよりも早く胸を打つ鼓動を寄り添う肌から感じながら踵を返したゾロは、囲炉裏の炎を見据えながら薄く笑った。