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    とーい

    @utugixt

    👒受すきな🐸。小話ばかり。時々🥗👒ちゃんも

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    とーい

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    七夕サボル。中華風なんだか和風なんだかいろいろふわっとした設定なので、ふわっと読んでもらえたらありがたいです。
    白鷺に転じて、七夕の逢瀬を見守るサボと、織女に仕える天女ルフィ。
    織女と牽牛の一夜の逢瀬の夜にひっそりと逢う二人の時間です。
    サラダルフィ誰だこれってなるかもしれないので、何でも許せる方はどうぞ。

    ##サボル
    ##サラダルフィ

    煌めく川面から離れて 幾万幾億もの光の粒がつくる、煌めく水面。美しい眺めだが、天(そら)を東と西に隔てるその大河は、恋に溺れた天女への戒めだ。課せられた務めを忘れた娘とその夫への罰として、星屑を集め河と為した天帝は、年に一度であれば、河を渡り共に過ごすことを許した。

     ルフィは毎朝、天河(てんが)で星の欠片を汲む。
     愛おしい夫を想いながら姫が織る天衣には、雲から紡ぎ、星の欠片で染めた糸が使われる。故に、織女の御殿に仕える天女にとって、星汲みも大事な役目。
    それでも星汲みは、機織りに携わる天女の中では最も低い位階の仕事だ。そのため、ルフィと同じ役目を頂く天女たちは、早く紡ぎ手か、せめてひとつ上の、星々を色で選り分ける役目につきたいと毎日のように口にしていた。
     だがルフィは、この仕事が嫌いではなかった。毎朝、同じ部屋で寝起きする仲間たちが支度をしているうちから仕事を始めている。
     早く起きればそれだけ、あの方に逢える時間が増える。
     七の月の、七つめの日。その日は特に早く起き、ほとんど走るようにして、機屋からさほど離れていない水辺を目指す。ルフィを目覚めさせた、カンカン、という微かな音が、岸に近づくにつれて大きく、幾つも聞こえるようになった。
     空気のように軽いがゆえに足にまとわりつく衣を煩わしく思いつつ走っていたルフィは、視界を掠めた大きな翼に、はっと息を飲んで足を止めた。
    「!」
     弾む息の中、きた、と呟いた声が聞こえたかのように、ゆっくりと旋回し向こう岸に降り立った白鷺が、声を天に響かせた。


     刻が過ぎるにつれ数を増やした鵲が、高く飛びあがった白鷺の一声にあわせて鳴く。その声の余韻が残る中、今度は羽音が水面を揺らした。
     煌めく水面の上を羽ばたく、数多の翼。白と黒が織りなす影は、徐々に、橋の形となる。完成した橋を、天女達が掲げた手提灯籠が照らした。
     星のそれとは異なる淡い光の道を、一夜の逢瀬のために着飾り、喜びに頬を染めた織女が進む。西の岸辺からは、牽牛が愛しい妻の名を呼び、逸る心のまま駆ける。
     橋の中央で、二人は固く腕を回し抱きしめあった。光の中でひとつとなった影や灯りと星々がつくる美しい光景に、涙を浮かべる者もいる。心優しい主である姫の幸せそうな表情を見ることができて、ルフィももちろん嬉しい。
     けれど。
     こっそりとあたりを見渡し、誰もが橋の方しか見ていないことを確かめたルフィは、さらに高い位置へと視線を転じた。
     虚空にひとつ、ひときわ輝いて見える白い星。ルフィの視線を感じ取ったかのように、星ではないそれがひらりと形を変える。
     天の漆黒に紛れた白い影に、ルフィは自分の持つ灯籠をそっと吹き消し天女達の列からじりじりと離れた。橋の方に皆の視線が集まっていることをもう一度確かめ、隠し持っていた漆黒の衣ですっぽりと体を覆い隠す。
     闇に紛れたルフィは、この日ばかりは静まり返る機屋を目指した。走るうち、上空からルフィの動きに合わせて羽ばたく音が聞こえはじめる。
    「……サボ!」
     機屋の裏手に回ったルフィは、被っていた衣をさっと落とし、両手を広げてその名を呼んだ。刹那、天を大きな翼の形が切り取る。
     柔らかな翼の先が頬に触れたかと思うと、次の瞬間、それは人の指へと変化していた。耳朶を撫でた大きな手が頤をそっと持ち上げ、白い羽が掠めた唇に吐息交じりの声が囁きかける。
    「――逢いたかった、ルフィ」
     白鷺から青年へと転じたサボに強く抱きしめられたルフィは、甘い腕の締め付けに吐息をもらし、同じ想いを返した。



     逢瀬の場が橋の上から御殿のほうへと移ったのか、機屋のほうまでも、妙なる楽の音が届く。けれど、サボの耳には、腕の中から自分を見あげているルフィの声の方が、何倍も美しく聞こえる。
     それほどルフィは、サボにとって特別な存在だ。天で輝く星々も霞んで見えるほどの、唯一無二の宝。
     足の間に座らせたルフィの話に耳を傾け、時折柔らかな黒髪を梳いて戯れに口づけを落としていたサボは、この幸せが始まった日のことを思い出していた。


     天を統べる帝の一族は、各々、生まれた時から役目を与えられている。サボのそれは、天鳥たちの長として、父である帝の命をあまねく臣下たちに伝えること。もっとも重要な命は、自ら白鷺に転じて運ぶこともある。
     そこにもうひとつ役目が加わったのは、いつのことだったか。もうはっきりと覚えていないが、異母妹のひとりが最初で最後の恋をした時だった。
     織女という名の姫が恋に落ちたのは、天帝の牛を世話する牽牛という男。それだけならば、さして問題にはならなかっただろう。天帝の子どもは幾人もおり、永い時の中、天での生を捨て地上で人間と暮らすことを選んだ者もいるからだ。
     だが、織女には重要な役目があった。天衣を織る天女達を束ねるだけでなく、唯ひとりに許された、天帝の衣を織ること。天帝が纏う衣の文様は、織女にしか織れない。だが織女は初めての恋に夢中になり、織機にはほこりが積もった。
     一度は可愛い娘の願いを聞き入れ、牽牛との婚姻を許した天帝が、機屋の有様を知り決定を翻すまでさほど時間はかからなかった。
     二人に与えられた罰は、一年に一度と制約をつけられた逢瀬。その決定を知らされるとともに、夫婦の監視を命じられたサボは、内心、くだらないと思っていた。眷属の一種である鵲たちに命じて天河にかけさせた橋の中心で、涙を流し再会を喜び合う二人を見下ろしても、何の感慨もわかなかった。
     けれど、サボは突然、誰かをいとしく思うことがどういうことか――その人以外は考えられなくなるほどの感情はどういうものかを知らされた。
     天河のほとりで、嫌々ながら鵲達を呼び集めようと降り立った日。
     サボの仮の姿である白鷺に見惚れ、桶を落としてしまった一人の少女と出会った瞬間に。
    「……きれえだな……」
     薄紅色の唇が僅かに開き、吐息が漏れる。その姿かたちから天帝の使いだと察したのか、ぱっと口を押えて頭を下げられたが、サボの目には、一瞬だけ見えた大きな瞳の輝きがしっかりと焼き付いていた。
     織女と牽牛の逢瀬の時が待ち遠しかったのは、あの日が初めてだった。
     橋をつくれるだけの鵲が集まる頃には、織女に仕える天女達が手提灯籠を持ち岸辺にずらりと並ぶ。空高く羽ばたきながら、サボは彼女の姿を必死に探した。
     ——いた――
     そう、心の内で呟いた時、彼女もサボの方を見あげた。どれほど遠くても、瞳の輝きがはっきりとわかる。綺麗だ、と白鷺の美しさを改めて誉めそやす唇の動きも。
     それから幾年か、サボは遠くから少女を見つめ続けた。天帝からは、監視の目があると知られぬよう命じられている。機織りのため誰よりも早くに星汲みにくる彼女に翼を撫でさせるほど近寄っても、言葉をかけられても、応えられない。
     だが、更に幾年の七夕をもどかしい思いで過ごしたサボは、秘めた想いの苦しみに、耐えきれなくなった。

    「――サボ?」
     そうっと頬に触れた柔らかなてのひらに、物思いから引き戻される。
    「だいじょうぶ?疲れてるんじゃ……」
     体の向きを変え肩に手を置いて顔を覗きこんでくる愛しい少女に、口付けで不安をそっと吸い取ったサボは、大丈夫だと応えた。
    「ごめんな?せっかくルフィと一緒に居るのに」
    「ほんとに平気?……あっ、そうだ!」
     頬や瞼、そっと掴んだ手の甲や指先への口づけにくすぐったいと小さく笑いながらも、まだ心配そうな視線を向けてきていたルフィが、ぱっと瞳を輝かせた。
    「あのね、前に、織女様に教えていただいたの!」
     はしゃぐルフィに急かされるまま、羽よりも軽い体を渋々膝から降ろしたサボは、ぽんと膝を叩いたルフィの言葉に戸惑った。
    「――ん?もう一度言ってくれるか、ルフィ」
    「だから、膝に頭のせて?」
     牽牛様がとっても疲れていらっしゃるときにこうして差し上げるんだって。わたしも、いつかサボにしてあげたいって思ってて――。
     ルフィの言葉に、何かが自分の中ではじけた音を聞いたような気がした。
    「……っ、サボ?!違うってば!そうじゃなくて、」
    「そうなのか?……でも、とっても気持ちいい……」
     気が付けばサボは、ルフィの腰に腕を回し、幾重にも重なった衣越しに柔らかな太腿をの感触を頬に感じていた。
    「少しだけでいいから……だめか?」
     なんだか恥ずかしいから、と戸惑いながらも顔を引きはがそうとしていたルフィは、首を傾けちらりと見上げたサボの懇願に、困り顔で手を止めた。
    「ルフィ……今日は、こうしていたい。頼む」
     一年に一度、織女と牽牛が過ごす時間よりも短い時しか触れ合えないことに、焦れる思いや恋しさが膨れあがるばかり。
     本音を言えば、このまま抱きあげて、攫ってしまいたかった。
     自分の館に――いや、誰も知らない遠い遠い場所、二人だけで居られる場所で、隠れることもなく誰の目も気にすることなく過ごしたいと。
    「ルフィ……」
    「……サボ……」
     声に込めた熱に、応えるルフィのそれがわずかに震える。けれど、怯えているわけではないことは、サボを映す瞳を掠めた感情でわかった。
     サボの動きに逆らわず、地にひいていた白銀の衣にルフィの体が倒れこむ。指を絡ませるようにつなぎ、見下ろしたルフィの薄く開いた唇の奥、垣間見える赤い舌にごくりと唾をのんだ。
    「ルフィ……」
     もっと、深く。これまで触れたことのない場所で繋がるまで、あと少し。
     自然と目を閉じたルフィも、それを望んでいる。
     そう確信して、サボも目を閉じた。
     だが。
    「――時間、か」
    「――ん……」
     微かに聞こえていた楽の音が、止んだ。天帝の定めた一日が、もうすぐ終わるのだ。
     ほんの少し濡れた目元に唇を落としたサボは、繋いだ手でゆっくりとルフィを起こし、立たせた。
    「……それじゃあ、ルフィ。また、一年後に」
     サボ、と呼ぶ小さな声に未練を残さぬよう、袖を大きく振る。白い翼に転じたそれに、ふわりと体が宙に浮いた。
     これで、最後だ。愛おしい娘の涙をもう二度と見るものか――そう決意したサボは、強く翼を動かし、天宮に向けて力強く羽ばたいた。
     

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