酩酊を抱擁つるり、つるり。
喉を滑る液体は生ぬるいのに、通った後は少し熱い。
すぐに酔ってしまいそう。望むところである。
実際のところ、酒精というものに対しては、どれも総じて匂いがきつく、然程得意ではないのだけど。まあ味は嫌いでもないような。あれこれひっくるめれば、酒というものを特別好きでも嫌いでもないのだろう。
でも酔っ払うのは間違いなく嫌いではなかった。嫌えようはずもなかった。
何を言っているのやら、と?そもそも酔っている人間に正常な判断ができるとお思いで?ええその通り、出来ようはずもございません。そうでございましょう?
重ねて、酔っ払っているときしか酔うことについて判る時はないので、つまり、酔っていることが好きか嫌いか、自分には判断がつかないのである。
この自分がまともに判断など、全く恥ずべきことにひとつだって出来た試しもないような気がするのだけど。
閑話休題。
いやさてしかし、こうやって酒盃を傾けて、空けて。
視界の端が揺らめくように、くらくらするのを覚えると、期待してしまう。
あとは、誰かに何ぞ問われて首を傾けたときに訪れるほんのりした眩暈とか。
目蓋を筆で掃くような些細な熱とか。
指先が周囲に気づかれないくらい少しだけ、ぶれたりするともう堪らない。
ああ来るぞ来るぞと浮き足立ってしまう。
だって酔っている間には何も考えられないので。考えられなければ考えなくてもいいので。
考えなくていいならーー悩まなくていい。何も。
不安にだって、ならなくていい。
ああ、よかった。
そうして、自分はもう一献と杯を乾かすのだ。