【うちよそ】柿の花言葉【MHR】【登場人物】
チヒロさん:nagiさんのRハンターさん。元気で可愛いボイス4。20代前後。
イツキ:桐箱のRハンター。少し不愛想なボイス8。24歳↑
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『大社跡で待ってるぜ!』
簡潔にそう綴られた文の最後には、送り主であるチヒロの名前がこれ見よがしに大きく書かれている。そんな文を受け取ったのが小一時間前のこと。イツキは今、大社跡メインキャンプ近くのガルクの形状をした岩の上で辺りを見回していた。
「やれやれ……」
具体的な待ち合わせ場所は文に書かれていなかった。ということは自力でチヒロを探さねばならない。ハンターである以上モンスターの追跡には慣れているが、この広いフィールドからひと一人見つけるのは骨が折れそうだ。イツキはため息をつくと、腕に留まっているフクズクをひと撫でする。
「賀楽、頼んだ」
「クァーッ」
「いけ!」
イツキの掛け声と共にフクズクが力強く羽ばたき、空へ飛び立っていく。しばらくすると、大社跡の中央部に座する岩場周辺を旋回し始めた。
「あそこか」
目星をつけたイツキは、オトモガルクの東雲に跨がり駆け出す。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「よお、イツキ!」
「ワゥ!」
目的地の岩場頂上まで登りきると、チヒロとオトモガルクのツガルが出迎える。が、それよりもまずイツキの目を引いたのはー
「…………なんだその籠は」
「ビシュテンゴの柿」
「見れば分かる」
ふたりのそばには四つの大きな籠があり、ビシュテンゴの柿がみっちりと詰まっていた。
「いやあ~この前イツキたちとビシュテンゴ狩った時に里に柿を持ち帰ったじゃん?あれで干し柿にして食ったのすんげえうまくってさあ。また皆に食べさせたくって」
「……それにしても大量だな」
「本能ってやつ?体が勝手に柿を拾っていた。あ、そうだ。これあげるよ。さっき拾った」
「あ?」
反射的に出した掌に乗せられたのは、ドクドク柿。
「…………」
イツキは無言で放り投げ、ドクドク柿は彼方へと飛んでいった。
「チヒロ……お前、覚えてろよ」
ゆっくりと振り返り、青筋を浮かべたイツキを見ると、チヒロは「げっ」と声を漏らした。
「じょ、冗談だって、冗談!そんな怖い顔すんなって!」
「はあ……」
呆れ顔でイツキがため息をつくと、チヒロも流石に反省したのか「まじでごめんって~!」と両手を合わせて謝ってきた。お調子者のチヒロだが、根は素直だから憎めない。もとよりこれ以上とやかく言うつもりは、イツキにもなかった。
「で?」
「んあ?」
「わざわざ文を寄越して、どうした」
救助要請でもない。ウツシ教官も今日の大社跡は比較的穏やかだと言っていたぞとイツキが続けると、チヒロはあからさまに目を泳がせた。
「あー……それは、だなあ……」
歯切れの悪いチヒロを見たイツキは「まあいい。俺もちょうど採取をしたかったからな」と岩場に腰を下ろし、アイテムポーチの中身を整理し始めた。ここに来るまで採取した薬草やキノコ、そして調合道具を取り出す。黙々と調合を始めるイツキを、チヒロは黙って見つめていた。
「なあ、イツキ」
「なんだ」
しばらくすると、チヒロが口を開く。イツキは手元に視線を落としたままだ。
「俺さ、教官とここで初めて翔蟲の実践練習した時ボロボロでさあ。ガルク搭乗禁止!翔蟲だけで頂上まで登ってきて!ってやつ。メインキャンプからここに来るまですげえ時間かかったんだ」
「……」
「イツキは最初から翔蟲の扱いはうまかったのか?」
「……誰でも最初はうまくいかないものだろう」
手を止め、チヒロへ視線を向ける。
「俺はサイ……姉が上手かったからな。よく修練場で練習に付き合ってくれた。そして、扱えるようになっていった」
「あ、姉ちゃんがいるんだっけ?」
「ん。二人いる。双子の姉ともう一人」
「最近それ背負ってんのも、姉ちゃんの影響?」
イツキの隣に置かれた操虫棍を、チヒロは指さす。
「ああ。今日は跳躍を使いたくてな。鉄蟲糸技の方は飛距離があって移動に便利だ」
「そっかあ。イツキは色んな武器使えてすげえな~」
「……」
チヒロはガンランス以外の武器を使ったことがないと、以前本人から教えてもらった。なんでも最初に武器を選ぶ時に一番しっくりきたらしく、それ以来ずっとガンランスを担いでいるという。
イツキもガンランスは片手で数えられるほど使ったことはある。しかし弓を主な武器としているせいか、攻撃の手数が多い武器や機動力の高い武器を選ぶ傾向があり、重量のある武器とは相性が良くなかった。そんなイツキから見れば、ガンランスを使いこなしている年下のチヒロは、十分尊敬に値するハンターだ。
「チヒロ」
「うん?」
イツキはおもむろに手を伸ばし、チヒロの頭をがしがしと少し乱暴な手つきで撫で回した。
「うわっ、な、なにっ」
戸惑うチヒロが顔を上げようにも、イツキは頭をぐっと下へ押し付けてる。
「……お前は俺より年が下だ。その分、これから先、俺よりも多く経験を積んでいける」
「……」
「だから、焦る必要はねえ。分かるな?」
「……うん」
「分かったならいい」
話は終わりだと、イツキはパッと手を離し何事もなかったかのように調合に戻った。チヒロはグシャグシャに乱れた髪を直しながら、口元が緩みそうになるのをグッと堪えた。
「そら、やるよ」
調合で作ったアイテムだろうか。イツキはチヒロへ小さな袋を投げる。そしてチヒロの言葉も待たずに「じゃあな」と操虫棍を構えると、岩場に突き立てその身を軽々と持ち上げた。そのまま鉄蟲糸技の跳躍で崖から飛び降りていき、あっという間に姿が見えなくなる。
「……イツキのかっこつけ」
チヒロがぽつりとこぼした声は、どこか拗ねたような声色だった。しかしその表情は柔らかい。
「なんのアイテムだろ?回復薬とかかな?」
「クゥン?」
ふたりで袋の中身を覗き込む。
「……って、う●こじゃねえか!!!!!!」
チヒロの叫びは、メインキャンプに向かうイツキの耳にも当然届いていた。
「ははっ」
してやったりという顔で笑いをこぼしたイツキを見上げた東雲は「どうしたの?」と首を傾げている。
「なんでもない。里に帰るぞ」
「ワン!」
【補足という幻覚余談】
ドクドク柿を渡されたのでしっかりこやし玉でお返ししてきた(総括)
探索大好きハンターのイツキなので、ぶっちゃけチヒロくんを見つけるのは特に苦には感じていない。各フィールドにいる希少生物や手記を探したりするのも好きなので。多分、フィールドでハンターとかくれんぼとかしても楽しんじゃいそう。
里の人々のことを本当に大事していて、年齢的にも悩み事は大なり小なりありそうなチヒロくん、可愛いと思います。何か話したいことや悩んでいることがあっても言わないのであれば、言うまで放置しておこというスタンスのイツキ。育った環境的にも、生まれもった性質的にも、聞き手に回ることが多いので、こんな日もありそうという幻覚でした。
イツキ本人も柄にもないことしたなあとは思いつつ、年下には基本的に甘いのでイツキなりに応援してみました(イツキ本人としては『応援』ではなく『事実を述べた』まで)イツキは「俺も昔は悩んだことある」とか「知り合いのハンターにも太刀しか使えない奴がいるぞ」とか「大変そうだな」など共感や同情する言葉を送ることはなさそうなので。特に慰めを必要としていない人相手には。
イツキ、年下ハンターたちに振り回されてほしい(私が)
ちなみにチヒロくんに渡したこやし玉はあの場で調合したものでなく、常備していたやつをあげました。調合していたのは自分用の回復薬かなと。そんなどうでもいい余談。
お粗末様でした!