クレーンゲーム「影片今だよ!ほらはやく押すんだ、」
「ん~!!」
空振り
「ねぇ影片真面目にやってるかい?」
「いや真面目にやっとるで…!?」
「だったらなぜたかだかクレーンゲームで5000円を越えるんだ」
「アームが弱いんかな」
おれはあははと笑う そんなおれの様子を見て肩をすごめたお師さんは目の前の捕まったぬいぐるみに目をやり
「しかし…まぁ…君の言い分も一理あるね…さっきから全くアームが動いてないのだし」
「せやろ?やっぱここはハズレやない?」
「むむ…ハズレだとかあまり公共の場では言ってはいけないよ影片」
おれを注意する様は父親やら母親やらを彷彿とさせてなんだか笑えてくる
まぁ大の20代後半の男が2人でたかだかクレーンゲームに文句やらなんやら言ってる方がおかしいのだが
その後も何回も交代でトライしていたが元々おれはあまり金を持ち歩かないしお師さんもお金よりカード派で死ぬほど現金が尽きていた頃にクレーンゲームは一時休戦となった
「きょ…今日はやめにしようかやはり僕は帰国したてで本来の力を発揮できそうもないし君ももう飽きてきた頃合いだろうしね…」
早口でまきたてていたのでまぁまぁ悔しかったらしいお師さんとそんなおれらをじっと見つめるぬいぐるみ なんだかここで終わるには勿体ない気がしておれは投入口に最後の100円を入れる
お師さんはびっくりしていたが無言でいた やはりお師さんも同じ気持ちらしい
「ほなこれでやめよか~おれがんばるで~!」
気合いを入れるため声を張り上げる
そしてもはや流れ作業のように現状一番掴むのに有効な位置にアームを移動させる
お師さんの目がクレーンを追い、影片右が良いかもしれないと言われアームをさらに右にやりそこでふうっと息を吐いた
「お師さん…これが最後や…」
「泣いても笑ってもこれで最後だね…」
おれとお師さんの間にかつてない緊張が走る
やがておれの指が商品を掴むボタンに近付くにつれて周りのうるさい声が小さくなっていく
(もう一思いにやるしかないんか…)
気持ちより行動がはやくなった
カチッ
と音が鳴りクレーンゲーム機械からもう何度聞いたかわからない「掴めるかな~?」が聞こえる
いやもう掴めさせてくれや…と言おうしたが我慢した
その間にぬいぐるみの真上にクレーンがきて掴もうとする
この瞬間がこれほど緊張するのは今日で最初で最後だろうというかそうであってほしい
クレーンが元気よくその刃物みたいな掴む所をぬいぐるみに当てる
その瞬間だった まるで「するっ」と音が出るようにアームからぬいぐるみが落ちる
泣き叫ぶおれ それを宥めながらもアームに呪文のような文句を言うお師さん
きちんと週刊誌に撮られ副所長さんからしこたま怒られた
お師さんからは二度とゲームセンターなどには行かないからねと釘を刺された