一夜の夢の城四季の笑顔を見る事が好きだ。カメラロールを見返す、四季が此方を向き楽しそうに紫苑を見ながら笑っている。手を振り、ピースを決め、そして途中から視線の合わない写真が増えて行く。友人と話す場面、寝顔や食餌をする所はまるで何かの動画から切り取った様に、端に日付が載っており異常な程のそれは、紫苑の盗撮だと言う事が伺える。
ピッピッ、とカメラを操作する音が響き紫苑はパソコンにカメラを繋ぐと一つの写真を印刷し壁に貼り付けた。壁にはクレープを食べる四季の此方を向いてない物で、紫苑はそれに頬を寄せると恍惚に笑い呟く。
「四季………」
紫苑の呟きは空間に溶け、壁一面に貼られた写真には四季のみを切り取った物が埋めつくし、紫苑の彼への重い執着が伺えた。紫苑は壁のある部分には手を付けると、操作パネルが浮かび上がり何かを読み込み瞬間壁に切れ目が入り扉が開いた。
中は暗く、良く見ると人が大きなベッド眠り、足枷から鎖が伸びていた。その人物の元に近づき紫苑は蜜を詰め込んだ様な甘い声で名前を呼ぶ。
「四季」
名前を呼ばれた少年はうつらと目を開け、何度か瞬かせると寝起きのふわりとした緩い笑みを浮かべ呟いた。
「紫苑さん!」
紫苑はベッドに上がると四季をゆっくりと起き上がらせ抱きしめ、幸せそうに笑い四季に向き合う。
「……身体は大丈夫?辛かったりしない〜?」
「今は大丈夫だよ、さっきまでかなり悪かったけど寝たら少し良くなった」
「そ、なら良かった」
紫苑が抱きしめる四季の腹は薄らと大きく膨らみ、その不自然な膨らみは四季の赤子が居る事が伺えた。紫苑と四季の赤ん坊である。
紫苑は四季に告白し結ばれてから、鬼機関を卒業し戦争が終結し暫くした後四季を監禁した。四季が周りに笑顔を振るう度、紫苑の他に仲間や紫苑の同期に先輩と遊びに行く度に黒い澱みの様なそれはどろりと溜まって行き、紫苑の胸を焼き渇望する飢えを助長する様に嫉妬を深めた。四季には自分だけがいれば良い、四季は自分だけに笑顔を向けて欲しい。深まるそれは留まる所を知らず、軈て四季との関係を秘密にしていた事が功を奏し、紫苑は四季に許可を取らず用意したマンションに監禁をしたのだ。
そして四季を孕ませ、自身から逃げられなくし優しい四季は我が子を見捨てる事等出来ないと踏んだ紫苑は、現在そう思いながら抱きしめ四季の腹に顔を寄せた。
「元気な子だよな〜誰に似たんだろう」
「お前だろう」
「案外紫苑さんかもな」
紫苑が顔を寄せた瞬間に腹を蹴る我が子に、紫苑の意図を無自覚に察知しているのか、紫苑は自身に似ているだろう我が子は四季に好くだろうと思うと母親を守れよと思い浮かべ四季の傍から手を離し名残惜しく離れる。
「じゃあ俺はもう行くから大人しくしてろよ」
「してるってゲームも銃も漫画もあるから好きな事してるよ」
「紫苑さんが居なくても泣いたりするなよ〜?」
「そんな事しねぇって!」
紫苑は扉を出ると認証を再び翳し扉は壁に密着する様に再び閉じる。部屋を出て歩き出すと、夜半自身の自宅へと繋がる道を歩み、他の者に知られない様に警戒しながら歩みを進めた。
紫苑が四季を監禁してから三ヶ月が経ち、監禁直後慌ただしく四季を探す周りは桃太郎の線を最初は洗ったが、探しても見つからない中で身内の線で探し始めたのを紫苑は知っている。何せ自身もその会議に居たからだ。
紫苑も必死に探す様にアピールし、四季を好く者達から出し抜けた等と悟られずに動くが最近真澄辺りに疑われているのを勘づいている。紫苑を疑う真澄は確信を持っていないからか、紫苑から決定的証拠を取ろうとしているが動けて居ないようだ。
そう考える中歩むと自宅のマンションへと付き、思わず空を見上げる。丸い満月は紫苑の闇を照らす様に影を伸ばし、その紫苑の異常な執着を晒し出すかの様に闇夜に浮かぶ明かりを照らした。
闇に蠢く紫苑は呟く。絶対に四季を見つけ出されるものかと思い、紫苑は自宅への道を歩んだ。
一方四季は、紫苑が帰り暇になってから何をしようかと寝転がるが何もする気にはならない。いっその事寝ようかとも思ったが冴えてしまった頭では寝る事は出来ずに、只管天井を見上げていた。紫苑が監禁する少し前に真澄から渡された皮膚に貼り隠れるタイプの救難信号を首に貼られ、「なんかあったら即連絡しろ。良いな」と言われたそれは、紫苑が監禁してから暫く未だに使われる事は無い。真澄が紫苑の動きに何かを察し、四季が知らない内に動いた彼は四季を心配しその様な行動を取ったのだろうが、今現在のこの状況は四季が望んだ通りが現実になっている。
四季は紫苑に監禁して欲しかった。四季を深く愛している紫苑が、四季に愛を深めその愛に狂って行く度、四季は愛されている様で満たされそして監禁される事を望んだ。四季が紫苑を愛して居たからこそ、彼に縛って欲しく、四季の望む通りに嫉妬をする様に動き軈て監禁された。そうこれは四季が望んだ夢の城なのである、例えいつかは終わる砂の城でもこれは四季の望んだ一時の願いなのである。
だから絶対に救難は出さない、紫苑への裏切りになる上に四季の夢が壊れるからだ。必死に探す皆には悪いが、四季のこの夢が壊れたら紫苑が同じ行動を取ることが難しくなる。だからこそ四季はもう少し、この状況を楽しみたい。どうせ真澄はもう既にこの場所を掴んでいるのだろうから、後は崩壊する迄の夢の城を四季は満喫する迄だ。
四季はお腹を撫で、自身と紫苑の奇跡の結晶が宿る我が子に愛しく思い子守唄を歌う。可愛い可愛い我が子、どうか幸せに産まれてきてくれ、愛を沢山注ぎ桃太郎でも鬼でも友人作ろうと作らなかろうと、幸せに育ってくれればそれで良いのだ。可愛い我が子どうか無事に産まれて来てくれ。
四季は段々と重くなる瞼に逆らう事無く眠りに着く。夢はまだ終わらない。
そしてその夢の城が崩壊するのは更に三ヶ月後、真澄を始め無陀野や京夜、馨に印南や猫咲に大我に羅刹で学んだ四季達の同期が突入して来たのは四季と紫苑の行為が終わり裸で何も纏うこと無く眠りに付いていた時であり、思い切り叫び起こされた紫苑と四季は、紫苑は正座で説教され、四季は膨らんだ腹に同期の仲間が驚き紫苑にそれぞれ技を放とうとし失敗に終わるのを、四季は笑いながら見ていたのだ。