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    ココ武メイン。イヌ武・寿武要素もある。
    支部とTwitterにて連載していた「ヒーローになんかさせない」の本編後の番外編。
    仲良し(執着)11BD。ちょっぴり不穏です。
    支部の本編→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16773536
    イベント後、数日したら支部にも載せます。

    #11BD
    #ココ武
    #イヌ武
    inuwake
    #寿武
    shouWu

    【ココ武編】ヒーローになんかさせない番外編 黒龍の人間に九井一がどういう人間かを聞くと、誰もが一瞬口を閉ざす。それは口に出すのを憚られるような恐ろしさがあるからなどではない。皆どう答えたものかを悩み、それから言うだろう。
     ――どれが本当か分からない、と。

     11代目黒龍の幹部である、柴大寿、乾青宗、九井一。この三人の中では、九井は一番話しかけやすい人間ではある。

     大寿は武道が総長になってからは、まるで人が変わったように落ち着きのある人間になった。とはいえ、十代目総長だった時の記憶は鮮明に残っている。いつどうキレるか分からず、圧倒的な力がある存在であるという認識は変わらず、軽々しく話しかけられる相手ではない。
     乾はあからさまに武道とそれ以外とで態度が違う。話の内容が武道関連だとかぶりつきでくるものの、そうでない時はこちらから話しかけない限り口を開かなければ目も合わせない。武道以外ではバイクなんかは話が盛り上がることもあるが、まあ話しかけやすい相手かと言えば答えは否。
     
     そういった消去法で考えても、九井は隊員たちからすれば話しかけやすい部類だ。
     突然キレることもなく、普通に話してくれるしあからさまに興味がないと態度に出さない。それに相談すれば、親身になるまではいかずとも軽いアドバイスぐらいならしてくれる。とはいえ、本当に軽いアドバイスだけで、もう少し話を聞かせてほしいと言い始めれば「こっからは有料」と言われ、冗談ではなく本当に払わない限り一言も助言をくれなくなるのだけど。

     比較的平隊員たちに近しい立ち位置にいて、幹部やボスに話を繋いでくれる。そんな認識であり、相談もしやすい、良い人という言葉が近いのかもしれない。――従順な黒龍の隊員でいれば。

     ほんの少しでも今の十一代目黒龍の体制に不満を持てば、九井への認識は一転する。

     まるで監視されるようにじっとりとした視線を向けられる。不自然でない程度に行く先で顔を合わせるようになる。何気ない会話の中で、九井に言った記憶のない話を当たり前に話される。
     小さな違和感の積み重ね。まるで獲物を追い込むように、巻き付いてゆっくり締め上げる蛇のように。じわりじわりと、日常を少しずつ侵されていくような恐怖を与えられる。

     そうしてぬるま湯のような安寧の十一代目ではなく、暴力と恐怖とが蔓延していた十代目を思い出すのだ。裏切り者には恐ろしい拷問が待ち受けていたことを。この十一代目にはそういったものは無い。なにせ総長が誰より真っすぐで優しく、そういった暴力による支配を好まないから。

     だから――だからきっと、誰にも知られないうちに、事を終わらせるのだろうと、察してしまうのだ。恐ろしいのはその「事実」だけではない。九井の態度が変わるのは不満を「持った時」であり――「誰かに話しをした時ではない」ことだ。
     不満だなと思っただけで、何故かそれを見抜かれる。口にしていなくとも、不満を持ったというそれだけで九井の中ではきっと許せない存在になるのだろう。
     九井一にとって、今現在の黒龍に不満を持つ者とはつまり、彼の中のなによりも大切に守りたいものである花垣武道を裏切る者と同義。武道を慕えない者も信じられない者も、武道への感情が少しでも負へと傾いた瞬間、黒龍の隊員から裏切り者……いいや、九井一の敵になる。

     恐らくではあるが、その武道も幹部の二人も、そんな九井の姿を知らないのだろう。聡い大寿は察しているかもしれないが、九井は徹底的にそういった自分の姿を三人には隠しているようだった。
     だが隊員たちには隠していない。あるいはあえてそういった姿を見せることで、裏切り者には容赦しないと知らしめる為なのかもしれない。
     まるで黒龍の暗い部分を全て引き受けるかのように、九井は一人で不穏分子に目を光らせている。少なからずその姿を見たことがある者からすれば、九井のことは油断ならない、或いは恐ろしい人間という印象だ。

     だがそれも武道の前となればまた変わってくる。端的に表せば、構いたがりの世話焼きだがり、だろうか。武道が一人でいる時はまずないが、一人でいるのを見かければすぐに傍に行くし、乾ほどではないといえ後ろから抱き着いたり腕を絡ませたりする。
     武道の髪のセットは最近ではほぼ毎回九井がしている。きちんと櫛でとかして、日によってはワックスで片側だけ撫でつけてみたり、分け目をつけてみたりと色々アレンジを加える。

     それを毎回「オレらのボスは仕方ないな」と言いながらやるものだから、たまにはしっかりしないと、と武道が自分で髪を綺麗にセットしていけば「今日は自分でやったのか」と露骨に残念そうな顔をした。
     千堂がやろうとすれば「ふーん」と面白くなさそうに声をあげ、頬杖をついてその様子をジッと見つめるものだから千堂も武道もギブアップして、早々に武道の髪は九井が整えるものになった。

     それだけではない。特攻服の襟が曲がっていると直すこともあれば、今日は暑いからちゃんと水分取れとペットボトルを押し付けることもある。二階のソファでうとうとし始めれば真っ先に毛布を取りにいくのも九井だ。
     仕方ないなと口癖のように言うが、その実武道の世話を焼くのが楽しいのだろう。武道の世話を焼いている時の九井は生き生きとして笑っている。時には本当に機嫌よく、今にも鼻歌が聞こえてきそうなことすらもある。

     悪戯に笑っていることが多いものの、武道といるときは裏表なく幸せそうだと誰もが思うぐらいには武道に向ける瞳は柔らかく愛しさに満ちている。

     隊員たちといる時、裏切り者を見張っている時、武道といる時。その時々で態度や対応が変わるのは誰もがあるものだが、だとしても切り替わりというのだろうか。
     まるでスイッチのようにカチリとそれらが変わるものだから、誰もが九井一をどういう人間か聞かれた時に悩んでしまうのだ。一体どれが彼の素で、なにが本当なのかと。

     そして本人に聞けば言うのだろう。心の内を見せない悪戯な笑みで舌をぺろりと出しながら「さてな」と。

     ――九井本人は思う。武道と、大寿と乾と自分。この四人さえいれば、あとはいらないと。

     隊員と円滑なコミュニケーションを取るのは、武道が黒龍を居心地のいい場所と思うのに必要な情報収集であり空気作りだ。
     裏切り者への警戒は当然だ。そもそも武道に不満を持つことから理解も出来ない。そんな人間が黒龍のうのうといるなんて許せるわけがない。裏切り者はスクラップ――ああ、違う。もうここまではしなくていいんだった。
     武道といる時間がどれだけ幸せで愛おしいか。本当は髪だけでなく、頭の先から爪の先まで、朝も昼も夜もずっと傍で世話をしたい。だけどきっと武道は申し訳ないと思って遠慮するのだろう。だから我慢している。

     それでもいつか、武道が一言「良いよ」と言ってくれたのなら。大事に隠して、全部のお世話をして、武道にはただ笑っているだけでいい生活をさせてやりたいと、決して口にはしないが九井はずっとそう思っている。

     ――良いよと言われなかったとしても。
     例えば東卍の人間が武道を連れて行こうとしたり、それに武道がついて行こうとしたら、我慢なんてしてやらない。出来る筈もない。いっそのこと、そうなってくれた方がいいのにとすら願ってしまう。

     ふとした時、九井は未来のことを思い出してしまう。武道が死んだというニュースを見た時ではなく、梵天という反社会的勢力の組織に属していた時のことを。

     人を殺すのも人が死ぬのも当たり前で、倫理なんてものからは程遠い暗い暗い闇の世界に身を沈めて生きていた。そこで自分の心が擦り減っていくのを感じてはいたが、もうどうしようもないことは分かっていた。
     自分の金を稼ぐ力は裏社会では何より重宝され、例え梵天を抜けたとしても裏の世界からは逃げられないだろう。そもそも梵天からは逃げられない。そんなことをすれば、裏切り者としてスクラップ(処分)されることが決まっているのだから。

     血と硝煙と裏切りが満ち溢れた裏の世界で生きていたあの時から、本当はずっと、武道に会いたかった。たった一人の幼馴染である乾にだって会いたかったが、それと同じくらいにどれだけ絶望的な状況でも光を見失わずに真っすぐ立っていた武道に会いたかった。

     梵天にいた時、夢を見て飛び起きることが何度もあった。それは病院で眠る救えなかった初恋の人だったり、血だまりからこちらをじっとみる名も知らない誰かだったり、どこまでも続く闇の中だったり。
     跳ねる心臓を抑え、恐怖や絶望感に動けなくなりそうな時、決まって九井は武道のことを思い出した。

     十二年という年月が経っても、忘れられない光景。九井が天竺に入ることになった日のことだ。
     自分と乾、そして自分たちの隊長だからと武道が陸番隊の武藤と三途に捕まった、あの運命の日。縛られて身動きが取れないうえに、もう既に殴られて怪我をしていた。逃げ出したいと望んでもおかしくない状況の中、それも信用なんて出来ていなかったであろう自分と乾の為に立ち向かっていった。絶望的な状況なのに、自分なんかを「オレの部下」と呼んで渡すものかと必死になっていた。

     小さな背中が、誰より大きく見えた。愚直に前を見る瞳はひどく眩しく輝いていて、あの瞬間が、あの光景が、どれだけ経っても焼き付いて離れない。

     その時を思い出すと、気持ちが落ち着いて、呼吸が出来る。あの眩い光が瞼の奥にあったから、自分を失わずに生きていられた。
     そこにいなくても自分を救ってくれる存在にもう一度会いたかった。だが、闇に生きる人間が会いに行くことがどれだけ危ないことかは分かっていたし――なによりも、闇に堕ちた自分をあの目で見られるのが怖かった。

     真っすぐな光に満ちたあの瞳で、闇の中で生きる汚い自分を見られることに耐えられるか分からなかった。だからずっと会いたくて、同時に会いたくなかった。

     だけど、今は全てが違う。自分がいるのは梵天なんかじゃなく黒龍だし、一度は会いたいと願っていた存在はもう一度なんて言わずこれから先もずっと傍にいられるし、自分たちの望むボスになってくれて、もうあんな風に死ぬ未来は来ない。
     九井にとって、今が一番と呼んでいい程に幸せな時間だった。だからこそ、この幸せを続けさせる為に出来ることはなんでもしたいと願っている。

     それが一般的に見たらよくないことだったとしても、九井からしたら「だから?」と一蹴する程度のものでしかない。自分の愛おしく何よりも大事な武道を守る為ならば、何でもやる。例えそれが世間にも――武道や大寿や乾に許されなかったとしても。

     そっと息を吐いて、九井は視線をソファでごろりと横になっている武道に向ける。硬いだろう乾の足に頭を乗せ、幸せそうに口を開けて寝ている姿に口元が緩む。
     このまま寝かせていてやりたいと思うものの、外に出ていた大寿が戻ってき次第集会の予定だ。そろそろ起こさないとな、とソファに足を進める。

    「武道、そろそろ起きろ。準備するぞ」
    「…………、……んぇ……?」
    「イヌピーの膝枕でよく寝れんな。首とか痛くならねぇの?」
    「ん……ちょっと……痛い」

     寝ぼけまなこの武道が目を擦りながら体を起こす。乾が少しショックを受けたような顔をしているが、寝起きでぽーっとした武道はそれに気付いていない。九井はそんな武道の手を引いて、ソファにしっかり座らせると後ろに回って髪を整え始める。

     今日の集会は、バイクで走行するルートを決めるような緩いものではない。近頃この辺りで暴れているチームをどうするかという集会だ。どうするも何も、放置するなんてことはしないで潰すに決まってはいるのだけど。それをいつ、どこで仕掛けるかという話だ。
     東卍相手でも、武道が救いたいと思っている人間たちに関係あるチームでもないが、放置して黒龍が舐められて評判が落ちるなんてことはあってはいけない。

    「今日は片側上げて、顔よく見えるようにするか。凛々しく決めてくれよ、ボス」
    「ええ……むちゃぶり……」
    「……今度からは膝に枕置く」
    「イヌピーくん、もしかしてずっとそれ考えてました?」

     髪を梳かし、ワックスを手にする九井に微妙な顔をする武道、どこかワンテンポずれた乾。
     膝の高さに枕まで加算されたら更に寝づらいだろ、別に我慢出来ないほどじゃないから大丈夫、そもそも膝枕やめればいいのでは。そんな取り留めのない会話を重ねていく。
     大寿が帰ってくる頃には武道の髪はしっかりセットし終わって、武道だけの特別な黒い特攻服を九井が襟を正しながら着せられて十一代目黒龍総長として恥じない恰好が出来上がっていた。

     二階フロアに置かれた等身の鏡を見て、ビシッと決まった姿の自分を見て武道は「ほあぁ」気の抜けた声を上げる。「総長が間抜けな声上げるな」とすかさず大寿に軽く小突かれた。武道は痛くもないそこを軽く押さえながら「いや、だって」と口を開いた。

    「ココくん毎回こうやってオレの準備して、しかもかっこよくしてくれるから。なんかオレ、ココくんいないと駄目になりそうだなって」

     武道の言葉に沈黙が下りる。それにもしかして失言だっただろうかと武道が焦る前に、九井が目をキラキラと輝かせて「本当か!」と珍しく声を弾ませた。

    「ってことは、もっと色々オレがお世話してそれが当たり前になればいいんだな!」
    「いいんだな!?なに!?」
    「任せろ武道!」
    「何を!?」

     これだけ生き生きとしてテンションが高い九井も珍しいと、大寿と乾は騒ぐ二人を見守った。話の内容自体もそれはそれでと思うから余計だ。武道が九井から離れられなくなれば、それはつまり自分たちからも離れなくなるということ。
     九井だけというのは面白くないから自分たちもいないと駄目にしないとという気持ちもあるが。それでも、そうなればいいのにと思うのは九井だけではない。

    「おら、じゃれてないで集会行くぞお前ら」
    「じゃれてるつもりないですけど!?」
    「ほら行こうな、武道」
    「手を取らないでココくん!普通に自分で行けるんで!」
    「抱えてくか?」
    「ココくん!!」

     ぎゃんぎゃん喚く武道の姿すら愛おしいとばかりに、九井は幸せそうに微笑むだけだ。そのまま階段を下りて、皆の前に立つその瞬間まで武道の手を引くのを辞めなかった。武道はそれに子供じゃないのにと恥ずかしがり、隊員たちの目があるのにとむくれたが、隊員たちからすればまたやってるなという程度の認識でしかないと気付いていなかった。
     幹部はボスが大好きで絶対であるというのが、黒龍の共通認識だ。――幹部に敵わないとしても、隊員たちもボスが大好きなのは同じだ。

     隊員たちの前に立ってようやく手を離され、安堵と共にひとつ深呼吸。その瞬間、空気が変わる。

     本人が意識しているのか、それとも完全に無意識なのかまでは分からないが、「ボスとしての」武道は普段とは雰囲気が変わる。
     強い意志を宿した真っすぐに前を見る瞳と堂々たる立ち姿に、それを見る隊員たちも自然と背筋が伸びる。この瞬間が、大寿も乾も九井も好きだった。自分たちの為にと理想のボスでいてくれようとして、実際になってくれたボス。

     未来から戻ってきた瞬間はヒーローたる武道だった。だけど今はもう違う。誰より真っすぐ前を見て、両の足でしっかりと立って進むその姿こそ同じかもしれない。だが、独りで突き進むことも傷付くこともしない。
     相談をして、共に歩もうとしてくれる。自分たちの後ろにいてくれる。前に出てもちゃんと守らせてくれる。自分たちの想いと望みを尊重して、理想のボスになろうとしてくれている。

     それが一番実感出来るのが、こうした集会や抗争の時だった。いつもの、親しみやすく愛おしいと愛でたくなる姿とは違う、堂々とした組織のトップたる姿。何度見ても胸がじーんと熱くなる光景だ。

    「集会を始めます。皆知ってると思うけど、最近ここらで暴れているチームのことです」

     静かなフロアに武道の声が響き渡る。ボスなのだからと言っても、それでも皆オレより年上だからと敬語は抜けない。最初は不満があったものの、今ではむしろその方が「らしい」とまで思う。淡々と相手の情報を連ね、皆に意見を聞きつつ話を進めていく。そしてある程度まとまると、ふうと静かに息を吐いた。

    「決まりですね」

     すっと細められた目に、誰もが心に火を灯す。口元がにやけてしまうのを抑えられなくなって、心臓が興奮からドクドクと脈打つ。
     普段は気のいい人間たちばかり。じゃれて遊ぶのが大好きな連中。だとしても彼らは不良で、黒龍という暴走族の人間だ。

    「今週の金曜! オレら黒龍の存在を、教えてやりましょう!」

     張り上げられた号令に、建物が揺れているのではと錯覚する程の歓声と咆哮と、突き上げられた拳。それに満足したように武道は微笑み、ひとつ頷いた。
     ――オレらのボスが、こんなにもかっこいい。
     声こそあげないものの、三人も満足げに頷いて笑っていた。

     集会の後、今日はいつも以上にかっこよくきまっていたから、と九井が武道の写真を撮りたがった。それに当たり前のように乾も便乗し、普段なら呆れた顔をするだけの大寿も珍しく乗っかったことで武道は写真撮影を断れなくなってしまった。
     そこからはもう、当然の流れのように黒龍の隊員たちも武道の写真を欲した。

     「いつもとそんな変わらないでしょ!?」と言う武道の講義は黙殺され、気付けば撮影会になっていた。幹部三人も隊員も、なんならいつも一緒の溝中五人衆まで参加していて、口々に「かっこいい」やら「こっち向いて」やら「最高」やらと言われてしまえば、武道は誇らしさと恥ずかしさで顔を赤くしながらも、向けられた携帯カメラにピースで返した。

     幹部を含めた隊員たちの間で撮った写真を見比べ、一番映りがいい写真を現像して皆が一枚以上持つようになっていたが、知らぬは本人ばかり。撮影からしばらく経って、隊員の一人がうっかり財布にしまっていたのを武道に見つかってしまい「まさか、他にも現像して持ち歩いてる人いる!?」という叫びに何人かが反応してしまったことからひと騒動あるのだが、それはまた別の話。

    「武道、今日は出かけようぜ。オレが髪型もコーディネートも全部してやるからさ」

     乾の膝の上に置かれた厚みのあまりないクッションに頭を乗せ、まどろんでいた武道に九井が笑顔で話しかける。
     その言葉にソワソワしだす乾と、言葉もなく立ち上がって準備を始める大寿。武道は自分を見つめる九井の顔を見て、肯定の返事をした。

    「もうすっかり、ココくんはオレの専属コーディネートですね」

     少しだけ困ったように眉を下げながらも、それが楽しくて仕方ないのだろうなと思考して、武道は寝ころんだまま九井に手を伸ばした。

    「そのままオレがいないと駄目になってくれよな」
    「もー、またそれ言うー」

     伸ばされた手を握って起き上がらせてやりながら、九井は笑う武道に微笑んで返す。乾と大寿も、そのやり取りに何も言わずに笑うだけ。
     きっと武道は気付いていない。以前なら普通に自分で起き上がっていたのを、自分から九井に手を伸ばして起こしてもらうようになっている事に。
     ソファに横になる時、乾がいないと居心地が悪そうにしている事も。起きた時向かいのソファに大寿がいないと周囲を見渡して姿を探す事も。きっと全部無意識にしていることで、気付いていないのだろう。

     その事実に九井は笑う。どこまでもどこまでも、幸せそうに。
     自分たちがいないと駄目になって、そのまま離れられなくなればいい。大事にしまって囲ってしまいたい。今のこの状況だって幸せだけど、いつか自分たちだけの箱庭でこの宝物を大事に愛でることが出来たなら。
     誰に捕られる心配もなく、怪我はもちろん死ぬことへの不安だってなくなる。自分たちの手の中でずっと笑っていてくれる。それはきっと至上の幸福なのだろう。

     そうはしないけれど。九井は、そうなってくれと願わずには、いられない。

     ああまったく、知らぬは本人ばかりなり。
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    asagi_bd

    DONEココ武メイン。イヌ武・寿武要素もある。
    支部とTwitterにて連載していた「ヒーローになんかさせない」の本編後の番外編。
    仲良し(執着)11BD。ちょっぴり不穏です。
    支部の本編→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16773536
    イベント後、数日したら支部にも載せます。
    【ココ武編】ヒーローになんかさせない番外編 黒龍の人間に九井一がどういう人間かを聞くと、誰もが一瞬口を閉ざす。それは口に出すのを憚られるような恐ろしさがあるからなどではない。皆どう答えたものかを悩み、それから言うだろう。
     ――どれが本当か分からない、と。

     11代目黒龍の幹部である、柴大寿、乾青宗、九井一。この三人の中では、九井は一番話しかけやすい人間ではある。

     大寿は武道が総長になってからは、まるで人が変わったように落ち着きのある人間になった。とはいえ、十代目総長だった時の記憶は鮮明に残っている。いつどうキレるか分からず、圧倒的な力がある存在であるという認識は変わらず、軽々しく話しかけられる相手ではない。
     乾はあからさまに武道とそれ以外とで態度が違う。話の内容が武道関連だとかぶりつきでくるものの、そうでない時はこちらから話しかけない限り口を開かなければ目も合わせない。武道以外ではバイクなんかは話が盛り上がることもあるが、まあ話しかけやすい相手かと言えば答えは否。
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    着てみるとサイズがかなり大きくて袖が余っていた。
    肩の位置も腰の位置も落ちていて、もともとロングコートなので裾も不自然に長く見える。
    同じコートを着て並んで立っている乾と九井が、威圧感のあるスタイリッシュさを見せているのとは対照的だ。
    父親のコートを着ている子供のように見える武道の姿に、乾と九井は顔を見合わせて相談し始めた。

    「幹部の特服はLサイズしか作ってなかったんだよな。やっぱり、花垣のサイズで作り直すか?」
    「総長なのに、幹部と同じ白なのがおかしくねぇか?花垣の好きな色にしよう」
    「それもそうだな。何色が良いんだ?やっぱり黒か?」
    「もっと目立つ色が良い」
    11079

    96noScull

    DONEタイトルはきみがとびおりるのならばの歌詞。曲も明るいけど小説はだいぶ暗い気が(;´∀`)みっちもココ君も自分のためには頑張れないけど人に対しては献身的すぎるところが同族嫌悪なんじゃないの?って思ったので。でもみっちは過去と現在を行ったり来たりしてなんとかまいきを反社にしない世界になっても心が追いつかない気がする…その時気力がなくなるんじゃないかなって思いました。
    人の人生左右しといてふざけんな覚えてろこの野郎!! こいつ、今死にたいと思ったな。
     下手糞な笑顔を浮かべた花垣にいち早く気づいてしまったのは、こいつが苦手だからこそ観察する癖がついてしまったからだろう。
     行動の予測がつかない。金になびかないし圧倒的な力に立ち向かう無謀。得にならないのにやすやすと命を張る。善性の塊。未知の生物。
      
    関卍解散後、フリーになったオレに花垣は問いかけた。
    「ココ君は何が欲しいんすか?
    オレはココ君が必要とされたくて金を集めてる気がするんです」
    虚を突かれて、次には血が沸騰した。
    力任せにぶん殴ってもマイキーと渡り合った男は踏ん張った。
    「多分ココ君は、もう何も失いたくないから。
    だから固執してるんでしょう。それを否定はしない。
    ココ君は、自分のために力を振るえない人だ」
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