アステールの贈り物空に星が美しく輝く夜に流星が一つ流れた。
嬴政は其れを見つめ何か不思議な予感が一つ浮かびながら、是から何か起こるような予感がしていたのだ。
嬴政がハデスの城に相変わらず遊びに行くと、ハデスは執務をし、山の様な書類に埋もれていた。其の書類の束を眺めながらも相変わらず自由を通す嬴政は、声を張り上げ叫ぶ。
「来たぞ!!冥府の!!」
扉を勢い良く開け入った嬴政に、ハデスは顬に血管を浮かべながら見つめた。扉か壊れたのだ。嬴政が悠然と我が物の如く歩いて来ると、ハデスの執務を眺めながら好き勝手し始める。
「冥界に来るなと何度言ったら分かるんだ」
ハデスのその言葉に嬴政は、隠した目でも一目瞭然な笑みを浮かべ告げる。だがその笑みは何処か妖艶に見えた。
「朕が行く道が道成!朕に指図するな!!」
相変わらず自由人で猫の様なその男にハデスは恋をしていた。だからこそ少しずつ冥府に落とすのに色々しているのだが、嬴政は察して全て避けられている。何か良い事は無いかと思いながらもハデスは最近良い物を部下の研究者からから手に入れた。その液体を嬴政に飲ませるのにお茶に誘う事にする。
「茶にするか。余も休みたい。付き合え嬴政」
嬴政は喜び執事が運びに来ると、嬴政の茶だけに混ぜた薬、妊娠薬で男に子宮を作る薬を混ぜた。飲み込んだ嬴政にハデスは茶を飲みながら笑みを浮かべる。茶と菓子に気を取られた嬴政は、その笑みに気づかなかった。
「紅茶も美味いな!余の城でも取り寄せるか」
茶を飲み干した嬴政にハデスは薄い笑みを浮かべ笑うと、嬴政はハデスの珍しい笑みに疑問を尋ねた。
「どうした?機嫌が良さそうだな?」
「余は今機嫌が良いからな。終わったらお前と酒を飲んでも良いと思ってな」
そのハデスの言葉に嬴政は喜びの笑みを浮かべ、早速部下に連絡の鳥を飛ばすと、茶の後の酒を楽しみに待つのだった。
酒盛りが始まり、すっかり出来上がった嬴政がハデスに絡みながら話す。
「余は好きな奴が居てな、其奴は真面目な所があり甘えベタで、だが何処までも王の中の王なのだ。お前だ、ハデス」
嬴政の告白にハデスな驚きに目を開くが、其れなら閨を共にし子種を仕込む事をする事も良いだろうとハデスは思って居ると、嬴政が酔った笑みを浮かべ言った。
「朕は其方となら閨を共にしたいと思う。だが其方は望んでおらぬだろう。これは朕だけの中に留めるのだ」
そう言った嬴政にハデスは獰猛な笑みを浮かべると、立ち上がり嬴政の後ろに立った。
「言ったのはお前だぞ。なら余のものに成るのも構わぬのだな」
「……ハデス?」
ハデスは緩りとした動きで嬴政を抱き上げると寝室へと連れて行く。扉が閉まり部屋は静まる。是からは二人の時間だ。皆は知らなくても良い。
嬴政はハデスの城に行ってから暫くし体調が悪く成り始めた。ハデスに微かながらも抱かれた記憶が有り、行きずらくなってから暫く顔を出して居ない。腹の辺りを無意識に撫で何かの違和感を抱きながら、まさかなと思うが、神の一夜孕みとの言葉もあり部下に調べさせた。
結果子供が腹にいた。正しくハデスの子である。嬴政はこの子供を降ろす事無く一人で育てる決意を決めた。
ハデスはあれから姿を見せない嬴政に疑問に思い、嬴政の城に向かうと部下は嬴政は別荘に居ると言われ疑問に思う。別荘の場所を聞くが教えられないと言われ、ハデスは執務の空き時間を使い探す事にした。
嬴政は城から離れ自ら所有する別荘で寛ぐと、大きく膨らむ腹を撫でながら独りごちる。
「其方の父の顔を見せる事が出来なくてすまないことをした。だが朕が其方に潤沢な愛を注ぐ故に、安心して出て来ると良い」
嬴政のその言葉に子供が答える様に腹を蹴る。嬴政は誰に似てお転婆になりそうな子供に笑みを浮かべると、ゆったりと過ぎる時間に窓から外を見つめ其の時間を潰す事にした。
ハデスは嬴政の居所を見つけると、獰猛な笑みを浮かべ呟いた。その笑みを見た偶然居合わせた周りの神な短い悲鳴を浮かべ、震える。ハデスの狙った獲物を狩る肉食獣笑みで呟いた。
「はは………ははははははははは!!!余から逃げられると思うか、お前は余のものだ。誰のものでもない初めての余だけのものだ。逃げる事等許さぬ。余から逃げた事を愛を持って分からせてやるぞ………嬴政」
ハデスの愉しげに笑い声を上げたあと、呟かれた言葉に部下は書類を置くと一目散に部屋を出て、ハデスが気になる人類剣闘士に黙祷した。
今日も緩りと過ぎる時を楽しみ、だが何処か憂鬱な気分でいた嬴政だが、暫くし外が騒がしい事に気づく。部下が倒される音にまさかと思い隠れようとするが、部屋の扉が破壊され開かれたと共に、入って来た人物を見た嬴政は驚き立ち尽くす。
「………ハデス」
「此処に居たか……嬴政」
数分の無言が続き永遠の様な時間を最初に破ったのは嬴政だった。
「如何して此処に来たのだ」
嬴政の悲痛な声にハデスは嬴政から目を離すこと無く告げた。
「其方を攫いに来た。其の腹余の子か」
確信する様に言ったハデスに、嬴政の肩が跳ね上がり後無言が続き呟く。
「…………ああ、そうだ。其方と朕子だ」
ハデスはその言葉を聞き歓喜な笑みを浮かべると、冥府の理を破り生まれた子に賭けに勝った事に歓喜し嬴政を抱きしめる。嬴政の耳元で囁かれた言葉に己の目が瞠目した。
「好きだ…嬴政」
嬴政は歓喜で涙を堪えるが、ハデスに布を外され其れは無駄になる。
「其方の返事が欲しい」
嬴政の目から涙が流れ軈てハデスの唇に触れるだけの口付けをすると、嬴政は顔を背け呟いた。
「……これで察しろ」
嬴政の精一杯の告白にハデスは強く軋む程に抱き締め腹の子に響かない様に気を付ける彼に、嬴政はそれに心底嬉しく思い抱き締め返す。
無言の抱擁が暫く続きお互いに離れるとどちらとも無く笑い出す。
それを木の合間から洩れた木漏れ日だけが祝福していた。
軈て嬴政が産んだ子は女の子で、ハデスは初めての出産に立ち会い、嬴政の手を抱き締め産まれた子供に声を上げ喜ぶと祝福の言葉を告げた。
その子は冥界の光と成るようにと「冥光」と名付けられ、初めて生まれた子供に二人は祝福したのだ。
冥光とその次に生まれた弟のアントスと共に嬴政は、冥界で唯一ハデスの城の一部のみ咲いた花畑に二人と腰を降ろし、絵本を読んでいた。
「─────やがて姫は星になり王を祝福したのだ、お終いだ!」
絵本が読み終わり子供達が嬉々揚々と感想を投げ掛ける。
「お姫様かわいそう」
「王子様はどうなっちゃうの?」
子供の素直な言葉に嬴政は微笑みを浮かべ返す。
「確かに姫と皇太子が結ばれるのは悲哀だが、お互い死後は分からぬぞ?朕の様にな」
そう言った嬴政の元に足音が聞こえ、前を向くとハデスが歩いて来るのが見える。
「父上ーーーー!!!」
「父上!!!」
ハデスへと駆けて行く子供達を見守りながら、子供達を受け止めたハデスが手を繋ぎ嬴政の元へと歩む。嬴政は笑みを浮かべ見守る。
「すまない遅くなった」
「其方が忙しいのは知っておる。朕は楽しいぞ」
ハデスが嬴政の隣に座り、子供が挟む様に座るとハデスの顔が曇り何かを言おうと言葉を探すのに、嬴政が言葉を発した。
「朕は気にしておらぬ」
「………だが、其方は冥府の理でもう子供が産めぬのだ」
「元より二人も産めたのが奇跡なのだ。冥府のの理も寛大な事よ」
嬴政の言葉に快活な笑みで言った嬴政に安心するハデスは、嬴政の肩に手を回し自分の肩へと凭らせた。
「其方と番え永遠の時を過ごせるのを嬉しく思う」
嬴政の妊娠の後一人で育てる気だった彼は賭けをしていた。ハデスが来れば冥府に住み彼の元へゆく、賭けは嬴政が勝ち、その後家臣に告げた後、柘榴の実を十二粒食べたのだ。
子供を産み、育て、稀に城に戻り様子を見て過ごしお互い慈しみ幸せを噛み締める。
ハデスは二度目の嬴政は初めての恋に悩み駆け引きし、お互い幸せになった。
子供の髪を梳く様に撫でハデスは思う。
この幸せを齎した嬴政を離さなくて良かったと、自分の元へ留ませるのに子を仕込み、柘榴を食わせ、愛を大量に注ぎ自分の独占欲を示した事をハデスは後悔していない。
隣に居る嬴政を見つめる。
あぁ、幸せだ。と思ったハデスは悠久と続く時に幸福を見出した。
鳥は籠に自ら入る。冥府を宿り木にし、自ら番と共に生きることを選んだのだ。
今日も比翼達は冥府で互いを慈しむ。