夏油の影武者となるべく夏油の表向きの行動以外は同行している乙骨。この日は信者からの噂が絶えない呪霊を回収しに某所へ。高専の連中より先に呪霊回収できた夏油は満足そうな表情で呪霊玉を握る。
するとその呪霊玉に熱き視線を送る乙骨に気づく。そんなにこれが珍しいのかと思った夏油は乙骨の手に乗せてやる。表情には現れないがまじまじと見つめるその姿は興味津々といったところだろうか。それの何がいいんだろうかと見つめていると徐に口を開けそれを食べようとする乙骨。待て待てと慌てて乙骨の口を覆い呪霊玉を奪い取る。
「夏油さんの影武者となるためにはこれの味も知っておきたいと思って」
悪びれる様子もなく淡々と話す乙骨にため息を吐くと、
「これは私が飲まないと意味ないんだよ。先々役に立ってもらわないといけないからね」
そう言うと乙骨に奪われる前にさっさとそれを飲み込む。口に含んだ瞬間に一気に押し寄せる吐き気に耐えながら一連の行為を終えて安堵するも乙骨は不服そうな表情で俯いている。もう一度ため息を吐くと、
「ならこの指でも舐めるかい?まだアレの臭いがこびりついてると思うよ」
と先程まで呪霊玉を持っていた手を差し出す。舐めやすいように人差し指と中指だけを乙骨の口元に運んでやる。さすがにこんな馬鹿げた事までしないだろうと思っていた。だが。
表情を変えないまま失礼しますと一言述べて控えめな舌で指を舐め始める。差し出されたからといって人様の指をさぞ当たり前のように舐める少年の姿に呆気に取られてしまう夏油。しかし生温かく濡れた舌が指先を這う感覚にむずむずとする。どこまでなら受け入れてくれるだろうか。好奇心に駆られる。先程から指先しか舐めようとしない少年の口に強引に指を差し込んでみる。一瞬驚いた表情をした乙骨だが抵抗することなくその指を受け入れる。
舌を撫でて歯列を撫でる。上顎の輪郭に沿って指を動かすとくすぐったそうに少しだけピクリと動く頬が面白い。異物を受け入れた口内が唾液で満たされて一層指に纏わりついてくる。喉を目指して奥まで進めていくと流石に苦しいのか顔を歪めて嘔吐きだしたので名残惜しくも解放してやった。
「わかったかな?私はいつもこんな気持ちでアレを飲み込んでるんだよ。だが私にとっては有益なことなんだ。君にとっては何の価値もない。もう真似しちゃダメだからね」
優しく諭すように話すと涙目になりながら肩で呼吸する乙骨は静かにはい、と答えた。高専の連中がここに来る前に早く去らねば。先に行くよう促すと背を向けて歩き出す乙骨。その背を眺めつつ口内を侵した指に視線を向ける夏油。纏わりついた乙骨の唾液が光沢を帯びている。その光沢に惹かれてしまったかその唾液を舐める。普通なら気持ち悪くてすぐにでも拭き取るところだろうが何故か気になって仕方がなかった。その液体は呪霊玉なんかよりかなり魅力的で甘く感じた。乙骨憂太の味を知ってしまった脳は不思議とその味を受け入れ、もっと欲しているようだ。
おもしろい。
ならばもっと深みを教えてやろうか。年齢的にはまだ若くそんなことを知る年でもないのだろうが私はとっくの昔に猿どもの創り出した法など逸脱している。今はただあの純粋無垢な少年を穢したい。私の手で堕ちる姿を見つめていたい。快楽に沈み、涙で潤むその眼に私を焼き付けてやるのだ。
次なる野望を胸にほくそ笑みながら乙骨の背を追いかける夏油だった。