最後のひとくち(環紡)「はい、どーぞ。ひとくちしか残ってねーけど」
そう言って差し出されたのは、環の好物である王様プリン。
仕事を終えた紡が深いため息と共にパソコンを閉じたとき、環は「疲れたときには甘い物がいいんだって」なんてことを言い出したのだ。
きっと三月あたりに聞いたのだろう。大好きなプリンの最後のひとくち。それを譲ってくれる優しさは嬉しいのだけど、それとこれとは別の話で。その「最後のひとくち」が乗ったスプーンは環が握りしめたまま紡の口元に差し出されていた。
「はやく食えよ。こぼれんだろ? ほら、あーん」
「いや、あ、あーんは少し恥ずかし……」
「はぁ? 誰も見てないからいいじゃん。はやく。あーん!」
紡は恥ずかしさのあまり目をつぶり、急かされるまま口を開けた。
口の中にスプーンがコツンと当たる感覚と同時に、甘味と香りが広がる。それが環の優しさを表しているようで思わず口元が緩んだけれど、そっと目を開くと目の前の環も笑っている。
「なんで目つぶって食ってんだよ。口の周りに付いてっし」
「だっだって環さんがっ!」
「ごめんって。恥ずかしがってんのかわいかったから。ゆるして?」
口元を拭おうとした手は咎められ、許しを請うたはずの環の唇は答えを聞かぬまま紡に近付く。零れたプリンごと紡の唇をペロリと舐め上げると、環は「あま」と呟いた。
「ねぇ、甘いのもっとちょうだい?」
環の舌が唇を割り入って、咥内に残るプリンの甘味と香りに混じる。
「んっつむぎの口の中あまい」
「環さんも、あまいです」
「ちゃんと疲れが取れるように、もっと舌出して。ちゃんと味わって。ね?」
もうプリンは残っていないはずなのに、いつまでも味わっていたくて。キスだけでプリンよりずっとずっと甘い声が漏れる。
「ふう、んっ……」
「俺とのキス、美味しい?」
こくんと頷くと、満足そうにまた唇が触れる。すっかり敏感になった咥内を舌先が擦ると、それだけで体がピクンと震えた。
「やばい。気持ちよさそうな紡めちゃくちゃカワイイ」
深くキスで混ざり合いながら、手のひらは優しく紡の膨らみを撫でる。
ただそれだけなのに、その先を期待した先端は服越しにも分かるほど堅くなっていた。
「ねえ。俺、紡のことももっと食べたい」
唇を甘噛みすると、指先は紡の服を脱――
「待って! ダメです!」
「なんで?! 大丈夫な雰囲気だったじゃん!」
「ここじゃダメです! 事務所ですよ?! ここでしたら明日から思い出してお仕事に集中できなくなっちゃう……」
美味しそうな甘い彼女にお預けをくらって不満げに頬を膨らませながら、二人の顔はもう一度近づく。
「最後にもうひとくちだけ――」