最後のひとくち(環紡)「はい、どーぞ。ひとくちしか残ってねーけど」
そう言って差し出されたのは、環の好物である王様プリン。
仕事を終えた紡が深いため息と共にパソコンを閉じたとき、環は「疲れたときには甘い物がいいんだって」なんてことを言い出したのだ。
きっと三月あたりに聞いたのだろう。大好きなプリンの最後のひとくち。それを譲ってくれる優しさは嬉しいのだけど、それとこれとは別の話で。その「最後のひとくち」が乗ったスプーンは環が握りしめたまま紡の口元に差し出されていた。
「はやく食えよ。こぼれんだろ? ほら、あーん」
「いや、あ、あーんは少し恥ずかし……」
「はぁ? 誰も見てないからいいじゃん。はやく。あーん!」
紡は恥ずかしさのあまり目をつぶり、急かされるまま口を開けた。
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