冬至物心ついたときから、実家の庭には柚子の木があった。ただそれは俺にとって、長らく「庭にある樹々のうちのひとつ」でしかなかった。その庭はずっと、俺にとってバレーがもっと上手くなるための練習場所だった。時々変な方向へ飛んでいってしまったボールが引っかかった木が何という名前なのか、一年のうちどの季節に花を咲かせるのか、15になるまで知ろうともしなかった。
一与さんが死んで、庭を眺めているときに美羽がカーテンをめくって外を覗き、言った。
「あの柚子の木、飛雄が生まれたとき一与さんが植えたやつなんだよ」
美羽が指さした先には、柚子の木が立っていた。ずっとそこにあったはずなのに、はじめて認識したような気がした。
ふと目を開けると、俺は菅原さんの腕の中にいた。
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