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    ※おとぎのファンタジアパロやすじょ(王子×鶴)

    ##SB69

    しょうばいろっくおとぎ話『羽根なし鶴の恩返し』 東国の雪深い山に、一羽の鶴がいた。よほど長く生きたその鶴は強く賢かったが、とある壮絶な裏切りにより罠にかかってしまい、村外れに暮らす青年に命を救われた。義理堅い鶴はなにか恩返しができないものかと、美しい人間に化けて彼の家を訪れた。鶴は孤独な青年に甲斐甲斐しく世話を焼き、青年もまた鶴に心を開いていった。このまま嘘をつき続け夫婦になるのも良いかもしれない、鶴の胸にそんな思いがじわじわと募った。しかし、たかが野鳥が人間と連れ合うなんてできる訳がない。彼に嫁ぐなら鶴であることを隠し通し、ただ人間であらなくては。鶴は自らの羽根を毟り取り、鶴であることを捨てることにした。激痛に息を殺して耐えた。全ての羽根を布に織るまでの一晩、姿を見ないという約束を彼が守ってくれるなら、羽根を捨てて生涯人間と偽って生きていこうと決めた。しかし、彼は鶴を裏切った。
     鶴はただ逃げた。無様な野鳥の姿を愛する人に見られるのが耐えられなかった。幸い全ての羽根を毟る前だったので、僅かに残った血塗れの羽根で飛び続けた。理由は分からない。出来るだけ遠くで、遠くで死にたかった。瀕死の鶴は遂に海を越え、遥か異国の空で力尽きた。

     異国の王子は婚約者を選ぶ舞踏会をバックれていた。夜の庭を当てもなくブラついていると、暗闇でもはっきりと光る白い塊がうずくまっている。見たこともない異国の鳥だ。体は大きく、羽毛は純白と漆黒、それに赤が異様に映えている。美しい鳥だと思ったのもつかの間、その赤が皮膚の色だけでないことに気付いた。血であった。両翼は半分以上が引き千切られており、尾翼に至ってはほとんど残っていない有り様だ。まだ温かいその体を王子は抱え上げ、自室で必死に手当を続けた。
     意識が戻った鳥は、自分は東国から来た「鶴」という生き物だと語ったが、羽根を失った理由はついぞ語らなかった。またもや恩を受けてしまった鶴だが、鳥の姿を恥じ人間の姿で国に留まることになった。王子は不器用ながらに鶴を労り、鶴のいた東国の話などをねだった。平穏な日々が続いたが、鶴の心中は穏やかではなかった。自分が王子に心奪われているのを自覚してきたからだ。自分はきっと、またやってしまうに違いない。

     ある晩、鶴は王子に一声かけた。「今夜は私の部屋を絶対に覗かないように」。鶴は機織り機の前に座った。今度は、彼が部屋を覗こうが覗くまいがここを去る決意だった。なけなしの羽根を毟りながら鶴は考えた。なぜ彼は自分が鳥だと知りながら愛してくれるのだろう。鶴は、いまだあの青年に鳥の姿を見られた瞬間が忘れられなかった。あの情けなさ、恥ずかしさ、後ろめたさ。羽根を毟る痛みには耐えられても、あれにはもう耐えられない。織り上がったのは小さな布切れ一枚だった。ああ、あんなに優しくしてくれたのにこんな物しか遺せない。情けない、恥ずかしい。以前のようにせめて潔く飛び去ることもできない。惨めに走り逃げるしかない。今度こそ命絶えるまで。
     夜明け前、鶴の部屋の前には王子が微動だにせず待ち続けていた。黙って、もはや一片の羽根もない、鳥とも人ともつかぬものを乱暴に抱き締めた。その時、やっと鶴は気付いた。鶴のままでは人に愛されないと決め付けていたのは、鶴のまま人と愛し合うのを恐れていたのは自分だったのだと。あの人は鶴のままでも、この人は鶴でなし人でなしのままでも愛してくれていたというのに。彼らの気持ちを裏切ったのは自分だったのだ。初めて涙が溢れた。王子は織り上がった布で鶴の涙を拭ってやった。すっかり羽根を失くした鶴は、もうどこへも去ることはできなかった。
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