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    #今夜もドロ沼パーリナイ

    お題「卵」

    恋人は聖母様 人間も吸血鬼もついでにニホンオッサンアシダチョウもヨナグニサンも渾然一体となって生きる街、新横浜。そんな魔都にも平等に梅雨は来る。湿度が高く不快で雨の多いこの季節は吸血鬼もなかなか積極的に活動しない。つまりこんな中で出没する輩は大体が厄介な吸血鬼である。

    「で、今日のポンチは?」
    「吸血鬼抱卵大好きだって」

     雨の降りそうな夜だからとパトロールに同行せず、またこうも暑いとジョンのお散歩もお預けだと涼しい事務所でゲームに勤しんでいたドラルクは、普段より慎重な足音に「何か」が起きたことをすぐに察した。血の匂いがしないので怪我の恐れは無いか、いや捻挫や打ち身の可能性も無くはないと先んじて扉を開けたところで、子犬を抱く様にして大きな卵を抱えたロナルドが現れたという次第である。

    「ダチョウの卵くらいあるがオッサンアシダチョウが産まれるとかじゃないだろうな」
    「いやなんか一応親の遺伝子を継いで産まれるとか」
    「めっちゃくちゃに高度な能力じゃないか」

     吸血鬼抱卵大好き、の名の通り卵を抱いて温める生き物を見るのが好きなのだそうだ。普通にヌーチューブの動物chとか見ててほしい。迷惑すぎる。
     いつも通りアホの名乗りと同時に暴力を行使したロナルドは、いつも通り術にかかり突然目の前に現れた卵を「俺が守らなければ」という気持ちに襲われ咄嗟に卵を抱きしめた。当の吸血鬼はすっかり伸びていて詳細が聞けないままVRCへ連行済み。どうにもならないのでとりあえず卵を抱えたまま事務所に戻ってきたと。あらすじ不要レベルのいつもの話だ。このプロット使い回してロナ戦番外日常編みたいなの30本くらい書けそう。

     ロナルドは帰宅早々ソファに陣取り、腹に卵を抱いてその上から毛布やらブランケットやらをぐるぐるに掛けて落ち着いてしまった。縮尺を縮めればまさに巣で抱卵する親鳥だ。しかし今は夏日もちらほら見え始めた初夏であり、ロナルドは常人より筋肉量が多く代謝も高いドラルク自慢の健康優良児である。

    「あっちぃ……」
    「ドワーーーッ!?おいすごい汗だぞバカ造熱中症になる前に巣から出ろ!」
    「やだ……卵が冷える……」
    「冷えるかァ!ゴリラの体温で充分じゃボケ!」

     ぐるぐるとぐろを巻く毛布の端を引っ張ってはみたが、ロナルドはいやいやと力なく首を振り丸くなるばかりだ。力なくと言ってもゴリラ基準なのでもちろんドラルクでは1枚たりともその皮を剥がすことは叶わない。慌てて冷蔵庫から保冷剤と水をとって巣へと引き返す。ついでに空調の温度も下げてしまう。電気代がとうるさく言われたらぶん殴る気持ちになってやるからな。

    「夜食はどうするんだ」
    「……腹は、減った」

     だろうなぁ。いつもなら既に湯を使って汗を流しドラドラちゃん謹製絶品グルメに舌鼓を打っている頃合いである。しかしロナルドは、その腕の中にあるものが己の命より大切だとでも言いたげに抱きしめて動かない。熱のこもって赤くなった首筋に汗が流れるのを、冷たく濡らしたタオルで拭ってやれば気持ちよさそうに目を細めた。大事な卵を抱いて離さない警戒心と、その癖首筋を容易に晒す無防備さに白旗をあげたのはドラルクだった。

    「全く手のかかる!」
    「ヌー……」
    「ごめんなぁジョン」
    「まず私に謝れ」

     抱卵で手の離せないロナルドの口に、唐揚げをまた一つ放り込む。もぐもぐと満足げに咀嚼し嚥下するのを見てもう一つ。横でその様子を見ているジョンはすっかり拗ねて頬袋を膨らませているが、卵が無事孵ったら存分に甘やかすことをお約束申し上げてなんとか矛を納めてもらっている。ロナルドはそんなジョンに平身低頭しきりだが、それでも抱卵をやめるつもりは無いらしい。時折卵の表面を緩やかに撫でているのがブランケット越しにもわかる。
     卵を温める母鳥に餌を運ぶ役割というのはまるきり番のようで、ドラルクは胸の奥、硬い心臓を掻きむしりたくような心地になる。母鳥に鳥の唐揚げをやるのは少々サイコではあるが。食事と水を与え、その身を拭って清めてやり、ソファベッドの背もたれを倒し寝床を整える。吸血鬼はもてなしが得意とはいえ、我ながら甲斐甲斐しいと笑ってしまう。
     横になったロナルドは膝を寄せて丸くなり、その中心に卵を置いてなお温めている。先ほどまで拗ねていたジョンも、まるで手伝うように一緒になって卵に寄り添っていた。あまりの愛らしい光景に思わずスマホを取り出しかけて、めざとく見つけたロナルドに思い切り睨まれてそっとしまった。
     そうして抱卵したまま眠りについたロナルドをドラルクは夜明け近くまで眺め、自身も棺桶に入って眠った。
     
     ***

     と思った数時間後、棺桶の上で何かが跳ね回る音と振動に叩き起こされる羽目になった。ガタガタと蓋が鳴って開こうとするのを見て即座に再生し時間を確認する。

    「まだ10時!?待て待て開くな死ぬ死ぬ死ぬ……は!?」

     ほんの僅かに開いた蓋の隙間から、何かが二つころんもふんと音を立てて転がり込んできた。棺桶という密室でももちろん夜目のきくドラルクには細部までしっかり見えている。咄嗟に両手に掴んだそれは柔らかくジョンの腹毛にも劣らぬふわふわで……犬のような猫のような白い毛と誰かのような青い瞳の毛玉と、誰がどう見ても変身失敗した時の己によく似た毛玉だった。 
      
    「きゃうん!」
    「ぴすぅ」
    「これ、もしかして」
    「あっ!モフ共そんなとこに!」

     棺桶がガバリと開かれ、蛍光灯の光が目をさしてドラルクはまず一度死んだ。遮光カーテンが閉められているのか日光は入ってきていないようで、そのまますんなりと再生し――、両腕に面影あるもふもふを抱いて微笑むロナルドを見てその眩しさにもう一度、死んだ。
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