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    nana8esah

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    nana8esah

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    阿ヒルのお題は 『望んでいた罠』、『爛れた心』、『吐き気がする』
    https://shindanmaker.com/284552

    阿ヒSS「さっきからえらい機嫌がワリいな」
    見知らぬ男達から巻き上げた名刺をホテルのベッドに並べて数えながら、ヒル魔は阿含の顔を見もせずに言った。丈夫な紙質の名刺を長い指が楽しげに弄び、時折爪が当たって小さく音を立てる。
    「何か面白くねえことでもあったか?」
    質素な部屋の中は色褪せたカーテンとしみの付いた壁紙、備え付けの椅子とダブルベッド。性行為にしろ犯罪まがいの脅迫にしろ、やましい行いを隠してもらうにはうってつけの雰囲気だ。

    窓際の椅子に座って足を組んでいた阿含は、その姿勢のままヒル魔の背中に向かって答える。
    「テメーに俺の何が分かる」
    「こんだけ一緒にいりゃ相手の機嫌くらい嫌でも分かんだろ」
    「そりゃあちょっと自意識過剰じゃねえか。俺ら知り合って一年も経ってねえのに」
    「糞ドレッド、テメーは人間同士の絆を出会ってからの長さで量るタイプか? 俺は過ごした時間の濃さだと思ってたんだがな」
    また思ってもいないことをいけしゃあしゃあと、とは思ったが、その主張には同意する。だからこそ阿含は今苛立っているのだが。

    ヒル魔と会うのは二週間ぶりだった。
    突然現れたこの男に協力を持ちかけられ、なんだかんだと連むようになってから来月で一年になる。別に「毎日連絡するね」等と約束していたわけでも無かったが、数週間前までは一日と間をおかずに電話やメールが来ていたことを考えるとどう考えても不自然だった。
    これだけ頭の回転も趣味趣向も合う人間は阿含にとっても初めてだった。認めたくはないが、このまま距離を置くには惜しい。しかし何かあったのか等とヒル魔に面と向かって尋ねられるわけもない。
    お前の言う濃い関係の俺には何の説明もなしかよと、そう食ってかかりたい衝動をグッと堪える。

    「……んな関係の割には最近つれねえじゃねえか、なあ? 俺のことは使うだけ使って飽きたらポイかよ」
    本音であることを悟られないように、あくまでヒル魔の言葉に乗っかって揶揄しているかのように。女を落とす時みたいに後ろから肩を抱き、指で首筋をなぞって耳元で甘ったるく囁いた。ヒル魔は一瞬ピクリと身を震わせたが、名刺からは目を離さない。ヒル魔の記憶力ならここに載っている情報くらいとっくに覚えているだろうに。
    「色々忙しいんだよ。部活がやっと軌道に乗ってきたとこでな」
    「……? 部活ぅ?」
    流石に聞き間違いだと思った。
    例えば他に協力者ができたとか、違うおもちゃが手に入ったとかそんな答えを予想していたのに、よりにもよって部活動だと。そんな健全な学生らしいこと、この悪魔には笑えるほど似合わない。ヒル魔なりのジョークに阿含は思わず嘲笑した。
    「へえマジかよ、野球かバスケか? まさかお料理クラブとか言わねえよな?」
    「アメフトだアメフト。つか言ってなかったっけか、俺がこんな七面倒臭えことしてんのは全部アメフト部のためだって」
    その一言で表情が凍りつく。興醒めだ。僅かに残っていたおかしみも一気に冷めた。
    ヒル魔は阿含のジェットコースターさながらの心情の変化などお構いなしで呑気に話し続けている。

    「あ、テメーもやるか? まだ人数足りねえんだよな。学校違うけど試合の時だけ細工すりゃバレねえし」
    「勘弁しろ。仲良しクラブでアメフトごっこってガキかよ」
    「中坊なんだからガキには違いねえだろ」
    「……んな楽しいのか」
    「ああ、すげー楽しい」

    ダン、と鈍い音が部屋に響き渡る。
    今まで聞いたこともない弾んだ声が耳に届いて、次に気がついた時にはヒル魔の腕を掴み、力任せに引っ張って壁に押し付けていた。シーツの上の名刺達が吹っ飛び、バラバラと床に落ちる。静けさの中で聞こえる誰かの荒い息は、ヒル魔ではなく阿含自身のものだった。
    仲間との部活だとか青春だとか、そんなくだらないものに夢中になるヒル魔も、それに利用されていただけの自分も気色悪くて吐き気がする。
    ヒル魔は突然の暴挙に顔を顰めるでもなく、片眉を少し吊り上げただけで阿含を見た。

    「何だ、本気で虫の居処悪いのかよ。我儘バブちゃんはどうしたら機嫌直してくれんだ?」
    「……分かんだろ。俺のこと、よく知ってんなら」
    「ハア、しゃーねえなあ。明日も練習あんだから、優しくしろよ?」

    吐息混じりに聞こえるのは、呆れながらも阿含を甘やかしてくる、いつものヒル魔の声だ。それは自分が少なからず特別である証だと、ずっと思っていたのだが。
    ヒル魔にとっては大切な物のためなら身体を差し出すくらいのことはできるという、ただそれだけのことだったのだろうか。

    それならお前は何も分かってない。俺が欲しかったのはそれじゃない。
    抵抗もなく、慣れた手つきでカチャカチャとベルトを外していくヒル魔を見て何故だか泣きたくなった。
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