「……おい」
(いやぁとうとう家まで来てもうたでしかし…)
「おい、着いたぞ入れや」
(けど付き合っとる言うてもなぁ、左馬刻昔と様子変わらんやん、もしかして俺と恋人なるとか適当にポーズしとるだけちゃうんか?もしや新手のギャグ?)
「なにブツクサもたついてやがんだ」
「なぁ」
「あ?」
「おまえほんまに俺のこと…す、す…ゴニョゴニョ…」
「あぁ?いいからさっさと入れ!」
「あいで!!ケツ蹴るんはやめぇ……お…お邪魔しますぅ」
「なんでンな恐る恐るなんだよ」
「いや…なんや緊張してもうて…」
「はッ…昔は勝手に事務所ズカズカ通ってやがっただろーが」
「そっそれは…またちゃうやろ、事務所とおまえんちはちゃうやろ!」
「俺んちで意気揚々と合宿しやがったのはどこのどいつだよ」
「あったな〜〜それ!」
「かしこまったところでテメェのキャンキャンした性格は割れてンだから適当にくつろいどけや」
「……へへ、おまえは相変わらずフォローが下手やなぁ」
「あ?ったくニヤニヤしやがって」
「はぁん?俺かてキリッとした顔出来るし、見てこれ二枚目の簓さん」
「……何が違うんだよ」
「えっ!?この鋭い眼付きの機微が分からんとは…あれ?俺さっきなんか話してなかった?なんか忘れとるような…」
「メシは要らねぇんだったよな」
「あ?あぁ…せやねんけど…」
「軽く食うか?」
「ええの?」
「マグロがやたらあんだわ」
「ほー!なんや他所からお裾分けでももろたん?」
「食ってくれると助かる、切り身にしちまったけどよ」
「……いや量ヤバ、冷蔵庫鮨詰めやん……なぁまさかマグロ漁船!?金出せねぇなら太平洋でマグロ獲って来いやぁぁってか!?」
「……まぁそんなとこだわ」
「あら?おたくってソッチの?ヤのつく職業でいらっしゃる?」
「何言ってっか分かんねぇなあ」
「うへ〜マグロ漁船流しって都市伝説やなかったんや」
「心配しねぇでもその借金ミノムシ野郎は五体満足でコミュ力上がって帰ってきたわ」
「なんでマグロ獲ってコミュ力上がんの?おもろ…」
「なんだっけか…大海原でなげー間漁船に閉じ込められっからコミュニケーションが大事らしいんだと」
「へ〜知らんかったわ」
「米は?」
「ん、ほしいな」
「そこ座ってろ」
「テレビごっつ……なぁなぁ俺が出てるの観たりするん?」
「………」
「なんで黙るんや!なにかしらあるやろ!」
「観てるっつーか、テレビつけたら大体テメェ出てんだろーが」
「まぁ、ありがたい事には…でも今は左馬刻だけの生の簓さんやで!」
「………」
「せやからなんで黙るねん!なんかゆって!」
「へーへー…んとにテメェはよぉ」
「?」
「おらよ」
「いやいやいや」
「んだよ」
「なんで男の一人暮らしでアボカド常備やねん!インスタ映えか?料理動画でも撮ってんのか?」
「それもシノギのつてで貰ったんだわ」
「アボカドくれるとかどんなシノギやねん。じゃあこの温泉玉子も?それ大丈夫なシノギ?前どっかで告発されてへんかった?」
「シノギに大丈夫も大丈夫じゃねぇも無ぇだろうがよ…まぁ蒸し卵のシノギは……あるわ……内緒な」
「内緒て」
「けどそれは今作った」
「温玉って一瞬で作れるもん???」
「いいからさっさと食えや」
「おおきにいただきまーーーす……えっうまーーーやば!!この弾力のある食感と思いきや口の中で溶ける柔らかさにマグロのしっかりした風味と仄かな甘み、主張しすぎないわさび醤油がマッチして」
「急に食レポすんなこえぇわ」
「すまんな職業病や…けどほんま美味い!」
「今朝捌いたからな、舎弟が」
「いやでも左馬刻のこのよそった控えめな米とマグロとアボカドの比率に温玉の火加減具合が…」
「乗せただけだわ」
「なははは」
「俺もなんか食うか、見てたら腹減ってきた……簓酒飲むだろ」
「おお……」
「待っとけ」
「しっかしまた左馬刻のおる家でメシ食うて酒飲めるようになるとはなぁ」
「なんか言ったかよ」
「なんも!……はー相変わらずキッチン立っとるんもサマになっとるなぁこの男、サマになる左馬刻さま…いうて…くふふ」
「なぁ簓部屋寒くねぇか?」
「寒ないわ!!」
「なんで急にむくれててんだよ…?」
(……付きおうたは付きおうたけど、あの頃と変わらへんもんな。なんやするでもないし。それは楽しくてええんやけど…俺だけ緊張してんのは絶対俺の方が惚れた弱みやんなぁ…)
「ちゃんと食ったじゃねえか」
「あ……うん、ご馳走さん!」
「どうしたよ」
「へ?」
「顔、二枚目になってんぞ」
「え?あ、イケメンってこと?俺はいつも二枚目やんかぁ」
「馬鹿ちげぇ……なんか考え事かよ」
「ちげぇってなんやねん!……えーっと、おまえ俺と付き合うとるやん?」
「おう」
「……」
「なんだよ」
「あ、いや、見る目がええなぁって思ってな…?」
「ははっそんな眉間に皺寄せて考えることかよ」
「わ、笑うなや……ちゅーかおまえなんなんそれ間違いないもん作りよって…マグロの炙り焼きとビールとか…」
「マジで山のようにあんだよ……なぁおまえんとこのセンコーマグロ食うか?」
「へ、盧笙?食う食う!くれんの?」
「冷凍で送るわ」
「じゃあ俺また盧笙んとこで食うわ」
「おまえ相変わらず入り浸ってんのな」
「零もおるから安心してな♡」
「仲良しで何よりだわ」
「ん、なんやそれ」
「岩塩とバター」
「シェフなんかな???」
「おら」
「そこはアーン♡って言って欲しいところやな」
「オラァ食えや」
「ちょぉアッ危なっ!ドアホ!!怖い!!声がいい!」
「なんつった??」
「炙りもウッマ……左馬刻もしかして機嫌ええ?いい事でもあったん?」
「あ?……いい事っつーか」
「ん?」
「今日はスケジュール押しててやべぇって言ってただろ」
「あれ?もしかして俺が忙しいから今日は会えへんと思ってたん?」
「……そうだよ。なんか面倒事でもあったのか」
「そう!ちょぉ聞いて!?いつものHテレに行ったらな…」
(ん?じゃあ俺に会えたから機嫌いいって事なんか…?)
「そりゃ災難だな」
「せやろ、えらいこっちゃやで」
「まぁ沈める用のコンクリが欲しかったらいつでも言えや」
「俺の後ろ盾怖すぎるやんけ」
「冗談だわ」
「こ、これがヤクザジョークか…俺も学ばなあかんな…」
「やめとけ怪我すっから」
「へへ、やっぱおまえに会えると元気出るなぁ」
「……泊まってくだろ」
「え!?ええの?」
「あ?放り出すわけねぇだろダボ」
「そ、そか…」
「なんでそこでまたかしこまんだよ」
「いやぁ…はははは…」
「……つーか慣れてくんねぇと」
「ん?なにを?」
「…なんでもねぇわ。風呂、沸かしてくっから」
「お…おん」