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    am_sk22

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    am_sk22

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    ミスラと賢者♀ 何も始まっていない二人
    星影と言の葉と祝福の儀のカドスト後(※カドスト等ネタバレ有)
    一部設定、性能を捏造しています。

    #ミス晶♀

     目を開けると一面の空であった。少し明るくなってきているが日はまだ見えない。

     記憶を遡るのには時間がかかった。死の湖にて儀式が終わったのは夜遅く。そこからミスラが眠りについて、私もいつの間にか寝てしまっていたらしい。起き上がって周りを見渡すと、寝そべってこちらを見ていた視線とぶつかった。
    「おはようございます」
    「ミスラ、おはようございます。あまり眠れなかったんですか」
    「三回までは寝られました」
     私が寝ている間も、起きては手を握ってを繰り返していたらしい。よく見れば手はミスラのものと繋がれたままであった。これは四、五回目ということだろうか。
    「ミスラ、寝てしまってすみません。あの、扉を魔法舎に繋げてもらっても良いでしょうか。儀式をすることしかみんなに言ってないので早く戻らないと」
    「別に良いでしょう。いつもここに来る時はもっとゆっくりしてるじゃないですか」
     儀式をする前は一刻も早く帰ろうとしていたのに、眠れた途端にこれだ。そう、この湖に来ると何故か時間の流れが早い。極めつけはどちらかが眠ってしまう。ついつい長居をしてしまうのだ。今回に至っては二人とも寝てしまった。
     そこをなんとかと散々お願いし倒したところで、ようやく扉を出してもらえた。


     扉で戻ってきた先はミスラの部屋であった。
     入眠に付き合うとは言ったが、その後にミスラは眠ることが出来たので予約とやらは反故になっても良さそうだった。てっきり自分の部屋に戻されると思っていたこともあり、部屋を出ていくタイミングを計りかねていた。
     ミスラは戻って早々に自分の服をいつもの服に戻し、そのままベッドにゴロンと仰向けになった。着替えたのは皺になるからではなく、単に早く脱ぎたかったからであろう。
     スノウとホワイトが彼に儀式の衣装を着せるのに苦労していた光景を思い出した。魔法で着替えさせる手もあったが、抵抗があればそのまま魔法での殴り合いに発展する可能性が大いにある。ミスラ自身に着替えてもらうしかなかったのだ。他の魔法使い達の儀式では髪型を変えたり髪飾りを付けたりする余裕もあったが、ミスラに関しては服を着せるのがやっとといった様子であった。
    「誕生日って面倒くさいんですね」
     ミスラが横になったので、もう自分の部屋に戻っても大丈夫だろうかと扉の方に近づくと声がかかった。振り向いて見たミスラは目元を腕で覆っていて、表情は見えない。
     前回の誕生日の、「誕生日だから」と周りが寛大になる空気を大いに楽しんでいた彼をふと思い出した。
    (今年の誕生日を、ミスラは楽しめただろうか)
     誕生日に窮屈な思いをさせてしまったかも知れないことに、なんだか申し訳ない気持ちが湧く。そっとベッドに近づき、いつも寝かしつけの時に座る椅子に腰を下ろした。
    「誕生日ではないですけど、私の世界でも節目にきちんとした衣装を着て臨むイベントはありました」
     着替えてどこかに行ってしまったミスラの儀式の衣装を思う。舟の上に寝そべったままの進行になってしまったが、どこか神聖な気持ちになれたのはあの服のおかげでもあった。私にも覚えがある。
    「成人式に、あとは七五三」
     ミスラを着替えさせて連れていくまでの騒動を考えると、七五三の方が近いような気がして心の中でクスリと笑う。
    「しちごさん?」
     まだ目元を覆ったままではあるが耳は傾けてくれているらしい。
    「数字の7,5,3と書いてそう読むんです。私も調べたことはないので詳しくないのですが、子どもがその年齢の時に健やかに成長することを祈って行う儀式だったと思います」
    「・・・へえ」
     分かっているのか分かっていないのか、興味がなさそうな様子はいつものことだった。
    「私も七歳の時に七五三をやったのですが、珍しい衣装を着られることよりも千歳飴が食べられることの方が嬉しかった気がします。今回の儀式も祝いのお菓子みたいな物があっても良いかもしれませんね」
    「何でもよいですが、腹が膨れるのは良いことです。今食べたいな、その…」
     ミスラが話を始めてからはじめて上体を起こした。お腹が本格的に空いてきたのかもしれない。
    「千歳飴ですか?今は、さすがに持ってないですね」
    「ちとせ?」
    「ちとせは年齢の千歳(せんさい)と書きます。いつまでも健康で長生きできるようにという意味でしょうかね・・・」
     自信がなかったので千歳という言葉から思い浮かぶ意味を並べた。お祝い事の祈りならばその辺が相場であろう。
    「ふーん、千歳なら俺の方が長生きです」
    「・・・そうですね。なので、ミスラやみんなには必要ないものかもしれません」
     それは自分と、魔法使いの彼らの違うところだ。同時に少し寂しいところでもある。
     しかし、私と彼らが違うからこそ自信が持てる。役目が賢者というだけで、彼らの自分に対する態度は他の人間のそれとは違う。私も他の人間よりも少しだけ多く彼らのことを知っているというだけ。それでも、このコミュニティが上手くいっていれば、他の人にも自信をもって「共生出来ます」と言える。もしも私が彼らと同じであったら「貴方も同じように歩み寄れます」とは言えないだろう。私が生きている間、いや、この世界にいる間にどこまで出来るかはわからないけれども。
     だから、私と彼らの違いは歓迎すべきものであった。

     少し気を張った顔をしていたのかもしれない。
    「賢者様」
     そう呼びかけられた。顔を向けるとミスラが人差し指を立てる。指先にコロンといつものシュガーが現れた。
    「これですか?」
    「え?」
    「ちとせあめ」
     どうやら千歳飴を自分のシュガーで作ってくれる気らしい。
    「ミスラ、作ってくれるんですか?」
    「いいから、教えてください」
    「あ、えっと、千歳飴はもっと長くて…」
     言っている傍からミスラの指先のシュガーが、一直線に上へと伸びた。
     棒状に伸びていくそれを私は黙って見つめた。ミスラもまた視線を外さずに見ている。時にはノールックで魔法を発動するような人だ。そんな風に魔法の対象に視線を注ぐ彼を近くで見るのは珍しかった。ここにはオズも北の魔法使いも、本気を出すような相手はいない。
     気がつけば、ミスラの指から伸びたそれは木刀ぐらいの大きさになっていた。
    「これでいいですか」
    「えっと・・・近い、かも?」
     明らかに大きすぎるが強く訂正することでもない。長くて、細いという説明を伝える前に目の前の光景に釘付けになってしまったこちらの落ち度だ。
    それをはいと手渡され、目を白黒させてしまった。
    「ミスラが食べたいんじゃ・・・」
     てっきりミスラが食べるものと思っていた。
    「長生きの俺には必要ないんでしょう」
     言って欠伸をする。食欲と睡眠欲が行ったり来たりしているようだった。
     渡されたシュガーの塊は氷砂糖のように表面がサラサラとしていて、触り心地が良かった。
    (ミスラには必要ない。私は・・・)
     シュガーを持つ手に思わず力が籠る。ミスラがくれる物なら貰いたかった。気まぐれに、自分の誕生日だというのに差し出してくれる物に。
     元の世界での千歳飴による健康や長生きへの祈りはあくまで祈りだ。
     しかし、ミスラのこれは違う。
    (だってこれは・・・魔法使いの、どこかに行きたいと思っているうちに空間移動魔法ができるようになってしまうような人のシュガーだ)
     祈りとまではいかないまでも、私の話を聞いたミスラがどんな意図で、どれだけの力を込めたのか分からなかった。もしこれが祈り以上の力を持つものであったら。
     今はまだここにいたい。でも漠然と私はいずれ元の世界に帰るだろうと思っている。その世界で誰も対処できない現象に見舞われるところを想像した。今の私にはそれに口を付ける勇気も決意もなかった。それをどうやって切り出せばよいかと心が曇る。
    「ミスラ、ありがとうございます。これは部屋に飾って・・・」
     食べられないけど貰っておきたいなんて、そんなことは許されるだろうか。
    「今、食べないんですか」
     まあ、許されなかった。
    「えーと、今じゃないとダメですか」
    「はい」
     即答に強い意思を感じる。
    「~~~~っ!!どっちにしろ、こんなには今食べきれないですし」
     もう少し上手い言葉はないのだろうかと思いながらも、訴えるくらいしか出来なかった。
    「じゃあいいです」
     ミスラの手が差し出される。返して欲しいという意味だろうか。何が正解かわからないうちに、私はシュガーを彼に渡した。相手の意図通りのことをせずに貰うだけというのは虫が良すぎたのだろう。ミスラは受け取ったそれをベッドの空きスペースに放った。
    「あなた、さっき変な顔していましたよ」
    「・・・え?え、なんで魔道具取り出すんですか?!」
     シュガーを目で追っていたら、ミスラの言葉を聞き漏らしてしまった。だというのに、予期せぬ事態が追究を許さない。
    「なんとなくです。オズのところに行ってこようかな。オーエンとブラッドリーでもいいです」
    「ま、待ってください。もし何か怒っているなら私に怒って下さい」
     ミスラが目を見張ったまま止まる。
    「ミ、ミスラ?」
     時間が急に止まったような彼に、心配になって声をかけてしまった。
    「《アルシム》」
     急に出現したドアの扉が開かれる。向こう側は一面の雪景色であった。そのまま閃光を片手から放つとミスラは扉を閉める。完全に閉まってしまう前に何か巨大なものが崩れる時の音がした。
    「え・・・ええ?!ミスラ、今なんか破壊しました?破壊はやめてください!」
    「うるさいですね。あなたが壊れた方がいいんですか」
     今まさに魔法を放った手で頭を鷲掴みされて小さな悲鳴が出る。声に反応したのか、力がゆっくりと緩められていく。こちらもそれに合わせて力が抜けていった。
    「・・・私、壊されるところだったんですね」
     人か物かの境もなく。
    「はぁ、そうです。感謝してください。それにしても、俺に怒って欲しいなんて・・・そんなこと言う人間いませんよ」
     あなた、西の魔法使いかオーエンですか。そう言って、再びストンとベッドに腰を落とす。魔道具はいつの間にか消えてしまっていた。
    「別に怒っていませんし、それにあなた弱いでしょう」
     俺が怒ったらひとたまりもありませんと呆れた顔をされる。
     怒っていたような気もするが、ではあれはどんな感情だったのだろう。わかりにくい。気がかりだったことは他にもある。千歳飴だと言ってシュガーを作ってくれた時の真剣な表情だ。そして、それを私に渡してくれた理由。断るにしても、やはりそこから話を始めなければいけなかった。
    「ミスラは・・・私に千年生きて欲しいんですか?」
     別に肯定を聞きたいわけではない。意図を探すための最初の質問であった。突然の話の転換にミスラは少し考えるように顔をそらした。
    「・・・そんなこと考えたことありません」
     だから、彼の返答にも驚かなかった。むしろ、浮かび上がったのは安堵だった。
    「私もです、ミスラ。私も千年なんて考えたことがなくて」
     ミスラにその意図がなければあの表情への不安は杞憂だったのだろうか。いや、念には念が必要だった。誰もが自分の思いや感情をすべて把握しているわけではない。特にミスラに関してはそれが顕著であった。
    「でも、賢者様の世界では長生きで健康な方が強いんでしょう」
    「それは確かに強いですね。でも変なこと言っているとは思うのですが、みんな長生きで健康になりたいと祈ってはいますが、祈るだけでそうなれると本気で思っているわけではないですし、その長生きにも限度があるんですよ」
    「・・・よくわかりません」
    「上手く説明できなくて、すみません。でも、ミスラは違いますよね。思うだけでそうなれる、そうさせる強さがあります。ごめんなさい。ミスラが強い魔法使いであるからこそ、もらったシュガーを食べるわけにはいかなかったんです」
     これが今の私の精一杯の言葉だ。言葉は、思いは伝わるだろうか。最後は緊張して顔が見られなかった。下を向いたまま顔を上げられずにいる。
    「わかりました」
    「ミスラ!」
     嬉しくて顔と同時に声を上げてしまった。
    「つまり賢者様は俺の強さに恐れをなしているということですね」
    「え、あ、はい。そういうことになりますかね・・・」
     はっきりとしない返事に少しだけ不満な顔をされる。
    「まあ、いいでしょう。これはやはりあなたにあげます」
     あの兄弟も俺がいれば千年くらいは生きるでしょうから必要ありませんし、と放ったシュガーを再び回収しこちらを見る。意図を察しおずおずと両手を差し出すと、そこに乗せられた。

     一度手放したものが手の中に戻ってきた。
    「これ・・・私がミスラに貰えなかったら、どうするつもりだったんですか?」
     問えば彼は視線をそれに向ける。
    「そうですね。ここで処分すると、俺の部屋も一緒に消えて無くなるかもしれませんので。あとでオズの部屋に投げ込もうかと。ああ、やっぱりそうしようかな」
     雲行きが怪しくなってきたので自分の体の後ろにシュガーを隠した。シュガーを持つ手が震えてしまうのは不可抗力だ。そんな高エネルギー体の食べる食べないの選択権を自分は握っていたという事なのだ。それほど力を込めていてくれたという事でもある。一体どんな事が起こるか分からない。
     ミスラが槍投げと同じ動作でオズの部屋にこれを投げ込むところを想像する。消滅する部屋、そしてきっと魔法舎。
    「賢者様が投げ込んでくれても良いですね」
     さも名案のように言うミスラは今日一番良い表情をしていたかも知れない。
    「え、いや、それはちょっと・・・」
     断る言葉はもごもごして聞こえなかったのだろう。さらにスッと目を細められる。
    「賢者様は鈍くさいですから、誤爆に気をつけてください」
     あまりにも内容が物騒で優しさの判定が難しい。止めてほしい。忠告してくれただけマシなのだろうか。
    「これってもしかして、山が吹き飛ぶやつですか」
    「吹き飛ぶやつかもしれませんね。俺が作ったので」
     誇らしげである。やはり魔法舎の安寧のためにも私が貰っておいて良かったと思った。


     最後はいささか機嫌を取り戻したミスラを残し、シュガーの塊を抱きながら廊下に出る。先ほどの話を聞いたので足取りは慎重だ。
     順調だった。階段でばたりと一人の魔法使い、オズに出くわすまでは。
     まだ人が動き出す前の時間。自室にいる時間が長いオズに会うことは珍しかった。何をしていたのかも気になったが、それよりも今一番後ろめたい人に会ってしまったという気持ちが強かった。特に何もしていないけれども。
    「おはようございます、オズ」
    「・・・おはよう」
     挨拶を返しながらもオズは私の持っている物をジッと見て眉を寄せる。何も言われていないのに、どこか責められているような気持ちになる。
    「あのオズ、ミスラへのお祝いの言葉、ありがとうございました。オズの言葉、格好良かったです。ミスラも・・・」
     喜んでいたとは言えない反応を思い出して言葉が止まる。
    「何か・・・」
    「え?」
     はっきりと聞き取れなくて聞き返す。オズが目を伏せながら繰り返した。
    「何か困ったことがあれば、言え」
     そのまま立ち去ろうとする。このシュガーのことを言っているのだろう。てっきり他にも何か言われるかと思った。オズに出会った瞬間、ここで手放すことになるかも知れないとも思った。立ち去る背中に声をかける。
    「オズ、待ってください。これって私が持っていて良いものですか?」
     振り返ったオズが再び目を向ける。少し思案しているようであった。
    「・・・あれの魔法は何度も見た。どれも禍々しいものばかりだ」
     誰のものとは言わない。それでもオズはわかっている。死の湖を見たオズが汚れていると言っていた。ミスラの魔力の気配も好むものではないのだろう。
    「だが、それは今までの魔法とは少し・・・異なるように見える」
     まっすぐ見据えられる。彼の意外な言葉に驚いて、私はギュッと持っている物を握り直した。そして今度こそオズは去ってしまう。

     山を吹き飛ばすというからどんな恐ろしいものかと思った。でもオズに取り上げてしまわれる物でもなかった。一体ミスラはどんな魔法を込めたのだろうか。
     ますます謎になった物体を抱えながら自室に帰ってきた。
    「…どうしよう、これ」
     私はミスラがシュガーをベッドに放ったシーンを思い出して身震いしながら、それを自身のベッドの上に慎重に置いた。
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